ニュースが流れた。
会見に、遅きに失したことが積み重なってしまったことが極めて残念だ、というのがあった。
遅きに失した、この過去形の言い方が気になった。
遅きに失する、遅きに失した、いずれも語形としては言いうる。
辞書では、遅きに過ぎる という、言いかえを挙げている。
これが、同様な、遅きに過ぎた、と言うかどうかを連想する。
過ぎたと、失したとを、この慣用句では意味として成立するので、どちらも言えそうであるが、辞書には、救援は遅きに失した、の例文をも示すので、この表現は会見で使われたようなことだろう。
すると、失する の語について、慣用句となった使い方がどうかということであろうか。
その意味には、次のような説明がある。度を越している意を表す。…でありすぎる。
池上氏「遅きに失した」朝日会見
【イスタンブール大治朋子】朝日新聞社長の記者会見について、トルコを訪問中の池上彰さんは報道陣に「慰安婦報道の検証報道など紙面でやるべきことをやっていなかったから社長の記者会見に至ったのだろう。遅きに失したことが積み重なってしまったことが極めて残念だ」と述べた。コラムを継続するかどうかは「会見や謝罪の内容を詳細に検討したうえで改めて考える」と語った。
(毎日新聞) 2014年09月12日 00時38分
(池上彰の新聞ななめ読み)慰安婦報道検証 訂正、遅きに失したのでは
2014年9月4日05時00分
>朝日新聞は過去の慰安婦報道について、8月5、6日付朝刊に計4ページにわたる検証記事を掲載した
過ちがあったなら、訂正するのは当然。でも、遅きに失したのではないか。過ちがあれば、率直に認めること。でも、潔くないのではないか。過ちを訂正するなら、謝罪もするべきではないか。
朝日新聞は、8月5日付と6日付朝刊で、「慰安婦問題を考える」と題し、自社の過去の慰安婦報道を検証しました。これを読んだ私の感想が、冒頭のものです。
6日付紙面で、現代史家の秦郁彦氏は、朝日の検証について、「遅ればせながら過去の報道ぶりについて自己検証したことをまず、評価したい」と書いています。これは、その通りですね。
しかし、今頃やっと、という思いが拭い切れません。今回の検証で「虚偽」と判断した人物の証言を掲載してから32年も経つからです。
*
今回、「虚偽」と判断したのは、吉田清治氏の証言。氏が自らの体験として、済州島で200人の若い朝鮮人女性を「狩り出した」などと証言したと朝日新聞大阪本社版朝刊が1982年9月2日に報じました。その後も朝日は吉田氏に関する記事を掲載しました。
これについて今回、「読者のみなさまへ」と題し、「吉田氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした。済州島を再取材しましたが、証言を裏付ける話は得られませんでした」と書いています。裏付けできなければ取り消す。当然の判断です。
ところが、この証言に疑問が出たのは、22年前のことでした。92年、産経新聞が、吉田氏の証言に疑問を投げかける記事を掲載したからです。
こういう記事が出たら、裏付け取材をするのが記者のイロハ。朝日の社会部記者が「吉田氏に会い、裏付けのための関係者の紹介やデータ提供を要請したが拒まれたという」と検証記事は書きます。この時点で、証言の信憑(しんぴょう)性は大きく揺らいだはずです。朝日はなぜ証言が信用できなくなったと書かなかったのか。今回の特集では、その点の検証がありません。検証記事として不十分です。
検証記事は、「慰安婦」と「挺身隊(ていしんたい)」との混同についても書いています。「女子挺身隊」は、戦時下で女性を労働力として動員するためのもの。慰安婦とは別物です。91年の朝日新聞記事は、女子挺身隊と慰安婦を混同して報じたものだと認めました。
これについて「読者のみなさまへ」というコーナーでは「当時は、慰安婦問題に関する研究が進んでおらず、記者が参考にした資料などにも慰安婦と挺身隊の混同がみられたことから、誤用しました」と書いています。
