首都圏をぐるりと結ぶ圏央道。31日午後、埼玉県内の区間が全線開通する。東名高速と中央道、関越道、東北道が圏央道を通じて初めてつながり、東名から東北道までは首都高経由より約1時間短くなる。沿線では物流施設や工場の新設が相次ぐ。観光へのプラス効果にも期待が高まるが、ふくらむ建設費負担への懸念もある。
開通するのは桶川北本インターチェンジ(IC、桶川市)―白岡菖蒲(しょうぶ)IC(久喜市)間の10・8キロ。関越道と東北道が圏央道経由で初めて結ばれる。人や物の行き来が一段と便利になると沿線の期待はふくらむ。
「新しい時代が開かれる歴史的な日だ。圏央道を通じて街づくりに寄与していきたい」。この日午前、開通区間に新設された菖蒲パーキングエリア(PA、久喜市)であった開通式で、埼玉県の上田清司知事は力を込めた。
都心の渋滞を避けて輸送時間を短縮できると見込む企業は、沿線に物流拠点や工場を新設する動きを加速させている。埼玉県内では味の素グループが昨年5月、久喜ICの近くに物流センターを開設。家具大手のニトリも幸手ICの近くに、関東一円の店舗に商品を供給する物流拠点を設け、2018年に完成させる予定だ。
神奈川県内でも、ヤマトホールディングスが13年8月、相模原愛川ICの近くに最新鋭の物流拠点を設けたほか、大和ハウス工業などが賃貸用の物流施設を次々に建設している。
トラック大手の日野自動車は17年をめどに、本社のある東京都日野市から茨城県古河市に大・中型トラックの組み立て工場を移す。移転先は境古河ICのそば。「(東京や群馬を含む)4工場が高速道でつながった。物流の利便性が増す」(広報室)と、今回の開通を歓迎している。
観光にプラスになるとの期待も高まっている。
栃木県日光市のホテル業界は、圏央道・東北道を経由して神奈川県から訪れる観光客が増えるとみて、「神奈川県民特別プランなどをつくって日光の魅力をアピールしたい」(関係者)と早くも知恵を絞る。
湘南の観光地・江の島周辺ではすでに熊谷や群馬といった車のナンバーが目につく。江の島を抱える藤沢市観光協会などは、東北道までつながる今回の開通を「またとないチャンス」とみる。近年は春先にキャラバン隊を仙台に送って観光キャンペーンをしてきた。
長野県松本市のアルピコ交通は江の島方面へのバスツアーを日帰り中心にした。昨秋には1泊2日のツアーもあったが、移動時間が30分以上縮み、割安で参加しやすい行程に変えた。
千葉県内では6月、神崎IC―大栄ジャンクション(JCT)間の9・7キロが開通。宇都宮市と成田空港を結ぶ高速バスは9月から圏央道経由にルートを変更し、所要時間は30分短くなった。成田空港は9月、格安航空会社などとともに同市でイベントを開き、「国内旅行も成田から」とPRした。沿線の競争は激しさを増している。
■当初より膨らむ建設費、渋滞の慢性化も
圏央道の沿線自治体に立地する工場の面積は14年で85ヘクタール。20年前の6倍近くに増えた。国土交通省の幹部は異口同音に「企業進出など『ストック効果』が大きい」と胸を張る。ストック効果とは、インフラ整備が沿線地域の経済に長期的に及ぼす好影響のことだ。
とはいえ、圏央道の建設には巨額の公共事業費が投じられている。事業に着手した直後の86年に「約2兆円」と説明していた総事業費は、04年に「3兆円」、いまでは「概算3・5兆円」にふくらんだ。全区間の8割が完成したが、未開通区間には、地盤が弱く追加の対策が必要な部分や、用地買収が難航している部分があり、総事業費はさらにふくらむ可能性もある。維持管理にかかる費用をどう捻出するかも課題だ。
国交省は来年4月、圏央道の通行料金を都心を通った場合と同程度に値下げする。首都高の渋滞緩和が狙いだが、東名と圏央道が交わる神奈川県海老名市の海老名JCTでは渋滞が慢性化している。国交省は「高速道路の本来の機能が発揮されていない」(横浜国道事務所)とみて渋滞対策に乗り出した。
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〈圏央道〉 都心から半径40~60キロに計画された環状の高速道路。神奈川県厚木市、東京都八王子市、埼玉県川越市、茨城県つくば市、千葉県成田市などを経由し、総延長約300キロ。今回の開通で供用区間は約241キロになる。神奈川、千葉、茨城各県に建設中や未着工の区間があり、全線開通のめどは立っていない。