JSL漢字学習研究会、発表報告を4つ聞いて、午後2時時から6時までを国際研究棟の教室で過ごした。
感想めいて恐縮だが、いずれも、興味深かった。日常に研究のことを思うと、この刺激は、あった方がよいと思う。
ひとつめには大学院生の報告で、そのテーマには日中漢字の字形について、天字の1画と2画の違いを長いほうの横画と短いほうのそれが日中漢字の違いだとして、さてそれで、日本語の字形を説明するようなことであった。中国語はイデオロギーの解釈を強くすれば、長さの違いをうるさくする中国語教員もいることだろう、というような聞き方をしていた。簡化字の制定とその方案が言語政策であり、簡体字のことは繁体字との対で考えるかどうか、現代語だけで中国漢字ををとらえるにしても、大学院生の研究ともなると、それを指導することも、字形の根拠を示す視点もないのだろうかと聞き終わった。
そして、ふたつめは理系語彙の漢字リストを作成したというもので、できない視点を持ったものだった。理系の学術専門語となる、それは実は工学関係の英語によるペーパーをもとに、そこからの視点はユニークであるが、理工系学術論文に共有する、翻訳による漢字語彙を調査したとか、漢字を言うのは、その語によるもので、英語で研究論文を書いたら、そこにはどのような日本語翻訳があるか、その語を頼りに日本語漢字を学ぶというものになるらしいが、どうにもできない相談である。本訳は誰がして、その対照となる日本語のデータが見えない、翻訳は恣意には行われないから、その分野による違いの共通する語を頻度で示すというから、これまた、作業の結果としてはよくわかるのであるが、できないことだ。学習の参考ではあるから、好いとして、理系の語彙と言って、文型と対比してとされていたり、その理系には実は理工系の意味があって、さらに対象とした論文は工学の分野であったというので、理系というより、理工系とでもしてはいかがかと申してきた。
みっつめの報告発表が研究会に出向いたわけである。発表者とは、2012年になる、そのときにまでさかのぼって、縁の在ることで、研究内容の発表を聞くことは、わたしにとって、困難ではない。それで、一応距離を置きながら聞いていたのだが、いつの間にかのめりこんで、人を表すことになる日本語と中国語の対照には、広く語例を探して、例えば、周囲がうるさい、というこの語にも、日本語では周囲の人たちとしての含意がある、それを辞書に掲載するところがあって、精査したものとなっていたから、語構成の要素からも日本語ではそれだけで人のことになることを学習しなければならないというものであった。日中同形語の対照は言語の背景を探る必要があるが、まずはデータとしての整理である。聞いていて、そこで思いついたのが、中国語では有志者となるところ、日本語では有志が語として同じ意味内容を持つというところで、その語で中国語にも、同志というのがあったから、それは呼びかけの語には違いないが、そのままで人を表しはしないか、日本語ではさらに固有名で同志社大学となる用法もある、というふうに質問をしたら、その後の成り立ちが中国語としてはなく、さらに今はもう使われないという応答であった。
よっつめの発表は、これは大したものであると思って、感動してしまった。感想めいた、この文にもあらわしにくいが、長くなるのでほどほどにして、日本語学習の漢字を字形のパーツに分けて分類をして、意味の形成を説明しようというものであった。それで、何が大したものだと思ったかというと、部首が成り立つ前の時代の漢字を眺めて古代の文字の成立に合わせて、漢字の形声をたとえば採用の文字には風采の文字と同じ漢字の部分を含んで、それから共通する部分を取り出して説明するのに、そこに漢字の持つ意味のイメージをイラストにもして手引き、字書を作り上げたのであるから、大変な作業である。常用漢字のためにはスクショを4600枚を作ったというから、その作業を通して、漢字の字形が物語ることを聞いて自分の分類法を組み立てた。説文解字だけによらず、それから、前後するが、さかのぼる篆書、隷書、金文、甲骨文字に、字形のオリジナルとなるものをトレースしている。この方法は、白川静の漢字学問そのものである。発表者は独自に作り上げているから、その手法をオリジナルのものとするが、字通にはすでにそれが明らかである。白川学は説文解字をそのまま受け入れることをしないという批判で、金文の用法などにも照らして、甲骨文字に見る呪術、祭文の儀式からイメージがあるのは、漢字が伝える意味の世界であるとの分析であったから、白川学に親しむわたしには、報告の内容がよく分かった。
