痛みを表現するオノマトペを調べているうちに、方言ではどうなるか、というコラムを見て紹介しよう。
ふつうには、わたしたちは痛みを表現するときに、きりきり、しくしく、ひりひり、ずきずき、といったオノマトペを使っている。
方言の中には、痛さを表現する動詞によって、どのように痛いのか、どこが痛いのかがわかる地域がある、として、にがるといえば、腹痛のことだそうだ。
おなかがにがる、この言い方で、腹痛よりも、調子が悪いときのようである。
これは、中国地方のこと、ついで、この地方ではまた、はがはしる、というのだそうだが、にがる、はしる、それだけでは表現になるのか、ならないのか。
サイトでは、腰痛、擦り傷と、部位がわかると言いながらも、用法が広がっている。
また、あたまがわるい 、のうがわるい、という例があって、これは単に、わるい、というのを頭にも脳にも使うというようなことだけれど、なんだかわからない。
第18回 ところ変われば痛みも違う?
http://www.web-nihongo.com/wn/k_hougen/profile/profile.html/
> 「あがっ!」。突然の叫び声。沖縄出身の友人が机の角に足の小指をぶつけたらしい。この「あがっ」は、沖縄で、体の一部を何処かにぶつけたり指を切ったりなど、とっさの痛みのときに思わず口から発する感嘆詞だ。この「あがっ」にまつわる情報を各方面で今回の一枚:クリックすると大きくなります探っていたら、あったあった、見つけましたよ“あがっラー油”!!沖縄産ハバネロ使用とあり、かなり辛い代物のようだ。宣伝文句から推測するに、「辛いを超えて痛いほど」というニュアンスをこめたネーミングらしい。
瞬時に発することばにもかかわらず、福岡、佐賀、長崎、熊本では「あいた~っす」とソフトな表現になる。自分で叫びながらも、痛みを和らげようとの意識が働いているのだろうか。
さて、共通語では、痛みを表現するときに、きりきり、しくしく、ひりひり、ずきずき、といった擬態語を駆使している。「きりきり」と言えば「お腹」、「ずきずき」と言えば「頭」というように、多くの擬態語は痛い部位とも対応している。しかし、方言の中には、痛さを表現する動詞によって、どのように痛いのか、どこが痛いのかがわかる地域がある。
広島、山口など中国地方で使われるのが「にがる」。「お腹がにがる」と言うと、ずしーんと重たい感じのする鈍痛を表す。痛いというよりはお腹の調子が悪いという感じだろうか。「にがる」自体は平安時代の文献から用例が見られるが、当時は「苦々しく思う」「苦々しい顔をする」という意味で使われていた。まあ、鈍痛が長引けば苦々しい顔にもなるだろう。
共通語で「痛みが走る」という言い方をするが、中国地方では歯痛を「歯がはしる」と表現する。「にがる」が体の内部でじくじくと感じる痛みだとすれば、「はしる」はむしろ体の表面に近いところの鋭い痛みを表すようだ。だとすれば、腰痛は「にがる」、擦り傷による痛みは「はしる」と使い分けるということだ。
広島、山口の「頭がわるい」も鈍痛を表す。「頭の具合が悪い」ということだろうが、それにしても、風邪を引いたときに「頭わるいの?」と聞かれてうなずくのも複雑だ。「脳がわるい」という言い方もあるようだ。
ところで、北海道、東北、北陸や沖縄では、「昨日は頭がやんでひどかった」、「虫歯で歯がやめる」のように「やむ」、「やめる」を使う。平安時代に「傷が痛む」意で登場する古語の「病む」が周圏分布として残っているのだ。
もう少し、たしかな表現があるかしらと、サイトをヒットさせて、次のようなのがあった。
痛みとことば
言語生活 P92,93 掲載文
昭和54年1月1日発行
>病棟及び外来で集録したものに次のような表現がある。
A 擬音に類した表現として
①ドーソと ②ニカニカ ③ニカーと④キリキリ ⑤キーソと ⑥キューンと⑦キューと ⑧チクチク ⑨チクーと⑩ズキンズキ ⑪ズキーンと ⑫ズキズキ ⑬ジンジン ⑭ピクピク ⑮シクシク ⑯ジクジク ⑰ピリピリ ⑱ヒリヒリ ⑲ガンガン ⑳ジワジワ 21.ジンワリ 22ザックザック
B 動作に関係した表現として
