文在寅政権と韓国芸能界で相次ぐ自殺の関係 「悪プル」「指殺人」がなくならない社会
デイリー新潮2019年12月24日06時00分
文在寅政権と韓国芸能界で相次ぐ自殺の関係 「悪プル」「指殺人」がなくならない社会
韓国芸能人の自殺やうつ病の告白が止まらない。
10月14には女性アイドルグループ「f(x)」元メンバーのソルリが自殺。その衝撃も冷めやらない11月24日には元「KARA」のク・ハラも自ら命を絶ち、ファンに衝撃を与えた。今月18日は「SHINee」のジョンヒョンが27歳でこの世を去ってから丸2年になるが、今年もまた同じ悲劇が繰り返された。
ハラの死は元恋人とのリベンジポルノ裁判によるストレスも要因といわれているが、悪質な誹謗中傷に苦しめられていたのは日本でも報じられたとおりだ。韓国では悪質な書き込みを“悪プル”と呼び、指でキーホードを叩いて人を死に追い詰める“指殺人”が社会問題化している。このような悪プルが多くの韓国芸能人を苦しめ、ソルリとハラも指殺人の被害者といえるだろう。
ソルリとハラの悲劇が続き、韓国でも悪プルを批判する声が高まったが、それも束の間。常識的な社会であれば悪プルが減りそうなものだが、ハラの自殺からわずか10日後に今度は男性アイドルが悲鳴を上げている。ボーイズグループ「Wanna One」出身のカン・ダニエルが悪プルに対して苦痛を訴え、音楽番組の収録を欠席。うつ病とパニック障害と診断され、芸能活動を休止することになったのだ。
カン・ダニエルが発した「誰か助けて」という一言だけでも、韓国芸能人に浴びせられる言葉がいかに過激で残酷か容易に想像できる。彼は「なぜ僕が毎日、悪口を言われるのか」と問うたが、誹謗中傷はやみそうにない。
安易な経済政策で過去最悪の就職氷河期に
ハラが自殺する10日前、韓国では日本のセンター試験にあたる大学修学能力試験が行われた。毎年、この日は体が凍りつくほど寒くなるというジンクスがある。今年も例外ではなく、日中の気温は氷点下2度という寒さだった。
その冷え込みはまるで受験生の未来を暗示しているかのようだ。大学に受かったところで果たして何割が希望の企業に就職できるのか。経済が良くなる兆しはなく、むしろ今後もっと悪くなるだろうと学生たちも想像しているという。
韓国観光公社で働く40代の女性は「日本人と比べ、今の韓国人には“人生を楽しむ”という感覚がない」という。
「自分が子供だった頃と違い、最近では小学校から塾に通うのが当たり前。学生時代も競争が熾烈で、必死に生きて勉強しなければ人より遅れをとってしまう」
たとえ大学に入学できても、迫りくる就職活動もまた“戦争”といわれるほど過酷だ。「特にこれからの若い世代はかわいそう」と彼女は懸念する。
というのも、若者たちの支持を得て誕生した文在寅大統領だが、人気取りのための経済政策は悲惨な結果を招いたからだ。「労働者の生活を良くする」と急激な最低賃金の引き上げを行ったものの、これに企業は悲鳴を上げた。そもそも売上が伸びないのに人件費だけ膨らんでいくのだから。
当初は最低賃金の引き上げに多くの労働者が歓喜したが、企業が人件費を抑えるため雇用を減らすという本末転倒な結果となった。失業率の上昇に拍車がかかり、中央日報が「新卒大学生でさえ正社員として就職できるのは10人に一人」と報じたほど。
12月16日、文大統領は「雇用は改善している」と口にしたが、高齢者と短期雇用が増えただけという指摘もある。
この就職氷河期に、運良く正社員として入社できたとしても会社がいつまでも安泰とは限らない。今も働き盛りの30〜40代の就業者数が減っており、50代の会社員もリストラの恐怖にさらされている。
果たして自分は豊かな人生を送れるのだろうか。そう考えた場合、韓国社会で勝ち残るのは相当大変なことだろう。そんな不安を払拭するために多くの国民が文大統領に期待を寄せていたが、その現政権の経済政策で自分たちの就職がより困難になるとは夢にも思わなかっただろう。
「心に余裕がないせいか、他人よりも自分だけが大事で、人々から優しさや思いやりが徐々になくなっている感じがする。生まれてくる国は選べないから、私はせめてこの時代に生まれなくてよかったとしみじみ思います」(前出・韓国人女性)
別の30代女性もこうした背景から「ネット上での悪質な書き込みはなくならない」と断言する。
「景気悪化に伴い、気づけば自己顕示欲の強い人を生み出しやすい社会になっている。ネット上では他人を追い詰めて自分を優位に立たせようとする人が多い。実生活では負け組でも、ネット上では誰でも相手を攻撃し、自分が優位に立つことが可能だから」
まさに、今の韓国のストレス社会がそうさせているのだ。
「自分の不幸は他人のせい」理不尽な怒りの矛先は?
