コメントに質問をいただいたので、答えに合わせてここでも紹介をしてみよう。高校生の語数は平均でいくつか。まず、>ある書に、「少し古い資料だが1948年に国立国語研究所(当時)が高校生15人について調べた理解語彙数は、平均3万余りであったという結果があります。成人はこれよりも多く4万程度といわれています。」とありました。 国語研究所の設立年から、語彙調査1948年、高校生15人、理解語彙平均3万余り、というのは、よくわからないですね。次いで、どのように調べたのでしょうか、というのは、調査方法はきわめて原始的に行われることになる。調査15人が、語の数を、平均の数においてどの程度を表すかは、微々たるものかもしれない。これは、一人の語の数としても同じことが言えて、こう調べたらこうなりましたよ、そのとらえ方で受け止める。現在だと3000人ぐらいを対象に電算処理できるようにやるけれど、これも、調査そのものは協力者が地味なことをやっている。ある結果が出始めると、それが繰り返し言われるようになるので、そんな数字が調査にある、となってしまう。それだったら自分で数えるかと、辞書にチェックすることになったりもする。
次は、論文に引用されている。高校生15名の調査とその結果である。原文によって、国語研究所の報告を見ると確かである。
この方法について引用者はコメントをつけているが、結論でも同じく言及して、荻原 廣氏は、
>以上のことから考えると、個人の理解語彙、使用語彙の調査は、
①内省法で調査する。
②全数調査で行う。
③各語の横に意味をつけたもので調査する。
というのが最も良い方法だと思われる。
と述べている。この内省法とは、調査の信憑性を高めるためには、ちょっと想像しただけでも、もし3万語を一つ一つに行うのは、とてもたいへんだ、全数で時間と労力がかかるのは調査後の集計であって、いまのようにコンピュータが利用できればやりやすいように見えるが、それで、さらに大変である。それそれに語彙調査の結果を出した人には、プライオリティーが与えられるということであろう。
https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/KG/0021/KG00210L001.pdf
日本人の語彙量 (理解語彙、使用語彙)調査を行うにあたっての基礎的研究
荻 原 廣
>
3―4 森岡健二の語彙量調査
森岡(1951)は、義務教育終了者がどれくらい理解語彙を持っているかを知る ため、内省法を使い、次のような調査を試みた。
1)被調査者 東京精華学園高等部に新たに入学した15名(実施前に準備調査を行った 時は17名だったが、希望により1名を加えて18名となった。しかし、事故 1名、病気2名を生じ、最終的には15名となったとある。)
2)調査時期 1950年7月20日から11月末日まで
3)調査方法 竹原スタンダード和英辞典所載の見出し語をすべて印刷(384頁)して 検査語彙とし、附印法と関連語の記入とを併用する形で調査した。記入法 は、以下の(1)(2)の通りである。
(1)知っているか、いないかについて次の符号をつける。
○ よく知っていていつも使っていると思う語
ν 聞け・読め ば意味がわかると思う語
△ 聞いた・読んだ ことはあるが意味のはっきりしない語
× ぜんぜん分らない語
(2)問題の語に、関係のある語を書き入れる。
すなわち意味・言いか え・反対語・同類語その他連想などによって思いついた語を書き入れる。
例1)○カワ(川・河) 山 水 小川
例2) νケンビ(兼備) 名 才色
例3)△カワウソ(川獺)
例4)×ケンカ(鹼化)
なお、附印法だけでなく関連語を記入することも要求したのは、以下の 4つの理由による。
第1に理解が正しいか否かを検するため。
第2に誤っ て印をつけることを防ぐため。
第3に検査の単調を破り興味をつなぐため。
第4に竹原の辞書にのっていない語を導く手掛りを得るため。
4)調査結果 符号のうち、○と νとを理解語とし、△と×とを理解されぬ語として 取り扱うこととした。
その結果、理解語(○ ν)の最高は36330語、最低 は23381語、平均は30664語であった。
なお、15名から回答を得た検査語彙 の正確な数字は37970語である (17) 。
しかし、この数は、ミスプリントの校正 漏れの語があって削除した後の数のため、厳密にはスタンダー辞典の見出 し語の数とは一致しない。
5)問題点
森岡は、「竹原スタンダード和英辞典が検査語彙として適当か、それで 現代日本語の生きた語彙を一応網羅しているかどうかということは、和英 辞典の性質として一応現代日本語の生きた語を採録してあるものと見て用 いただけであって、この吟味は今後に残された問題である」と述べている 。
また、検査語彙の数が37970語という点も問題が残る。
これは、義務教 育終了者が対象なので、この程度でもよかったとも推測されるが、一方で、 理解度が最高(36330語)であった被調査者は、検査語彙の95.7%も理解していたこととなり、これがもっと検査語彙が多ければ、更に理解語彙が 増えていた可能性も否定できない。
とはいえ、この調査は竹原スタンダー ド和英辞典所載の見出し語を全て検査語彙とする全数調査であり、検査語 彙の多さは、他に例がなく、被調査者数は少ないながらも、精度の高い調査と言えよう。
(16) 森岡健二(1951)「義務教育終了者に対する語彙調査の試み」『国立国語研究所年報2』国立国語研究所 p96
(17) 森岡健二(1951)「義務教育終了者に対する語彙調査の試み」『国立国語研究所年報2』国立国語研究所 p100
(18) 森岡健二(1951)「義務教育終了者に対する語彙調査の試み」『国立国語研究所年報2』国立国語研究所 p100