①おしつけられるような ②しぼられるような ③しぼるような ④しめつけられるような ⑤かみ切るような ⑥ひっぱるような ⑦ひっぱられるような ⑧ 刺すような ⑨刺しこんでくるような ⑩突き刺すように ⑪えぐるように ⑫もたれるような ⑬割られるような
C 現象象を表わす表現を用いたもの
①焼けるような ②焼けつくような ③脈うつような ④つまったような ⑤つまるような ⑥にえるように 、⑦にえてくるような ⑧ちぎれるように ⑨ちぎれていくように ⑩割れるように ⑪突き抜けるような ⑫燃えるような ⑬張るような ⑬電気が通ったような
D その他
①重苦しい ②うずく ③重い感じの④にぶい ⑤しこりのような
ある日、診察室で患者が医師に言いました。 - オノマトペラボonomatopelabo.jp#:#http://onomatopelabo.jp/medical/column/column2_1/column_02.html
onomatopelabo.jp/medical/column/column2_1/column_02.html
日本各地の「痛みのオノマトペ」
さて、最後の診察室は沖縄県首里です。患者が医師に言いました。 「耳ぬひっすいひっすいすん。」…耳に水が入ってすぐ? いいえ、「耳がひりひりする」という意味です。「ひっすいひっすい(すん)」は「表面がひりひり(痛む)」という意味を表す首里方言のオノマトペです。
オノマトペとは,擬音語・擬態語などの総称です。たとえば、チリン(風鈴)、ワンワン(犬)などのように実際の音や声を模す擬音語・擬声語と、キョロキョロ(目玉)、ジトジト(湿度)などのように動きや存在の様子を表す擬態語があります。世界の言語の中でも、日本語(共通語)の擬態語のバラエティは特徴的と言われていますが、とりわけ方言の擬態語は、語形も意味もバリエーションが豊かです。
オノマトペには、身体の違和感や痛みを表す表現がたくさんあります。共通語では、痛みをシクシク/キリキリ/ズキズキなどと表現することがあります。外国で病院にかかったときに日本語ネイティブが使いたくなる表現なのだそうですが、日本語がわからない人には通じません。
同様に、方言にも痛みを表す独特なオノマトペがあります。たとえば次のような表現です。
「へながーえかえかずー。」
背中がちくちく痛む。(岩手県)
「腹がにやにやする。」
腹が鈍く痛む。(山形県)
「背中がしかしかしてかなんわ。」
背中がちくちくと痛くてだめだな。(京都府)
「日に焼けて肌ぁひかひかしる。」
日に焼けて肌がひりひり痛む。(石川県)
「こりょー食べると喉がかやかやする。」
これを食べると喉が痛む。(静岡県)
「歯がさくさくする。」
歯が痛む。(徳島県)
「お腹がにしにしする。」
お腹が痛む。(香川県)
「腹がじかじかしだいた。」
腹が痛み始めた。(高知県)
「喉のしゅんしゅんすっ。」
喉が染みて痛む。(佐賀県)
「頭がはちはちする。」
頭が割れるように痛む。(長崎県)
「ちぶるぬがんないがんないすん。」
頭が割れるように痛む。(沖縄県)
さあ、診察もそろそろ終わりに近づきました。共通語なら「お大事に」と言って患者を送り出すところですが、これにも方言があります。では、どうぞお大事に。
「お体を おじやいなひて。」
お体をご自愛なさって。(和歌山県)
「どーぞ ためられない。」
どうぞお大事にね。(岐阜県)
「あちゃ おだいじなさーい。」
ではお大事にさってください。(群馬県)
ふつうには、わたしたちは痛みを表現するときに、きりきり、しくしく、ひりひり、ずきずき、といったオノマトペを使っている。
方言の中には、痛さを表現する動詞によって、どのように痛いのか、どこが痛いのかがわかる地域がある、として、にがるといえば、腹痛のことだそうだ。
おなかがにがる、この言い方で、腹痛よりも、調子が悪いときのようである。
これは、中国地方のこと、ついで、この地方ではまた、はがはしる、というのだそうだが、にがる、はしる、それだけでは表現になるのか、ならないのか。
サイトでは、腰痛、擦り傷と、部位がわかると言いながらも、用法が広がっている。
また、あたまがわるい 、のうがわるい、という例があって、これは単に、わるい、というのを頭にも脳にも使うというようなことだけれど、なんだかわからない。
第18回 ところ変われば痛みも違う?
