オアマル − モエラキ村 − パーマストン − ワイコウアイティ − ダニーデン
オタゴ地方
オアマルの街を南に抜けるのは少々骨が折れる。
町外れ、いきなり心臓破りの坂がある。それは悪夢の始まりでしかなく、そこからは34km先のハムデン/モエラキまでずっと、延々と登り降りが連続する。50m100m登っては下るを無数に繰り返すのだ。
キツいぞ。
おまけに途中から小雨が降り出した。天気予報は当たらない。
汗なのか雨なのか両方なのか。
もうビショビショだ。
ハムデンに着いた。
やっと晴れた。
34km走るのに2時間半かかった。
昼メシの間に濡れたものを乾かす。
昼メシはバナナとニンニク(写真下)
まもなくモエラキの浜がみえてきた。
ここから国道を外れて3キロほど東にいくと村があり、小さな漁港がある。
そこのキャンプ場は、凄くいい。
古いけれどよく手入れされたキャビンがある。
格安な上、海側に大きな窓があり、ビーチが例えようのない美しさだ。
そこは、10年くらい前にたまたま立ち寄ったときに見つけた。今回は通過するけど次回は再訪しよう。
モエラキは、モエラキボールダーという球状の石の産地として知られる。
主にガーデニングに使われ、よく庭先に置いてあるのを見かける。
ボールみたいなのが、海岸にゴロゴロしている。
モエラキ・ボールだ。(モエラキ・ボールダーのこと言ってます)
砲台みたいだ。
モエラキからは道路は穏やかになる。
25キロ先のパーマストンまでは平和なサイクリング。
しかし、カーチェイスに遭遇!
クラクション鳴らしまくりながら猛追している。双方、怒り狂っている。
国道の端っこを走る自転車など眼中にない。
恐怖だった。
しばらく走ると、かなり先にパトカー?
先ほどのカーチェイス二台ともに御用になっていた。
警察グッジョブ👍
あのままだと路上で喧嘩になっただろうから、
暴力事件を未然に防いだことになるだろな。
偉いぞ警官!
パーマストンの町を見下ろす塔が見えてきた。
1910年代の石造り。建設はかなり大変だったはずだ。
パーマストン駅。
旅客が廃止され駅舎は現在パブになっている。
パーマストンの先にあるワイコウアイティ集落。
定宿にしているお気に入りの宿泊施設があるのだけど、なんと満室だ。
その宿は酒場に隣接している。
なんでも、
メルボルンカップで盛り上がった周辺の牧場のお父さんたちが夕方になると酒場に集い、そのまま酔っ払うので
今夜の宿泊棟は満室になんだという。
メルボルンカップは、盛り上がりたいお父さんたちが酒場に集う格好の口実になっている。
お父さんたちは、なにかと口実を見つけては酒場に行きたくてソワソワしている。
お母さんたちもたぶん、そんなこと承知で送り出しているのだろう。
「アンタッ!飲み過ぎるんじゃないよ!」
背中で聞きながら、
お父さんはいそいそとトラックに乗り込んで酒場に繰り出す。
いいな。
俺も、盛り上がりたい…。
仕方がないので3キロほど先のビーチキャンプ場に移動。
誰もいないキャンプ場で孤独に宿泊。
メルボルンカップの季節は要注意だ。
ワイコウアイティからは峠になる。
20kmほどでいったん峠は終わり、カーギル山の麓の入り江、ワイタティ村に至る。
ここからはもう、ダニーデンの街は近いけど、
国道は「自動車専用道路」になるので自転車は走れない。
迂回路がある。
その迂回路は、カーギル山を越えていく。
カーギル山の向こうは、直ぐにダニーデンの街だ。
さあ、カーギル山を登ろう!
カーギル道は四国の峠越えのような道で、ダラダラと標高400mほどまで登る20kmの行程だ。
ニュージーランドの主要峠と比べるとかなり易しいが、
穏やかな国道を走らせてもらえず、わざわざ迂回させられている感が、なんとも切ない。
しかも、嫌な予感。山頂付近が只事ではない。
そして、それは、いきなりやってきた。
登り始めは晴れていた。
登り始めて30分。標高200mほどまで登ってきたところで雨が降ってきた。
空にはまだ晴れ間が見えているので止むかもしれないと思い、大きな木の下で雨宿り。
しかし一向に止む気配はなく、雨はますます激しくなってきた。
仕方がないのでレインウェア着用。
基本、雨の日は走らないと決めているにも関わらず、またしても雨具登場だ。
その間も、雨、どんどん降る。
そのうち、凄い音(轟音)が近づいてきたなと思ったら、雹が降ってきた。
うヒョー!