http://jsl-kanji.com/event/20180224.html
>JSL漢字学習研究会
日本語教育における漢字学習または漢字指導(教育)について、
実践方法や理論の情報交換をする研究会です。
第73回 研究会(2018.2.24開催)
日程
日程:2018年2月24日(土) 14:00~17:30(13:30~13:45ごろご来場ください。)
会場:名古屋大学国際教育交流センター(国際棟)2階 207教室
参加方法
参加費:500円参加申込(必須):前日(2月23日(金))昼12:00までに,「研究会参加申込」ページよりお申込ください。(先着順に受付いたします。申込時に問題が生じた場合は,メール<sanka@jsl-kanji.com>でご連絡ください。)
発表
タイトル:日本と中国における漢字の字体と字形
発表者:前田春香(愛知大学大学院生)
内容:「愛(爱)」「戸(户)」「天(天)」など,日中で字形差があるとされる漢字がある。中国語教育では,このような違いにこだわって採点をする指導者や,漢字の細部まで観察し,教科書とそっくりに書こうとする学習者もいる。このような違いの中には,注意すべきものもあるが,正誤に関わらないものも多い。フォントの違いや,印刷文字と手書き文字の違いまでもが,日中の漢字の字形差だと誤解されることもある。本発表では,「常用漢字表の字体・字形に関する指針」を参考に,「日中の漢字の字形差」とされてきたものを,捉え直す。また,中国語教育や日本語教育(正誤判断・教材)において,このような違いをどのように扱うべきか考えたい。
タイトル:英日対訳理系基礎単語集に出現する漢字及び漢字語彙の調査
発表者:服部淳、西山聖久、レレイト・エマニュエル、徳弘康代(名古屋大学)
内容:本発表では,日本語を必要とせず,科目の授業がすべて英語で行われるプログラムで理系の分野を学ぶ学生のために作成された『理系留学生のための英日理系基礎単語集』について紹介し,その単語集に出現する漢字と漢字語彙を調査し,どのような漢字語彙を知っていることが理系分野の学生の役に立つかを調査する。この単語集は英語の理系分野の論文に出てくる頻度の高い英単語の日本語訳という形で語彙が選択されており,普段英語で使っている基本的な用語を日本語に変換しやすくするために作成されたものである。この単語集に現れる漢字語彙は読み書きは不要でも,音として必要とされるものである。この調査を通して音としての漢字語彙教育の可能性と意義についても考えたい。
タイトル:人物を表す中日同形語の比較
発表者:何宝年(南京林業大学外国語学院)
内容:中日同形語には双方ともあるいは片方だけが人を表す言葉が少なくない。中日の辞書を調べて,双方の人を表す「派」などの漢字がつく人を表す言葉は「第三者」「運動員」「軍属」「施主」などを除いてほとんど同じである。だが,「部下,幹部,青年,補佐,知事,左右,護衛,心腹,総裁,代表,巨星」などの転義が同じである同形語がある一方,「同室」「後進」のように転義が違ったり,日本語の「頭脳」「重鎮」「黒幕」,中国語の「最愛」「耳目」などのように片方だけの転義が人を表したりしているものもあるので,日本語学習者が習得する時注意しなければならない。
タイトル:古代文字を使った部首順の常用漢字スタディガイド(英語版)
発表者:ウィリアムズ憲子(アメリカン大学(前))
内容:古代中国で意味が文字となった当初には,字形と意味との間には密接なつながりがあった。しかし統一簡素化を幾度も経ている漢字の字形ではそれは明確には掴めない 。そこで部首などの共通部分形を使って常用漢字知識を増やしたい学習者が,古代文字(甲骨文字,金文,篆文)を見ながら元来あった字形と意味のつながりを自ら確認,理解し,同類漢字を比較学習する教材を試みた。導入順序は400項目あまりの共通部分形の字源の事物で分け,頻度数(徳弘2014)を加味し,例語をつけた 。実際にこの方法で全常用漢字が説明できるかを試すべく,草稿を過去四年間ブロッグで公開した。(http://kanjiportraits.wordpress.com)
おしゃべり交流会(17:30まで)
終了後は,会場を17時30分まで,参加自由の交流の場として開放いたします。参加者同士の交流の場としてご活用ください。みなさまと交流できるのを楽しみにしております。