http://www.web-nihongo.com/wn/k_hougen/profile/profile.html/
> 「あがっ!」。突然の叫び声。沖縄出身の友人が机の角に足の小指をぶつけたらしい。この「あがっ」は、沖縄で、体の一部を何処かにぶつけたり指を切ったりなど、とっさの痛みのときに思わず口から発する感嘆詞だ。この「あがっ」にまつわる情報を各方面で今回の一枚:クリックすると大きくなります探っていたら、あったあった、見つけましたよ“あがっラー油”!!沖縄産ハバネロ使用とあり、かなり辛い代物のようだ。宣伝文句から推測するに、「辛いを超えて痛いほど」というニュアンスをこめたネーミングらしい。
瞬時に発することばにもかかわらず、福岡、佐賀、長崎、熊本では「あいた~っす」とソフトな表現になる。自分で叫びながらも、痛みを和らげようとの意識が働いているのだろうか。
さて、共通語では、痛みを表現するときに、きりきり、しくしく、ひりひり、ずきずき、といった擬態語を駆使している。「きりきり」と言えば「お腹」、「ずきずき」と言えば「頭」というように、多くの擬態語は痛い部位とも対応している。しかし、方言の中には、痛さを表現する動詞によって、どのように痛いのか、どこが痛いのかがわかる地域がある。
広島、山口など中国地方で使われるのが「にがる」。「お腹がにがる」と言うと、ずしーんと重たい感じのする鈍痛を表す。痛いというよりはお腹の調子が悪いという感じだろうか。「にがる」自体は平安時代の文献から用例が見られるが、当時は「苦々しく思う」「苦々しい顔をする」という意味で使われていた。まあ、鈍痛が長引けば苦々しい顔にもなるだろう。
共通語で「痛みが走る」という言い方をするが、中国地方では歯痛を「歯がはしる」と表現する。「にがる」が体の内部でじくじくと感じる痛みだとすれば、「はしる」はむしろ体の表面に近いところの鋭い痛みを表すようだ。だとすれば、腰痛は「にがる」、擦り傷による痛みは「はしる」と使い分けるということだ。
広島、山口の「頭がわるい」も鈍痛を表す。「頭の具合が悪い」ということだろうが、それにしても、風邪を引いたときに「頭わるいの?」と聞かれてうなずくのも複雑だ。「脳がわるい」という言い方もあるようだ。
ところで、北海道、東北、北陸や沖縄では、「昨日は頭がやんでひどかった」、「虫歯で歯がやめる」のように「やむ」、「やめる」を使う。平安時代に「傷が痛む」意で登場する古語の「病む」が周圏分布として残っているのだ。
もう少し、たしかな表現があるかしらと、サイトをヒットさせて、次のようなのがあった。
痛みとことば
言語生活 P92,93 掲載文
昭和54年1月1日発行
>病棟及び外来で集録したものに次のような表現がある。
A 擬音に類した表現として
①ドーソと ②ニカニカ ③ニカーと④キリキリ ⑤キーソと ⑥キューンと⑦キューと ⑧チクチク ⑨チクーと⑩ズキンズキ ⑪ズキーンと ⑫ズキズキ ⑬ジンジン ⑭ピクピク ⑮シクシク ⑯ジクジク ⑰ピリピリ ⑱ヒリヒリ ⑲ガンガン ⑳ジワジワ 21.ジンワリ 22ザックザック
B 動作に関係した表現として
①おしつけられるような ②しぼられるような ③しぼるような ④しめつけられるような ⑤かみ切るような ⑥ひっぱるような ⑦ひっぱられるような ⑧ 刺すような ⑨刺しこんでくるような ⑩突き刺すように ⑪えぐるように ⑫もたれるような ⑬割られるような