一般の若者たちにとって芸能人は憧れの存在であると同時に、妬みの対象でもある。未来予想図を描けない人たちが、時に華やかに見える芸能人をやっかみ、憎しみを覚える気持ちは分からなくもない。
しかも今年は人気芸能人の性暴力事件や薬物使用等といった不祥事が次々と明らかになり、ファンを大きく失望させた一年だった。中には法を犯しても警察がもみ消したケースさえあった。
自分たちはこれほど辛く不安な毎日を過ごしているのに、夢を与えてくれるはずの芸能人は楽をして金を稼ぎ、贅沢な暮らしをしている。そう感じた人は黙っていられなかっただろう。愛情と憎しみは紙一重で、韓国人は愛情が深い分、それが憎しみに変わったときの反動が大きい。自分の意にそぐわない芸能人への個人攻撃が始まったとしても不思議ではない。
フェミニストとして発言し、健康に良くないからと“ノーブラ運動”をしていたソルリは生意気だと叩かれた。ハラは元恋人とのトラブルに加え、親日家であることも批判されていた。また、寝ながら「おやすみ」と書いてSNSに投稿すれば「芸能人は寝ながら金を稼ぐのか」とコメントがつく始末だ。
カン・ダニエルはアイドルグループ「TWICE」メンバーのジヒョとの交際が発覚し、アンチファンが急増。「歌手活動に集中するべき時期なのに自己管理を怠った」と集中砲火を浴びている。最近では歌手のソン・シギョンも日本で食べた料理をSNSに投稿し、「売国奴」とバッシングされた。新たに攻撃の的となったソン・シギョンは「人々の憎悪を感じる」と打ち明けている。
このように、ファンが望まない行動をしようものなら容赦ない攻撃を受けることになるのだ。もはや「アンチもファンのうち」などとは言っていられない。
大学入試の日、文大統領は「最善を尽くしたら夢は必ず叶う」と受験生にエールを送ったが、本当にそうだろうか。そこがヘル朝鮮(地獄と朝鮮を組み合わせた造語)である以上、最善を尽くしたところで夢など叶いそうにないのだが。
韓国経済が良くなり、社会が成熟しない限り、悪プルや指殺人は決してなくならない。韓国芸能人が心の病を発症したり自殺したりするといったリスクはますます高まるばかりだ。(文中敬称略)
児玉愛子(ライター)
週刊新潮WEB取材班編集
2019年12月24日 掲載
デイリー新潮2019年12月24日06時00分
文在寅政権と韓国芸能界で相次ぐ自殺の関係 「悪プル」「指殺人」がなくならない社会
韓国芸能人の自殺やうつ病の告白が止まらない。
10月14には女性アイドルグループ「f(x)」元メンバーのソルリが自殺。その衝撃も冷めやらない11月24日には元「KARA」のク・ハラも自ら命を絶ち、ファンに衝撃を与えた。今月18日は「SHINee」のジョンヒョンが27歳でこの世を去ってから丸2年になるが、今年もまた同じ悲劇が繰り返された。
ハラの死は元恋人とのリベンジポルノ裁判によるストレスも要因といわれているが、悪質な誹謗中傷に苦しめられていたのは日本でも報じられたとおりだ。韓国では悪質な書き込みを“悪プル”と呼び、指でキーホードを叩いて人を死に追い詰める“指殺人”が社会問題化している。このような悪プルが多くの韓国芸能人を苦しめ、ソルリとハラも指殺人の被害者といえるだろう。
ソルリとハラの悲劇が続き、韓国でも悪プルを批判する声が高まったが、それも束の間。常識的な社会であれば悪プルが減りそうなものだが、ハラの自殺からわずか10日後に今度は男性アイドルが悲鳴を上げている。ボーイズグループ「Wanna One」出身のカン・ダニエルが悪プルに対して苦痛を訴え、音楽番組の収録を欠席。うつ病とパニック障害と診断され、芸能活動を休止することになったのだ。
カン・ダニエルが発した「誰か助けて」という一言だけでも、韓国芸能人に浴びせられる言葉がいかに過激で残酷か容易に想像できる。彼は「なぜ僕が毎日、悪口を言われるのか」と問うたが、誹謗中傷はやみそうにない。
安易な経済政策で過去最悪の就職氷河期に
ハラが自殺する10日前、韓国では日本のセンター試験にあたる大学修学能力試験が行われた。毎年、この日は体が凍りつくほど寒くなるというジンクスがある。今年も例外ではなく、日中の気温は氷点下2度という寒さだった。
その冷え込みはまるで受験生の未来を暗示しているかのようだ。大学に受かったところで果たして何割が希望の企業に就職できるのか。経済が良くなる兆しはなく、むしろ今後もっと悪くなるだろうと学生たちも想像しているという。
韓国観光公社で働く40代の女性は「日本人と比べ、今の韓国人には“人生を楽しむ”という感覚がない」という。
