「松竹新喜劇」を観るような安定感。
“くすぐり”あり、涙あり、そしてほんわか心が温まる。
かつて正月恒例の映画であった「男はつらいよ」シリーズが形を変え、戻ってきたようだ。
正に「予定調和の美学」である。
あらすじは公式サイト等をご参照いただくとして。
先々が見通せる展開ながら、藤沢周平の世界を画面にまんま投射したかの如き静謐な雰囲気に、スクリーンの中へと引き込まれる。
話の先が読めるだけに、ある種の安心感を持って観ていられる点は、平和な年末年始を送りたい向きには最適な映画だ。
公開前から話題にされていたキムタクの“目”。
その目の輝きが印象的なシーンが二つ。
1つめは、見えぬ目で妻・加世(壇れい)を睨みつけるシーン。
インタビューで壇れいが、このシーンのセリフそのままに「本当に冷たくて怖かった」と語っているのを見たが、その言葉に納得。
もう1つは、番頭・島田(坂東三津五郎)に果し合いを申し込むため、中間・徳平(笹野高史)に言伝を言い渡すシーン。
「盲人だからと言って侮りめさるな」
のセリフとともに光る目。
絶妙のカメラワークが、薄暗い光の中に浮かび上がる目の白さを際立たせ、観る者に強烈なインパクトを与える。
山田洋次時代劇における「リアルの追求」。
今回特に印象的なのは、毒見役の三村(木村拓哉)が倒れたことの責任を取り、三村の上司である広式番・樋口(小林稔侍)の切腹シーン。
隣の間に家族はもとより親類も集まり、その時を待つ。
樋口は、自宅の仏間で念仏を唱えた後、腹を切る。
もがき苦しむ声を聞き、隣の間で嘆き悲しむ親族一同。
切腹という行為の“美しくない”ところを描いた映画が、かつてあっただろうか。
(「戦メリ」のジョニー大倉しか覚えがない…)
広式番としての「武士の一分」を貫くための樋口の切腹。
自身の「武士の一分」を貫くための三村の果し合い。
そして、果し合いの後、「武士の一分」を貫く島田。
三者三様の「武士の一分」が登場する。
なかでも、三村の“一分”は、武士のそれとして留まるものではなく、時代背景に関わらず、“男の一分”としてとらえることができる。
手段や方法は違えども、いつの時代であっても男なら当然全うしようとする“一分”がそこにある。
これで山田洋次監督による“藤沢周平三部作”が完結したということだが、また違う話で時代劇を撮り続けてほしいものだ。
次に正統派の真っ当な時代劇を撮れる人材が育つまでは少なくとも…
「武士の一分」
2006年/日本 監督:山田洋次
出演:木村拓哉、檀れい、笹野高史、桃井かおり、坂東三津五郎、緒形拳、小林稔侍
“くすぐり”あり、涙あり、そしてほんわか心が温まる。
かつて正月恒例の映画であった「男はつらいよ」シリーズが形を変え、戻ってきたようだ。
正に「予定調和の美学」である。
あらすじは公式サイト等をご参照いただくとして。
先々が見通せる展開ながら、藤沢周平の世界を画面にまんま投射したかの如き静謐な雰囲気に、スクリーンの中へと引き込まれる。
話の先が読めるだけに、ある種の安心感を持って観ていられる点は、平和な年末年始を送りたい向きには最適な映画だ。
公開前から話題にされていたキムタクの“目”。
その目の輝きが印象的なシーンが二つ。
1つめは、見えぬ目で妻・加世(壇れい)を睨みつけるシーン。
インタビューで壇れいが、このシーンのセリフそのままに「本当に冷たくて怖かった」と語っているのを見たが、その言葉に納得。
もう1つは、番頭・島田(坂東三津五郎)に果し合いを申し込むため、中間・徳平(笹野高史)に言伝を言い渡すシーン。
「盲人だからと言って侮りめさるな」
のセリフとともに光る目。
絶妙のカメラワークが、薄暗い光の中に浮かび上がる目の白さを際立たせ、観る者に強烈なインパクトを与える。
山田洋次時代劇における「リアルの追求」。
今回特に印象的なのは、毒見役の三村(木村拓哉)が倒れたことの責任を取り、三村の上司である広式番・樋口(小林稔侍)の切腹シーン。
隣の間に家族はもとより親類も集まり、その時を待つ。
樋口は、自宅の仏間で念仏を唱えた後、腹を切る。
もがき苦しむ声を聞き、隣の間で嘆き悲しむ親族一同。
切腹という行為の“美しくない”ところを描いた映画が、かつてあっただろうか。
(「戦メリ」のジョニー大倉しか覚えがない…)
広式番としての「武士の一分」を貫くための樋口の切腹。
自身の「武士の一分」を貫くための三村の果し合い。
そして、果し合いの後、「武士の一分」を貫く島田。
三者三様の「武士の一分」が登場する。
なかでも、三村の“一分”は、武士のそれとして留まるものではなく、時代背景に関わらず、“男の一分”としてとらえることができる。
手段や方法は違えども、いつの時代であっても男なら当然全うしようとする“一分”がそこにある。
これで山田洋次監督による“藤沢周平三部作”が完結したということだが、また違う話で時代劇を撮り続けてほしいものだ。
次に正統派の真っ当な時代劇を撮れる人材が育つまでは少なくとも…
「武士の一分」
2006年/日本 監督:山田洋次
出演:木村拓哉、檀れい、笹野高史、桃井かおり、坂東三津五郎、緒形拳、小林稔侍