感想めいて恐縮だが、いずれも、興味深かった。日常に研究のことを思うと、この刺激は、あった方がよいと思う。
ひとつめには大学院生の報告で、そのテーマには日中漢字の字形について、天字の1画と2画の違いを長いほうの横画と短いほうのそれが日中漢字の違いだとして、さてそれで、日本語の字形を説明するようなことであった。中国語はイデオロギーの解釈を強くすれば、長さの違いをうるさくする中国語教員もいることだろう、というような聞き方をしていた。簡化字の制定とその方案が言語政策であり、簡体字のことは繁体字との対で考えるかどうか、現代語だけで中国漢字ををとらえるにしても、大学院生の研究ともなると、それを指導することも、字形の根拠を示す視点もないのだろうかと聞き終わった。
そして、ふたつめは理系語彙の漢字リストを作成したというもので、できない視点を持ったものだった。理系の学術専門語となる、それは実は工学関係の英語によるペーパーをもとに、そこからの視点はユニークであるが、理工系学術論文に共有する、翻訳による漢字語彙を調査したとか、漢字を言うのは、その語によるもので、英語で研究論文を書いたら、そこにはどのような日本語翻訳があるか、その語を頼りに日本語漢字を学ぶというものになるらしいが、どうにもできない相談である。本訳は誰がして、その対照となる日本語のデータが見えない、翻訳は恣意には行われないから、その分野による違いの共通する語を頻度で示すというから、これまた、作業の結果としてはよくわかるのであるが、できないことだ。学習の参考ではあるから、好いとして、理系の語彙と言って、文型と対比してとされていたり、その理系には実は理工系の意味があって、さらに対象とした論文は工学の分野であったというので、理系というより、理工系とでもしてはいかがかと申してきた。
みっつめの報告発表が研究会に出向いたわけである。発表者とは、2012年になる、そのときにまでさかのぼって、縁の在ることで、研究内容の発表を聞くことは、わたしにとって、困難ではない。それで、一応距離を置きながら聞いていたのだが、いつの間にかのめりこんで、人を表すことになる日本語と中国語の対照には、広く語例を探して、例えば、周囲がうるさい、というこの語にも、日本語では周囲の人たちとしての含意がある、それを辞書に掲載するところがあって、精査したものとなっていたから、語構成の要素からも日本語ではそれだけで人のことになることを学習しなければならないというものであった。日中同形語の対照は言語の背景を探る必要があるが、まずはデータとしての整理である。聞いていて、そこで思いついたのが、中国語では有志者となるところ、日本語では有志が語として同じ意味内容を持つというところで、その語で中国語にも、同志というのがあったから、それは呼びかけの語には違いないが、そのままで人を表しはしないか、日本語ではさらに固有名で同志社大学となる用法もある、というふうに質問をしたら、その後の成り立ちが中国語としてはなく、さらに今はもう使われないという応答であった。
よっつめの発表は、これは大したものであると思って、感動してしまった。感想めいた、この文にもあらわしにくいが、長くなるのでほどほどにして、日本語学習の漢字を字形のパーツに分けて分類をして、意味の形成を説明しようというものであった。それで、何が大したものだと思ったかというと、部首が成り立つ前の時代の漢字を眺めて古代の文字の成立に合わせて、漢字の形声をたとえば採用の文字には風采の文字と同じ漢字の部分を含んで、それから共通する部分を取り出して説明するのに、そこに漢字の持つ意味のイメージをイラストにもして手引き、字書を作り上げたのであるから、大変な作業である。常用漢字のためにはスクショを4600枚を作ったというから、その作業を通して、漢字の字形が物語ることを聞いて自分の分類法を組み立てた。説文解字だけによらず、それから、前後するが、さかのぼる篆書、隷書、金文、甲骨文字に、字形のオリジナルとなるものをトレースしている。この方法は、白川静の漢字学問そのものである。発表者は独自に作り上げているから、その手法をオリジナルのものとするが、字通にはすでにそれが明らかである。白川学は説文解字をそのまま受け入れることをしないという批判で、金文の用法などにも照らして、甲骨文字に見る呪術、祭文の儀式からイメージがあるのは、漢字が伝える意味の世界であるとの分析であったから、白川学に親しむわたしには、報告の内容がよく分かった。