くだらないオヤジギャグを言うてる場合じゃない。
木の下もヤバくなってきたので、雨具完全版に移行。
両方の靴にスーパーのレジ袋を履かせる。
オーバーグローブ着用する。
ヘルメット上からフードすっぽり被る。
突然、地響き!
バリバリドーン!
雷が頭上から降ってきた。
しかし、もう身動きは取れない。
木の下は危険とかいうけど、いま雷雲の直下で飛び出して雷の射程圏内をウロつくほうがヤバくないか?
もう、ちっちゃくなって、じっとしているしかなかった。
30分ほどだろうか。
徐々に雷鳴りが東の方に離れていく。
雨も小降りになってきたので、頭を上げた。
西の方は、
雲が途切れて青空も見える。
ひんやりした空気、思い切り酸素を吸う。
しかしだ。
第2波がありそうだ。
西から、えげつない積乱雲が追いかけてくるのが見える。すでに、さほど遠くもない。
いかにも、ヤバい。
猶予は1時間か、それ以下か?
カーギル山は、あと40分くらいで登れると思うが、道は濡れているので速度は落ちるだろう。
しかし考えている暇はない。小雨のなか登り始める。
雨具装着の完全版は、つまりサウナスーツ。
暑いわ!
まもなく雨は上がったが、どうせまた降るのだから、そのまま着て登る。
汗、だらだら。
袖を振ると、レインウェアの袖の部分に汗が溜まってチャプチャプと音がする。
袖口を開き、真下に向けたら、
ジャーッと、小便みたいに地面に汗が流れ落ちていった。左右とも。
レインウェアの意味なし。
中もビショビショだ。
標高300m。
異変あり。
突然、
GPSが不能になる。
台風や雷雨のとき、ほら、
衛星放送が映らなくなるアレだ。
GPS衛星の電波が、入らないのだ。
やばい予感。頭上は分厚い雲ってことだ。
雷がくるぞ。
暫くしてGPSは回復したが、標高表示やトリップメーターが異常値を示す。
機器はもうアテにならないから、がむしゃらにペダル漕ぐ。
ペダルに集中だ。
雨、再び降り出す。
やっぱりきた。
雷が先か、俺が先か。
最悪なのは、カーギル山頂上で雷に遭遇すること。
そうなるともう、雷は上からだけでなく、周囲からも襲ってくる。
360度、死角なし。
真横や、斜め下からも雷がくる。
そこらへんの大気が帯電しており、目の前でパシッとフラッシュが起こったりする。
昔、大雪山系で経験した。
あれは怖い。
もう、嫌な予感しかない。
俺、必死こいて漕ぐ。
そのうち、また雹きた。
金平糖みたいな氷の塊がバチバチ当たる。
痛い。痛い。
痛いけど、このあとお約束のように襲ってくる雷が嫌だ。
うヒョー!
やめてぇー!
必死。
雷鳴きた。やっぱりきた。
まだ大丈夫?
いや、やばい。
標高計、360m?
まだまだか…。
いや、GPSは、さっき狂ったはず。デジタル機器は全滅だ。
そこらへんの大気が帯電しているのか、無茶苦茶な数値が表示されたりする。
もう、あてにはならない。
しかし、この景色に見覚えあるような気がしている。
雷鳴。
雷鳴。
ゴロゴロ…
あ、山頂!やっぱり!
山頂無視。 通過。
ゴロゴロ、ゴロゴロ、
しかし少し離れてる。
やがてMt.カーギルロードは下りになった。
必死で漕ぐ。
ハンドルぶれる。
新しい自転車と新しい荷台は相性最悪。
下り坂でブルブルして、危なくて仕方ない。
ぐらん、ぐらん…
ハンドルぶれる。
しかし、ディスクブレーキきく。
雨でも雹でも、きっちりきく。
これで普通のブレーキだったら、俺死ぬな、たぶん。
ガンガン、下る。
Mt.カーギル、くだる。
手が痛い。
ブレーキは握りっぱなしだ。
ダニーデン見えてきた。
雨のダニーデン。
雨、ますます激しく、
しかし、
雷はいつの間にか遠のいていく。
やれやれ、
やれ、やれ…
雨上がりのダニーデン。
もう連泊決定だな。
レインウェアも何もかも洗濯して、
身体を休めよう。
一週間毎日休まず走ったから、そろそろ休んでいいよな。
街の中心部に近い、偶然見かけた、
選択する余裕は、なかった。
リビング・ダイニングと寝室が別だった。
豪華だが、
このあたりには、日本食レストランがいくつもある。
写ってるだけで、3〜4軒。
でも、たぶん行かないと思う。
それにしても、
疲れた。
「久々に、ボコボコにされたな。」