政府のマイナンバー(社会保障・税番号)制度が始まり、子どもからお年寄りまで一人ひとりに12桁の番号を知らせるカードが、今月半ばから来月にかけて届きます。どのような手続きが必要で、どんな使い道があるのか。自身の情報が悪用されたり、流用されたりしないのか。様々な疑問点を読み解きます。
■手続きの流れは?
マイナンバーは、外国人を含め、日本で住民登録をするすべての人に割り振られる番号だ。結婚で名字が変わっても、原則として番号は一生同じだ。
もともとのねらいは、公正に税金を集めたり、年金を配ったりするため、個人の所得を正確につかむこと。いまは個人の情報を国や地方自治体がバラバラに管理しているが、2016年からマイナンバーで個人の情報を結びつけ、17年から国と自治体の情報システムをつなげる。政府はマイナンバーで検索すると、個人情報を簡単に取り寄せられるようになる。年金の不正受給や脱税といった不正行為が防ぎやすくなる。
番号を知らせる「通知カード」は、10月5日時点の住所に、簡易書留で世帯ごとに郵送される。実際に届くのは10月中旬から11月末の見込みだ。来年1月から希望者に無料で配られる「個人番号カード」の交付申請書が同封されている。
不在で受け取れなかった場合も封筒は1週間、最寄りの郵便局で保管され、自宅や勤務先への再配達が可能だ。その後は住所地の市区町村に戻されるため、原則として市区町村の窓口で受け取ることになる。
個人番号カードは、ICチップに個人情報が記録され、身分証明書などに使う。希望する場合、申請書に必要事項を書き、顔写真を貼り付けて返送する。スマートフォンで申請書のQRコードを読み取り、データを送る方法もある。
カードができるとはがきが届くので、はがきと通知カード、運転免許証などの本人確認書類を持って自治体の窓口で受け取る。その場で英数字6~16桁と、数字4桁の暗証番号を設定するため、暗証番号はあらかじめ決めておいた方がいい。本人確認のため、乳幼児も窓口に連れて行く必要がある。住民基本台帳カードを持っている人は、ここで返納する。
企業や町内会、学校で個人番号カードをまとめて申請し、自治体の職員に企業などまで出向いてもらうやり方もある。震災や家庭内暴力で避難している人は避難先の自治体窓口で申請することもできる。いずれも申請時に本人確認や暗証番号の設定をすると、自宅などに本人限定受け取りの郵便で送ってもらえる。
総務省の想定では、来年1~3月に配布する個人番号カードは1千万枚。申請が想定を上回った場合、カード発行までかなり待たされる可能性がある。
■便利になるの?
自分の情報が結びつけられることで、政府は「行政手続きが早くなる」と説明する。だが、手間が省けるのは、引っ越し手続きや生活保護の申請など、あまり日常的にしない手続きだ。積極的に活用される制度になるかどうかはまだ見通せない。
国と地方自治体のシステムがつながる17年以降は、社会保障の手続きで役所への提出書類が減る。引っ越して生活保護や児童手当を申請する場合、これまでは住んでいた自治体で所得証明書などを受け取り、引っ越し先の役所に届ける必要があったが、17年以降はマイナンバーを伝えるだけで、自治体が手続きを進める。
受け取り自由の個人番号カードはどうか。16年以降、一部の自治体では、カードがあるとコンビニで住民票の写しや印鑑登録証明書などを受け取れる。
インターネット上の個人用ページ「マイナポータル」にログインする時にもカードを使う。確定申告などがオンラインでできるようになるほか、行政が自分の情報を照会した履歴を確認できる。ただ、マイナポータルの開設は17年1月。それまで1年以上は身分証明書の利用が主になりそうだ。
■盗難や紛失の場合は?
通知カードが届いたら、なくさず持っておくことが大事だ。紛失すると、勤め先から番号をたずねられた時に困り、再発行など、手続きが面倒になる。
通知カードや個人番号カードの表面には、マイナンバーのほか、氏名や住所、性別、生年月日が記載されている。個人番号カードのICチップには、インターネット上の取引などで本人確認に必要な「電子証明書」の機能がある。悪用されないよう、紛失や盗難に気付いた場合は、クレジットカードの紛失時と同じようにコールセンター(0570・783・578)に連絡する。24時間体制で、個人番号カードの認証機能を止められる。
だれかが拾って警察に届けたり、コールセンターに連絡があったりした場合は、市町村を経由して連絡があり、窓口でカードを受け取る。カードが見つからない場合は、市町村の窓口で再発行してもらう。情報が悪用されるおそれがある場合に限り、マイナンバーの番号が変更される。
最初にカードを受け取る時は無料だが、再発行は有料となる。通知カードは500円、個人番号カードは千円を払う。
■情報流出の心配は?