ところが、検証記事の本文では「朝日新聞は93年以降、両者を混同しないよう努めてきた」とも書いています。ということは、93年時点で混同に気づいていたということです。その時点で、どうして訂正を出さなかったのか。それについての検証もありません。
*
今回の検証特集では、他紙の報道についても触れ、吉田氏の証言は他紙も報じた、挺身隊と慰安婦の混同は他紙もしていたと書いています。問題は朝日の報道の過ちです。他社を引き合いに出すのは潔くありません。
今回の検証は、自社の報道の過ちを認め、読者に報告しているのに、謝罪の言葉がありません。せっかく勇気を奮って訂正したのでしょうに、お詫(わ)びがなければ、試みは台無しです。
朝日の記事が間違っていたからといって、「慰安婦」と呼ばれた女性たちがいたことは事実です。これを今後も報道することは大事なことです。
でも、新聞記者は、事実の前で謙虚になるべきです。過ちは潔く認め、謝罪する。これは国と国との関係であっても、新聞記者のモラルとしても、同じことではないでしょうか。
◆池上さんと読者の皆様へ 今回のコラムは当初、朝日新聞社として掲載を見合わせましたが、その後の社内での検討や池上さんとのやり取りの結果、掲載することが適切だと判断しました。池上さんや読者の皆様にご迷惑をおかけしたことをおわびします。
◆池上さんのコメント 私はいま、「過ちては改むるに憚(はばか)ることなかれ」という言葉を思い出しています。今回の掲載見合わせについて、朝日新聞が判断の誤りを認め、改めて掲載したいとの申し入れを受けました。過ちを認め、謝罪する。このコラムで私が主張したことを、今回に関しては朝日新聞が実行されたと考え、掲載を認めることにしました。
大辞林 第三版の解説
おそきにしっする【遅きに失する】
遅すぎて間に合わない。時機におくれて役に立たない。遅きに過ぎる。
大辞林 第三版の解説
しっする【失する】
( 動サ変 ) [文] サ変 しつ・す
①なくす。うしなう。 「会う機会を-・する」
②野球などで,ボールをとりそこなう。 「三塁手がボールを後ろへ-・する」
③(「…に失する」の形で)…でありすぎる。 「遅きに-・する」
④なくなる。 「驕れる者は-・し倹なる者は存す/太平記 11」
失するに近い言葉→火を失する|機を失する|遅きに失する|礼を失する|失す|心失す|消失す|行き失す|落ち失す|模する
デジタル大辞泉の解説
遅(おそ)きに失・する 【遅きに失する】
遅すぎて間に合わなくなってしまう。用をなさない。「救援は―・した」
「遅きに逸する」とするのは誤り。
デジタル大辞泉の解説
しっ・する 【失する】
[動サ変][文]しっ・す[サ変]
1 なくす。失う。「機会を―・する」「面目を―・する」
2 あるべきものや状態を欠いたりなくしたりする。「礼を―・した態度」「名を―・する」「均衡を―・する」
3 (「…に失する」の形で)…すぎる、度を越している意を表す。「遅きに―・した感がある」
gooニュース
なぜ朝日は誤ったのか(産経新聞) 09月12日 07:59
<池上さんコラム見送り問題>朝日新聞社長「社内記者の上層部批判を重く受け止めた」(弁護士ドットコム) 09月11日 23:18
朝日新聞会見詳報(10)30年超す慰安婦報道「さかのぼっての処罰、難しい」(産経新聞) 09月11日 23:13
朝日新聞会見(8)問題拡大の原因は…木村社長「記者の思い込み、チェック不足が重なった」(産経新聞) 09月11日 22:53
<朝日新聞>誤報「痛恨の極み」…記事取り消し、異例の会見(毎日新聞) 09月11日 22:50
朝日新聞会見詳報(7)朝日の自浄能力「あったかどうか、きちんと検証していきたい」木村社長(産経新聞) 09月11日 22:33
朝日新聞会見詳報(5)池上コラム掲載見送り、杉浦取締役「判断したのは私です」(産経新聞) 09月11日 21:53
朝日新聞会見詳報(4)池上コラム拒否、木村社長「言論封殺という思わぬ批判を」(産経新聞) 09月11日 21:33
朝日新聞会見詳報(2)慰安婦報道にも言及「誤った報道、謝罪遅れたことおわび」(産経新聞) 09月11日 20:53
<朝日新聞>「慰安婦」「吉田調書」…社長、誤報認め謝罪(毎日新聞) 09月11日 19:50