「自分が子供だった頃と違い、最近では小学校から塾に通うのが当たり前。学生時代も競争が熾烈で、必死に生きて勉強しなければ人より遅れをとってしまう」
たとえ大学に入学できても、迫りくる就職活動もまた“戦争”といわれるほど過酷だ。「特にこれからの若い世代はかわいそう」と彼女は懸念する。
というのも、若者たちの支持を得て誕生した文在寅大統領だが、人気取りのための経済政策は悲惨な結果を招いたからだ。「労働者の生活を良くする」と急激な最低賃金の引き上げを行ったものの、これに企業は悲鳴を上げた。そもそも売上が伸びないのに人件費だけ膨らんでいくのだから。
当初は最低賃金の引き上げに多くの労働者が歓喜したが、企業が人件費を抑えるため雇用を減らすという本末転倒な結果となった。失業率の上昇に拍車がかかり、中央日報が「新卒大学生でさえ正社員として就職できるのは10人に一人」と報じたほど。
12月16日、文大統領は「雇用は改善している」と口にしたが、高齢者と短期雇用が増えただけという指摘もある。
この就職氷河期に、運良く正社員として入社できたとしても会社がいつまでも安泰とは限らない。今も働き盛りの30〜40代の就業者数が減っており、50代の会社員もリストラの恐怖にさらされている。
果たして自分は豊かな人生を送れるのだろうか。そう考えた場合、韓国社会で勝ち残るのは相当大変なことだろう。そんな不安を払拭するために多くの国民が文大統領に期待を寄せていたが、その現政権の経済政策で自分たちの就職がより困難になるとは夢にも思わなかっただろう。
「心に余裕がないせいか、他人よりも自分だけが大事で、人々から優しさや思いやりが徐々になくなっている感じがする。生まれてくる国は選べないから、私はせめてこの時代に生まれなくてよかったとしみじみ思います」(前出・韓国人女性)
別の30代女性もこうした背景から「ネット上での悪質な書き込みはなくならない」と断言する。
「景気悪化に伴い、気づけば自己顕示欲の強い人を生み出しやすい社会になっている。ネット上では他人を追い詰めて自分を優位に立たせようとする人が多い。実生活では負け組でも、ネット上では誰でも相手を攻撃し、自分が優位に立つことが可能だから」
まさに、今の韓国のストレス社会がそうさせているのだ。
「自分の不幸は他人のせい」理不尽な怒りの矛先は?
一般の若者たちにとって芸能人は憧れの存在であると同時に、妬みの対象でもある。未来予想図を描けない人たちが、時に華やかに見える芸能人をやっかみ、憎しみを覚える気持ちは分からなくもない。
しかも今年は人気芸能人の性暴力事件や薬物使用等といった不祥事が次々と明らかになり、ファンを大きく失望させた一年だった。中には法を犯しても警察がもみ消したケースさえあった。
自分たちはこれほど辛く不安な毎日を過ごしているのに、夢を与えてくれるはずの芸能人は楽をして金を稼ぎ、贅沢な暮らしをしている。そう感じた人は黙っていられなかっただろう。愛情と憎しみは紙一重で、韓国人は愛情が深い分、それが憎しみに変わったときの反動が大きい。自分の意にそぐわない芸能人への個人攻撃が始まったとしても不思議ではない。
フェミニストとして発言し、健康に良くないからと“ノーブラ運動”をしていたソルリは生意気だと叩かれた。ハラは元恋人とのトラブルに加え、親日家であることも批判されていた。また、寝ながら「おやすみ」と書いてSNSに投稿すれば「芸能人は寝ながら金を稼ぐのか」とコメントがつく始末だ。
カン・ダニエルはアイドルグループ「TWICE」メンバーのジヒョとの交際が発覚し、アンチファンが急増。「歌手活動に集中するべき時期なのに自己管理を怠った」と集中砲火を浴びている。最近では歌手のソン・シギョンも日本で食べた料理をSNSに投稿し、「売国奴」とバッシングされた。新たに攻撃の的となったソン・シギョンは「人々の憎悪を感じる」と打ち明けている。
このように、ファンが望まない行動をしようものなら容赦ない攻撃を受けることになるのだ。もはや「アンチもファンのうち」などとは言っていられない。
大学入試の日、文大統領は「最善を尽くしたら夢は必ず叶う」と受験生にエールを送ったが、本当にそうだろうか。そこがヘル朝鮮(地獄と朝鮮を組み合わせた造語)である以上、最善を尽くしたところで夢など叶いそうにないのだが。
韓国経済が良くなり、社会が成熟しない限り、悪プルや指殺人は決してなくならない。韓国芸能人が心の病を発症したり自殺したりするといったリスクはますます高まるばかりだ。(文中敬称略)
児玉愛子(ライター)
週刊新潮WEB取材班編集
2019年12月24日 掲載