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竜宮のいま

2013-07-21 | 現代日本語百科


 句集は、泥の花  冥宮  流離  雪錆  真夜の雛  月虹 の構成

 223句

 思いを残して亡くなった人たちが、龍宮で違う「生」を送っていてほしい



 黒々と 津波は翼広げけり

 泥の底 繭のごとくに嬰と母

 ボンボンと 死を数へゆく古時計

 朧夜の 首が体を呼んでをり

 澄みかけて また濁りゐる泉かな

 蝸牛 悲しい径を引受ける

 手作りの 網戸の隙間神父室

 トンネルの 奥の万緑閉ぢきらる

 釜石は コルカタ 指より太き蠅

 いい人ほど 虹を渡つていつた

 外の輪は 脚の無き群盆踊

 水引の どこまでも手を伸ばしくる

 じよいじよいと 堅雪渡る葬の列

 亡き娘らの 真夜来て遊ぶ雛まつり

 虹忽とうねり 龍宮行きの舟




 冥土にて 咲け泥中のしら梅よ

 一列に 五体投地の土葬かな

 花の屑 母の指紋を探しおり

 春の海 髪一本も見つからず

 今生の ことしのけふのこの芽吹き




 もう何処に 立ちても見ゆる春の海

 津波引き女雛ばかりとなりにけり

 ほととぎす 最後は空があるお前
      
 初蛍 やうやく逢ひに来てくれた
 
 廃屋の影 そのままに移る月
 
 柿ばかり 灯れる村となりにけり
     



【3.11の記録】辛い時の俳句: HOME9(ほめ・く)
home-9.cocolog-nifty.com/blog/2013/03/311-70c4.html‎
2013/03/11 - そう思っていた池澤が、釜石で被災した照井翠「龍宮」(角川書店)を読んで、俳句というのはこんな風に辛いことも表現できるのかと思ったとある。 以下、○印をつけたものが照井翠の句だ。 ○春の星こんなに人が死んだのか○喪えばうしなふ ...

>月刊誌「図書」2013年2月号に掲載の、池澤夏樹「楽な時の俳句、辛い時の俳句」によると、俳句というのは乱世にはむかず平和な時の文学らしい。余裕がなければ遊戯の境地に身をおけない。
そう思っていた池澤が、釜石で被災した照井翠「龍宮」(角川書店)を読んで、俳句というのはこんな風に辛いことも表現できるのかと思ったとある。
以下、○印をつけたものが照井翠の句だ。
○春の星こんなに人が死んだのか
○喪えばうしなふほどに降る雪よ
満点の星空を見上げて、あるいは降り積もる雪をみながら、俳人は3・11で亡くなった人々への哀切の思いを詠んでいる。

池澤は、同じ対象を詠んでも明暗がこれほど分かれるものだろうか、ということで蕪村と照井の句を並べている。
先ずは春の海。
春の海終日(ひねもす)のたりのたり哉 蕪村
○もう何処に立ちても見ゆる春の海
建物がすべて無くなり、どこからも海が見えるようになってしまった。

ひな祭り。
箱を出る皃(かほ)わすれめや雛二対 蕪村
○津波引き女雛ばかりとなりにけり
これは解説不要だろう。

ほととぎす。
ほとゝぎす待(まつ)や都のそらだのめ 蕪村
○ほととぎす最後は空があるお前
鳥ならば飛んで行けるが、人間は地上で生きてゆかねばならぬ。

盛夏。
狩衣の袖のうら這ふほたる哉 蕪村
○初蛍やうやく逢ひに来てくれた
群れ飛ぶ蛍は人の魂。その中の一匹がとまってくれた。きっとこの蛍が大事な人だったに違いない。

月。
月天心貧しき村を通りけり 蕪村
○廃屋の影そのままに移る月
煌々と照る月の下に見えるのは壊れた建物だけ。

柿。
御所柿にたのまれ皃(がほ)のかがし哉 蕪村
○柿ばかり灯れる村となりにけり
大震災後の東北の光景はこうだったのだろう。

やれアベノミクスだ、アベクロだ、バブルだのという文字がメディアを賑わしている昨今。
「みんな復興へと動いている。でも、私は家族を失ったという思いにとどまっています。そんな気持ちを口にすることすら難しくなっている」。
家族全員と自宅を失った男性の言葉が胸を打つ。



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