http://jsl-kanji.com/event/20180224.html
>JSL漢字学習研究会
日本語教育における漢字学習または漢字指導(教育)について、
実践方法や理論の情報交換をする研究会です。
第73回 研究会(2018.2.24開催)
日程
日程:2018年2月24日(土) 14:00~17:30(13:30~13:45ごろご来場ください。)
会場:名古屋大学国際教育交流センター(国際棟)2階 207教室
参加方法
参加費:500円参加申込(必須):前日(2月23日(金))昼12:00までに,「研究会参加申込」ページよりお申込ください。(先着順に受付いたします。申込時に問題が生じた場合は,メール<sanka@jsl-kanji.com>でご連絡ください。)
発表
タイトル:日本と中国における漢字の字体と字形
発表者:前田春香(愛知大学大学院生)
内容:「愛(爱)」「戸(户)」「天(天)」など,日中で字形差があるとされる漢字がある。中国語教育では,このような違いにこだわって採点をする指導者や,漢字の細部まで観察し,教科書とそっくりに書こうとする学習者もいる。このような違いの中には,注意すべきものもあるが,正誤に関わらないものも多い。フォントの違いや,印刷文字と手書き文字の違いまでもが,日中の漢字の字形差だと誤解されることもある。本発表では,「常用漢字表の字体・字形に関する指針」を参考に,「日中の漢字の字形差」とされてきたものを,捉え直す。また,中国語教育や日本語教育(正誤判断・教材)において,このような違いをどのように扱うべきか考えたい。
タイトル:英日対訳理系基礎単語集に出現する漢字及び漢字語彙の調査
発表者:服部淳、西山聖久、レレイト・エマニュエル、徳弘康代(名古屋大学)
内容:本発表では,日本語を必要とせず,科目の授業がすべて英語で行われるプログラムで理系の分野を学ぶ学生のために作成された『理系留学生のための英日理系基礎単語集』について紹介し,その単語集に出現する漢字と漢字語彙を調査し,どのような漢字語彙を知っていることが理系分野の学生の役に立つかを調査する。この単語集は英語の理系分野の論文に出てくる頻度の高い英単語の日本語訳という形で語彙が選択されており,普段英語で使っている基本的な用語を日本語に変換しやすくするために作成されたものである。この単語集に現れる漢字語彙は読み書きは不要でも,音として必要とされるものである。この調査を通して音としての漢字語彙教育の可能性と意義についても考えたい。
タイトル:人物を表す中日同形語の比較
発表者:何宝年(南京林業大学外国語学院)
内容:中日同形語には双方ともあるいは片方だけが人を表す言葉が少なくない。中日の辞書を調べて,双方の人を表す「派」などの漢字がつく人を表す言葉は「第三者」「運動員」「軍属」「施主」などを除いてほとんど同じである。だが,「部下,幹部,青年,補佐,知事,左右,護衛,心腹,総裁,代表,巨星」などの転義が同じである同形語がある一方,「同室」「後進」のように転義が違ったり,日本語の「頭脳」「重鎮」「黒幕」,中国語の「最愛」「耳目」などのように片方だけの転義が人を表したりしているものもあるので,日本語学習者が習得する時注意しなければならない。
タイトル:古代文字を使った部首順の常用漢字スタディガイド(英語版)
発表者:ウィリアムズ憲子(アメリカン大学(前))
内容:古代中国で意味が文字となった当初には,字形と意味との間には密接なつながりがあった。しかし統一簡素化を幾度も経ている漢字の字形ではそれは明確には掴めない 。そこで部首などの共通部分形を使って常用漢字知識を増やしたい学習者が,古代文字(甲骨文字,金文,篆文)を見ながら元来あった字形と意味のつながりを自ら確認,理解し,同類漢字を比較学習する教材を試みた。導入順序は400項目あまりの共通部分形の字源の事物で分け,頻度数(徳弘2014)を加味し,例語をつけた 。実際にこの方法で全常用漢字が説明できるかを試すべく,草稿を過去四年間ブロッグで公開した。(http://kanjiportraits.wordpress.com)
おしゃべり交流会(17:30まで)
終了後は,会場を17時30分まで,参加自由の交流の場として開放いたします。参加者同士の交流の場としてご活用ください。みなさまと交流できるのを楽しみにしております。