C 現象象を表わす表現を用いたもの
①焼けるような ②焼けつくような ③脈うつような ④つまったような ⑤つまるような ⑥にえるように 、⑦にえてくるような ⑧ちぎれるように ⑨ちぎれていくように ⑩割れるように ⑪突き抜けるような ⑫燃えるような ⑬張るような ⑬電気が通ったような
D その他
①重苦しい ②うずく ③重い感じの④にぶい ⑤しこりのような
ある日、診察室で患者が医師に言いました。 - オノマトペラボonomatopelabo.jp#:#http://onomatopelabo.jp/medical/column/column2_1/column_02.html
onomatopelabo.jp/medical/column/column2_1/column_02.html
日本各地の「痛みのオノマトペ」
さて、最後の診察室は沖縄県首里です。患者が医師に言いました。 「耳ぬひっすいひっすいすん。」…耳に水が入ってすぐ? いいえ、「耳がひりひりする」という意味です。「ひっすいひっすい(すん)」は「表面がひりひり(痛む)」という意味を表す首里方言のオノマトペです。
オノマトペとは,擬音語・擬態語などの総称です。たとえば、チリン(風鈴)、ワンワン(犬)などのように実際の音や声を模す擬音語・擬声語と、キョロキョロ(目玉)、ジトジト(湿度)などのように動きや存在の様子を表す擬態語があります。世界の言語の中でも、日本語(共通語)の擬態語のバラエティは特徴的と言われていますが、とりわけ方言の擬態語は、語形も意味もバリエーションが豊かです。
オノマトペには、身体の違和感や痛みを表す表現がたくさんあります。共通語では、痛みをシクシク/キリキリ/ズキズキなどと表現することがあります。外国で病院にかかったときに日本語ネイティブが使いたくなる表現なのだそうですが、日本語がわからない人には通じません。
同様に、方言にも痛みを表す独特なオノマトペがあります。たとえば次のような表現です。
「へながーえかえかずー。」
背中がちくちく痛む。(岩手県)
「腹がにやにやする。」
腹が鈍く痛む。(山形県)
「背中がしかしかしてかなんわ。」
背中がちくちくと痛くてだめだな。(京都府)
「日に焼けて肌ぁひかひかしる。」
日に焼けて肌がひりひり痛む。(石川県)
「こりょー食べると喉がかやかやする。」
これを食べると喉が痛む。(静岡県)
「歯がさくさくする。」
歯が痛む。(徳島県)
「お腹がにしにしする。」
お腹が痛む。(香川県)
「腹がじかじかしだいた。」
腹が痛み始めた。(高知県)
「喉のしゅんしゅんすっ。」
喉が染みて痛む。(佐賀県)
「頭がはちはちする。」
頭が割れるように痛む。(長崎県)
「ちぶるぬがんないがんないすん。」
頭が割れるように痛む。(沖縄県)
さあ、診察もそろそろ終わりに近づきました。共通語なら「お大事に」と言って患者を送り出すところですが、これにも方言があります。では、どうぞお大事に。
「お体を おじやいなひて。」
お体をご自愛なさって。(和歌山県)
「どーぞ ためられない。」
どうぞお大事にね。(岐阜県)
「あちゃ おだいじなさーい。」
ではお大事にさってください。(群馬県)