会見に、遅きに失したことが積み重なってしまったことが極めて残念だ、というのがあった。
遅きに失した、この過去形の言い方が気になった。
遅きに失する、遅きに失した、いずれも語形としては言いうる。
辞書では、遅きに過ぎる という、言いかえを挙げている。
これが、同様な、遅きに過ぎた、と言うかどうかを連想する。
過ぎたと、失したとを、この慣用句では意味として成立するので、どちらも言えそうであるが、辞書には、救援は遅きに失した、の例文をも示すので、この表現は会見で使われたようなことだろう。
すると、失する の語について、慣用句となった使い方がどうかということであろうか。
その意味には、次のような説明がある。度を越している意を表す。…でありすぎる。
池上氏「遅きに失した」朝日会見
【イスタンブール大治朋子】朝日新聞社長の記者会見について、トルコを訪問中の池上彰さんは報道陣に「慰安婦報道の検証報道など紙面でやるべきことをやっていなかったから社長の記者会見に至ったのだろう。遅きに失したことが積み重なってしまったことが極めて残念だ」と述べた。コラムを継続するかどうかは「会見や謝罪の内容を詳細に検討したうえで改めて考える」と語った。
(毎日新聞) 2014年09月12日 00時38分
(池上彰の新聞ななめ読み)慰安婦報道検証 訂正、遅きに失したのでは
2014年9月4日05時00分
>朝日新聞は過去の慰安婦報道について、8月5、6日付朝刊に計4ページにわたる検証記事を掲載した
過ちがあったなら、訂正するのは当然。でも、遅きに失したのではないか。過ちがあれば、率直に認めること。でも、潔くないのではないか。過ちを訂正するなら、謝罪もするべきではないか。
朝日新聞は、8月5日付と6日付朝刊で、「慰安婦問題を考える」と題し、自社の過去の慰安婦報道を検証しました。これを読んだ私の感想が、冒頭のものです。
6日付紙面で、現代史家の秦郁彦氏は、朝日の検証について、「遅ればせながら過去の報道ぶりについて自己検証したことをまず、評価したい」と書いています。これは、その通りですね。
しかし、今頃やっと、という思いが拭い切れません。今回の検証で「虚偽」と判断した人物の証言を掲載してから32年も経つからです。
*
今回、「虚偽」と判断したのは、吉田清治氏の証言。氏が自らの体験として、済州島で200人の若い朝鮮人女性を「狩り出した」などと証言したと朝日新聞大阪本社版朝刊が1982年9月2日に報じました。その後も朝日は吉田氏に関する記事を掲載しました。
これについて今回、「読者のみなさまへ」と題し、「吉田氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした。済州島を再取材しましたが、証言を裏付ける話は得られませんでした」と書いています。裏付けできなければ取り消す。当然の判断です。
ところが、この証言に疑問が出たのは、22年前のことでした。92年、産経新聞が、吉田氏の証言に疑問を投げかける記事を掲載したからです。
こういう記事が出たら、裏付け取材をするのが記者のイロハ。朝日の社会部記者が「吉田氏に会い、裏付けのための関係者の紹介やデータ提供を要請したが拒まれたという」と検証記事は書きます。この時点で、証言の信憑(しんぴょう)性は大きく揺らいだはずです。朝日はなぜ証言が信用できなくなったと書かなかったのか。今回の特集では、その点の検証がありません。検証記事として不十分です。
検証記事は、「慰安婦」と「挺身隊(ていしんたい)」との混同についても書いています。「女子挺身隊」は、戦時下で女性を労働力として動員するためのもの。慰安婦とは別物です。91年の朝日新聞記事は、女子挺身隊と慰安婦を混同して報じたものだと認めました。
これについて「読者のみなさまへ」というコーナーでは「当時は、慰安婦問題に関する研究が進んでおらず、記者が参考にした資料などにも慰安婦と挺身隊の混同がみられたことから、誤用しました」と書いています。
ところが、検証記事の本文では「朝日新聞は93年以降、両者を混同しないよう努めてきた」とも書いています。ということは、93年時点で混同に気づいていたということです。その時点で、どうして訂正を出さなかったのか。それについての検証もありません。