米国では、マイナンバーに似た社会保障番号がサイバー攻撃で多数流出した。盗まれた番号をもとにクレジットカードが作られて売買され、不正に税の還付申告をされる犯罪が頻発している。同じことが日本で起きる心配はないのか。
政府は、マイナンバーで結びつけた個人情報は異なる符号を付けてやりとりするため、複数の機関の情報が芋づる式に漏れる可能性はない、と説明する。
今年6月、日本年金機構からの約125万件に上る個人情報流出が発覚し、政府の対策への懸念に拍車をかけた。年金機構は来年1月からマイナンバーを扱う予定だったが、当面の延期が決まった。
企業からも情報流出する可能性がある。政府は来年1月に設立される「個人情報保護委員会」に行政機関や企業への監視役を担わせる。マイナンバーを含む個人情報を漏らした場合の厳しい罰則もつくった。
ただ、あらゆる企業が従業員のマイナンバーを扱ううえ、身分証として個人番号カードを示されたレンタル店の店員など、他人のマイナンバーを目にする人は多く、情報漏れを完全に封じるのは難しい。
■勤め先になぜ教えるの?
本来、マイナンバーは他人に教えてはならないものだ。だが、勤め先の企業から「マイナンバーを教えてほしい」という連絡がくるはずだ。
企業は、役所に提出する給与の源泉徴収票や健康保険の書類などに、従業員のマイナンバーを一つ一つ正確に書き込むよう求められているからだ。正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員も含めたすべての従業員が対象。それぞれ扶養している家族がいれば、その番号も伝える。
従業員は利用目的の説明を会社から受けた上で、運転免許証やパスポートを会社に示し、通知カードに記された番号を伝える。個人番号カードを受け取っていればそれを示せばいい。
企業は番号が漏れないように、厳格な情報管理が求められる。だが、大企業になれば家族も含め、10万人単位のマイナンバーを管理しなければならない。中小企業も新たなシステム投資の負担がかかる。企業にとってはメリットがあまりない仕組みだけに、番号がきちんと管理されているか、従業員は目を光らせる必要がある。
■将来的にはどう利用?
マイナンバーの利用範囲を広げるには、マイナンバー法の改正が必要だ。
9月に成立した改正法では、18年から、本人同意を条件に銀行口座の情報を番号と結びつける。悪質な所得隠しや生活保護の不正受給を調べる時、預金の状況を把握しやすくするためだ。
政府は21年をメドに、銀行口座への結びつけを義務化する方向で検討している。だが、国民の財布の中身を政府が簡単にのぞき見できるようになるだけに、国民の抵抗感は強そうだ。
9月の改正法では、「メタボ健診」の記録や予防接種の記録を番号と結びつけて使えるようにした。引っ越しの時、乳児の予防接種の履歴が転居先の自治体に引き継がれるようになる。将来的には、さらに幅広く健康情報や戸籍にも結びつける案も出ているが、血縁関係などの情報まで使うことに、国民の理解を得るのは簡単ではない。
財務省は9月、消費増税の負担軽減策として、個人番号カードを使って払いすぎた税金を還付する案を示した。だが、公明党などが反対し、実現するかどうかは不透明な状況だ。
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■なぜ必要か、説明尽くして
経済ジャーナリストの荻原博子さんの話 マイナンバーのメリットは役所に出す書類が少し省ける程度で、一般の人からみるとなくても困らない、と映る。制度の仕組みが分かりにくく、従業員の番号を集めなければならない中小企業の負担も重い。消費者がいちばん恐れるセキュリティー面の課題も説明が十分とは言えない。政府にとっては徴税強化の「打ち出の小づち」かも知れないが、ムダな支出をなくす努力を怠ったままでは理解は得にくい。一般の人の視点から、なぜ必要といえるのか、政府は説明を尽くすべきだ。
■納税者も監視・検証の目を
三木義一・青山学院大教授(税法)の話 将来的には、マイナンバー制度のような税と社会保障の適正化の仕組みは必要だ。しかし、国民と政府との信頼関係が育っておらず、制度への理解は広がらなかった。政府主導で導入が進められたのは確かだが、反発を意識して恐る恐る進めてきた面がある。制度が始まるいま、国民の側も「お上が勝手にやっているだけ」という受け身の姿勢だけではダメだ。大事なのは、私たち納税者からみて本当に必要な制度と思うかどうか。今後は私たちが監視や検証を進めていく必要がある。