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「壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び」

2013年01月17日 | 映画
パレスチナの民衆抵抗運動の地、ビリン村に住むイマード・ブルナートは、四男の誕生を機にビデオカメラを購入。
子供の成長と家族の風景を収める…つもりだった。
しかし、村の中央をパレスチナとイスラエルとの国境となる“分離壁”が通り、大切な村人たちの耕作地は失われ、イスラエルの入植地が侵出してくる現状に、村民たちによる抵抗運動を記録していくことになった。
金曜日の礼拝後に穏やかなデモを始めた村人に対してイスラエル軍は、行進に向かって発砲するだけでなく、参加者を逮捕するなどの弾圧を加えていく。
抵抗運動とイスラエル軍との衝突が繰り返される中、イマードのカメラは何度も壊され、ついには5台目のカメラが戦いの日々を追うに至る…


時にはカメラが防弾の役割を担うこともあり、妻から撮影を止めるよう懇願されても、イマードはカメラを回し続ける。
本来の目的である四男ジブリールの成長もカメラは追うが、まだまだ幼いジブリールが“戦う姿勢”を身につけていく様子に、頼もしさを感じる半面、子供らしい無邪気さが薄れていくように見えるのは痛々しい。


中東におけるニュースは、日本のメディアにおいて大きく取り上げられることはめったになく、“パレスチナの今”についての情報が十分に報道されているとはお世辞にも言えない。
イマードが個人的に撮り始めたカメラではあるが、パレスチナの現状を生々しく捉え、人々のありのままの声を届ける貴重な映像となって日本にやってくることの意義は大きい。


分離壁があるものの、イスラエルの入植地はどんどんパレスチナに侵出し、パレスチナとイスラエルとの境界は曖昧になっていく。
家族という自身のプライベートを撮るためのイマードのカメラは、世界が注目するドキュメンタリー映像を収めることとなり、公私の区別は消え去った。
ビリンの子供たちが抗議デモを行い、イスラエル軍に逮捕される姿に、「子供だから」「大人だから」という線引きは無い。
スクリーンに映る様々な“境い目”がウヤムヤな中で、パレスチナとイスラエルとの間にある“溝”はどこまでも鮮烈で、対立が決して止むことはない。

四方を海に囲まれ、他国との“境い目”がハッキリしている日本人は、土地を接して激しく相手と対立するという関係性は苦手なのではないだろうか。
第二次大戦末期、満州を守るべき関東軍が、多くの民間人を残したまま雪崩をうって撤退していったというのも、その表れだったのかもしれない。
ビリン村の分離壁を見ながら、ふとそんなことを考えていた。


壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び
2011年/パレスチナ= イスラエル= フランス= オランダ  監督:イマード・ブルナート、ガイ・ダビディ