*
今回の検証特集では、他紙の報道についても触れ、吉田氏の証言は他紙も報じた、挺身隊と慰安婦の混同は他紙もしていたと書いています。問題は朝日の報道の過ちです。他社を引き合いに出すのは潔くありません。
今回の検証は、自社の報道の過ちを認め、読者に報告しているのに、謝罪の言葉がありません。せっかく勇気を奮って訂正したのでしょうに、お詫(わ)びがなければ、試みは台無しです。
朝日の記事が間違っていたからといって、「慰安婦」と呼ばれた女性たちがいたことは事実です。これを今後も報道することは大事なことです。
でも、新聞記者は、事実の前で謙虚になるべきです。過ちは潔く認め、謝罪する。これは国と国との関係であっても、新聞記者のモラルとしても、同じことではないでしょうか。
◆池上さんと読者の皆様へ 今回のコラムは当初、朝日新聞社として掲載を見合わせましたが、その後の社内での検討や池上さんとのやり取りの結果、掲載することが適切だと判断しました。池上さんや読者の皆様にご迷惑をおかけしたことをおわびします。
◆池上さんのコメント 私はいま、「過ちては改むるに憚(はばか)ることなかれ」という言葉を思い出しています。今回の掲載見合わせについて、朝日新聞が判断の誤りを認め、改めて掲載したいとの申し入れを受けました。過ちを認め、謝罪する。このコラムで私が主張したことを、今回に関しては朝日新聞が実行されたと考え、掲載を認めることにしました。
大辞林 第三版の解説
おそきにしっする【遅きに失する】
遅すぎて間に合わない。時機におくれて役に立たない。遅きに過ぎる。
大辞林 第三版の解説
しっする【失する】
( 動サ変 ) [文] サ変 しつ・す
①なくす。うしなう。 「会う機会を-・する」
②野球などで,ボールをとりそこなう。 「三塁手がボールを後ろへ-・する」
③(「…に失する」の形で)…でありすぎる。 「遅きに-・する」
④なくなる。 「驕れる者は-・し倹なる者は存す/太平記 11」
失するに近い言葉→火を失する|機を失する|遅きに失する|礼を失する|失す|心失す|消失す|行き失す|落ち失す|模する
デジタル大辞泉の解説
遅(おそ)きに失・する 【遅きに失する】
遅すぎて間に合わなくなってしまう。用をなさない。「救援は―・した」
「遅きに逸する」とするのは誤り。
デジタル大辞泉の解説
しっ・する 【失する】
[動サ変][文]しっ・す[サ変]
1 なくす。失う。「機会を―・する」「面目を―・する」
2 あるべきものや状態を欠いたりなくしたりする。「礼を―・した態度」「名を―・する」「均衡を―・する」
3 (「…に失する」の形で)…すぎる、度を越している意を表す。「遅きに―・した感がある」
gooニュース
なぜ朝日は誤ったのか(産経新聞) 09月12日 07:59
<池上さんコラム見送り問題>朝日新聞社長「社内記者の上層部批判を重く受け止めた」(弁護士ドットコム) 09月11日 23:18
朝日新聞会見詳報(10)30年超す慰安婦報道「さかのぼっての処罰、難しい」(産経新聞) 09月11日 23:13
朝日新聞会見(8)問題拡大の原因は…木村社長「記者の思い込み、チェック不足が重なった」(産経新聞) 09月11日 22:53
<朝日新聞>誤報「痛恨の極み」…記事取り消し、異例の会見(毎日新聞) 09月11日 22:50
朝日新聞会見詳報(7)朝日の自浄能力「あったかどうか、きちんと検証していきたい」木村社長(産経新聞) 09月11日 22:33
朝日新聞会見詳報(5)池上コラム掲載見送り、杉浦取締役「判断したのは私です」(産経新聞) 09月11日 21:53
朝日新聞会見詳報(4)池上コラム拒否、木村社長「言論封殺という思わぬ批判を」(産経新聞) 09月11日 21:33
朝日新聞会見詳報(2)慰安婦報道にも言及「誤った報道、謝罪遅れたことおわび」(産経新聞) 09月11日 20:53
<朝日新聞>「慰安婦」「吉田調書」…社長、誤報認め謝罪(毎日新聞) 09月11日 19:50