米海軍の駆逐艦が26日夜(日本時間27日午前)、中国が南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島で埋め立てた人工島から12カイリ(約22キロ)内に進入し、航行の自由を行動で示す作戦を実施した。米国防総省当局者が明らかにした。この海域で中国の領有権を認めない目的もある。中国が大規模な埋め立てを始めた昨年以降、米軍が南シナ海でこの作戦を行うのは初めて。
米軍が実施したのは「航行の自由作戦」。米国防総省のデービス報道部長は同日、この作戦について「領有権などで度を越した主張をする国に対し、事前通告をしないでその海域や空域を航行し、航行の自由があることを示す」と語った。中国が南沙諸島で埋め立てた人工島に他国の船や飛行機を近寄らせない主張が、度を越した主張にあたるとの考えを明らかにした。
国防総省当局者によると、米海軍が派遣したのは、第7艦隊の拠点である横須賀基地所属のミサイル駆逐艦ラッセン。中国が南沙諸島で埋め立てをし、3千メートル級の滑走路を建設しているスビ礁から12カイリ内の海域を航行した。
ロイター通信などによると、任務は数時間で完了するという。スビ礁は中国が埋め立てる前は、満潮時に岩が海面下に沈む暗礁だったとされ、国際法上も12カイリ内は領海にならない。米政府は、国際法上認められた海域の航行の自由を示すだけでなく、この岩礁周辺の領有権も認めないことを行動で示す狙いもある。
また別の米軍当局者は朝日新聞の取材に対し、「ラッセンは太平洋地域の安全と安定を守るため、この海域でパトロール任務を実施している」と語った。ラッセンは数日前までマレーシアにいたが、作戦決定を受けて南シナ海で任務についたとみられる。
オバマ政権は9月の米中首脳会談後に、米海軍の艦船を派遣する決断をしていたが、今回、時期や場所などを確定させ、実行に移した。
在米中国大使館の朱海権報道官は、「航行の自由(作戦)を、影響力の拡大や他国の領有権と安全を傷つけるための言い訳にすべきではない。米国が挑発的な言動を抑制し、地域の平和と安定を維持する責任を果たすことを促す」との声明を発表した。
中国は南シナ海の大半の海域を「9段線」と呼ばれるラインで取り囲み、独自の管轄権を主張。習近平(シーチンピン)国家主席も米中首脳会談で「南シナ海の島は昔から中国の領土だ」と述べた。米政府は中国の主張には国際法上の根拠がないとしている。(ワシントン=奥寺淳)
■中国の反発は必至
中国側は「南シナ海の諸島は古くからの中国の領土」(習近平(シーチンピン)国家主席)としており、米海軍の12カイリ内進入を「領海侵犯」だとして激しく反発するのは必至だ。王毅(ワンイー)外相は27日午前、北京市内で朝日新聞などの取材に対し、「米側はよく考えて行動するよう忠告する。軽々なことは慎むよう求める」と米側の動きを強く牽制(けんせい)した。