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「家計債務は破綻寸前」?数字で見る韓国経済破綻の危機

2018-10-19 12:49:33 | 日記
韓国の資金循環統計分析

新宿会計士

物価水準の違う日本を上回る家計債務

ところで、私は以前からこの資金循環統計で、さまざまな国の債務状況を分析しています。ユーロ圏や米国なども興味深いのですが、やはり気軽に入手でき、分析できる国といえば、お隣の国でしょう。

これについて、韓国銀行が発表する資金循環統計によれば、2018年3月期における家計資産は3719兆ウォン、つまり約370兆円です。

日本円に換算すれば、日本の家計資産(1829兆円)と比べて、ちょうど5分の1程度です(図表4)。

図表4 韓国の家計の金融資産(2018年3月末)


取引項目

金額



現金・預金 1608兆0022億ウォン 43%

保険年金基金 1173兆0030億ウォン 32%

株式・投資信託 766兆0020億ウォン 21%

金融資産合計 3718兆0024億ウォン 100%

(【出所】韓国銀行データより著者作成)

しかし、家計債務は1710兆ウォン、つまり約171兆円であり、日本円に換算すれば、日本の家計債務(318兆円)の半分以上を占めています(図表5)。

図表5 韓国の家計の金融負債(2018年3月末)


取引項目

金額



借入金 1603兆0041億ウォン 94%
(うち短期借入金) 381兆0014億ウォン 22%
(うち長期借入金) 1221兆0026億ウォン 71%
金融負債合計 1709兆0033億ウォン 100%


(【出所】韓国銀行データより著者作成)

冷静に考えれば、韓国の人口(5125万人)は日本(1.27億人)の半分以下ですから、人口当たりで見た家計債務負担は日本を上回っています。

•韓国の人口当たり家計債務…約334万円

•日本の人口当たり家計債務…約250万円

韓国の家計が日本の家計と比べてカネを借り過ぎているのか、日本の家計が韓国の家計と比べてカネを借りていなさすぎるのかは一概にはいえません。

なぜなら適正な債務の水準は収入や資産の水準、経済成長率やインフレ率などに応じて変わるからです。

いずれにせよ、日本の家計債務は韓国の家計債務と比べて少ない、あるいは韓国の家計債務は日本の家計債務と比べて「多すぎる」、と申し上げて良いでしょう。

家計が借金まみれの国



では、韓国の場合はこの借金をどう見れば良いのでしょうか?私自身が先日からコメントを禁止されてしまった『中央日報』(日本語版)に、昨日、こんな記事が掲載されています。


韓経:借金まみれの韓国の自営業者…金利上がれば48万人が信用不良者(2018年07月31日10時10分付 中央日報日本語版より)

といっても、元記事を配信したのは『韓国経済新聞』であり、中央日報はこれを翻訳しているに過ぎません(ただし、ここでは掲載しているのが中央日報であることから、「中央日報によると」、などと表現したいと思います)。

この中央日報の記事によれば、退職金に加えて借入までして食堂などの店を開きながら、借金を返せなくなる自営業者が増加しているのだとか。

そして、自営業者世帯当たりの負債は1億ウォンを超えたなどと記載されています。

ここで、1円=10ウォンと換算すれば、自営業者は1人あたり1千万円程度の借金を負っている計算です。

といっても、日韓の物価水準の違いなども考えれば、日本でいえば実質的・心理的には2千万円程度の借金を負っているようなものではないでしょうか。

中央日報は韓国の債務負担の問題を、こう述べています。


「稼ぐ金額より返さなければならない利子が多く増え負債を返せない自営業者が続出している。

統計庁によると、1カ月以上返済を延滞した経験がある自営業世帯は2016年基準で全自営業世帯の4.9%に達した。

常勤労働者世帯の延滞世帯の割合1.7%と比較すると3倍に達する水準だ。」

なるほど。債務の延滞が生じるのは、日本でいえば不良債権の一歩手前であり、状況はかなり深刻です。

利上げしたら爆死する経済

要するに、韓国経済は現在、利上げをしてしまえば、金利負担で家計債務の破綻が相次ぐ、ということです。

日本の場合は、これだけ利下げをして、日銀当預の一部にはマイナス金利まで適用している状況にあるというのに、それでも家計も企業もおカネを借りてくれません。

しかし、韓国の場合は逆に、利上げをすると家計債務の破綻が相次ぐため、下手に利上げをすることができない、ということでもあります。

もし中央銀行である韓国銀行が利上げを行えば、市中の銀行の貸出金利も上昇し、家計としては収益力が追い付きませんから、借金を返そうにも返せないという悪循環に陥ります。その結果、家計債務が返済能力を超えてしまい、多くの人々が破産に追い込まれるのです。

では、どうして韓国では日本と違って、ここまで家計が重い債務負担を負っているのでしょうか?

おそらくその理由の一つは、雇用政策の失敗です。

日本だと、大企業や中小企業などが従業員を雇い、経営の専門家に経営を任せ、人々は安心して会社などの組織で働く、という仕組みが整っています。

また、万が一、会社が潰れたりしても、雇用保険などの制度も整っているため、一時的な失業で生活が破綻する、ということは、あまりありません。

さらに、とくに大企業がそうですが、50代以降に第一線から外れた人であっても、子会社、関連会社などに出向先が用意されていることがあります。

年金が支給される60代半ばまで、どこかで働くことができるため、わざわざリスクを取って、慣れない事業を起こす必要がないのです。

これに対し韓国の場合は、そもそも企業が40代の時点で「肩たたき」を行います。

そして、第一線から外れた人は、まだまだ働けるにも関わらず、自分で転職先を探すか、それともリスクを取って、慣れない事業を起こす必要があります。

貯金をしていなければ、銀行から借りるしかありません。

だからこそ、事業性ローンの残高が積み上がっているのです(※もしかしたら、「カネを借りるのに抵抗がない」という民族性もあるのかもしれませんが、このあたりの事情は定かではありません)。


破滅に向かう韓国経済

最低賃金の引き上げが凶と出るか?

さて、文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領は、最低賃金の引き上げを政権公約に掲げており、当初の予定だと「2020年までに最低時給を1万ウォン(日本円換算で約1千円)に引き上げる」こととされていました。

この公約自体は達成が危ぶまれているものの、それでも先日、最低時給の引き上げが行われたばかりです(これについては『失業率対策を致命的に失敗する文在寅大統領の経済オンチぶり』で触れていますのでご参照ください)。


私自身は、企業側の体力が十分でないなかで、最低時給だけを引き上げれば、コストカット、つまり雇い止め、人員削減という方向に動くことは仕方がないと思います。

これについては「全体で100人の労働力があり、会社が1つある国」を考えてみればわかります。

たとえば、100人のうち90人が10万円の月給を受け取っていて、10人が失業していれば、この社会全体の人件費は900万円(=10万円/人×90人)です。

しかし、ある日、政府が「1人あたりの月給を15万円にしなさい!」という命令を出したしましょう。

このままだと、企業が負担する人件費は1350万円(=15万円/人×90人)に増えてしまいます。

好景気で企業がこの人件費を吸収できるだけの利益をあげていれば問題はありませんが、企業が負担できる人件費の上限が900万円だったとすれば、何が発生するでしょうか?

私が企業経営者なら、

「①政府命令を無視して10万円で90人を雇ったままにする」か、

「②政府の命令を守って1人あたり15万円を払うが、負担できる人件費の上限は900万円なので、人材を削減する」か、そのいずれかです。この場合は、



①…900万円÷10万円/人=90人


②…900万円÷15万円/人=60人

•①-②=30人

つまり、30人を解雇すれば、政府の命令どおり、1人あたり15万円を支払うことができます。

その結果、解雇されなかった人の給料は5万円増えますが、給料を貰えない失業者が30人増えてしまいます。


(A)【月給10万円だったとき】…90人が月額10万円を得て、10人が収入ゼロ

(B)【月給15万円だったとき】…60人が月額15万円を得て、40人が収入ゼロ

給与所得者が貰う給料は確かに1.5倍に上昇しますが、収入ゼロとなる人が4倍になってしまいます。

(A)、(B)のいずれが良いかと聞かれれば、社会科学的な立場からは、私ならば(B)よりも(A)の方が好ましいと思います。

利上げも利下げもNG?

韓国経済がこのぬかるみから脱出するために、1つの有力なソリューションがあるとしたら、中央銀行が大胆な緩和政策を取ることです。

マネーの供給量を増やしても良いですし、金利を引き下げても良いのですが、要するに、金融緩和をすれば、景気が良くなり、雇用も拡大します。

ただし、この場合は韓国の通貨・ウォンが非常に安くなります。

米国に睨まれ、「為替操作国認定」を受けると、今度は米国からの経済制裁を喰らいます。

韓国のようにGDPに対する輸出依存度が40%という国にとっては、これは非常に大きな脅威です。

それだけではありません。無秩序なウォン安が発生すれば、今度は外資が韓国から引き揚げてしまい、韓国は国全体が外貨不足になってしまいかねません。

そうなると、今度は通貨防衛をしなければならず、いったん危機が発生してしまえば、急激な金融引締めに転じざるを得ません。

金融引締めはただでさえ大変な状況にある韓国経済にとっては自殺行為ですし、金融緩和は米国から睨まれる恐れと通貨危機の恐れがある――。

そうなってくれば、韓国にとっては利上げもNG、利下げもNGという、非常に難しい局面が到来していることは間違いなさそうです。

韓国といえば、今や私たち一般の日本国民とは何のかかわり合いもない、そして日本とは価値も利益も共有していない、ただの隣国です。


その「ただの隣国」がどうなろうが、本来であれば強い関心を持つのも変な話ですが、

それでも金融規制の専門家という立場からは、「国家破綻のモデルケース」となるのかどうかは、非常に興味深いテーマの1つでもあることは間違いなさそうです。


※本文は以上です。