日本と世界

世界の中の日本

日本を沈没させる「見えない戦争」から生き残るための心得

2020-01-29 12:16:57 | 日記

田中 均

2020/01/29 06:00

日本を沈没させる「見えない戦争」から生き残るための心得


「トランプ、習近平、文在寅、金正恩――。一国・大国主義や過激な主張外交を展開する為政者がポピュリズムに乗じて勢いを増す中、戦火を交えるわけではない「見えない戦争」が、世界のそこかしこで起きている。日本外の最重要課題の交渉に携わってきた外務省きっての戦略家・田中 均氏の新著『見えない戦争(インビジブルウォー)』(中公新書ラクレ)から、世界に静かに迫りくる「有事」に対処するための“正確な眼"とメソッドを伝授する。(日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長 田中 均)


トランプ大統領の登場と

“見えない戦争”の進行

 一国・大国主義(トランプ、習近平)、過激な主張外交(金正恩、文在寅)がポピュリズムに乗じて勢いを増す中、国内の趨勢が国際関係に飛び火し、いつ火花を散らす紛争に変わってもおかしくない“見えない戦争”が、世界のそこかしこで起きている。

 ドナルド・トランプは、間違いなく“見えない戦争”の時代の主役だ。むしろ彼の登場こそ“見えない戦争”の象徴であり、先が見えない時代の幕開けだったと言っても過言ではないだろう。

「アメリカ・ファースト」を唱え、移民などへの高圧的かつ傲慢な発言を繰り返し、「世界のためにアメリカが負担を続けるのはもうごめんだ」「アメリカの金はアメリカのために使う。アメリカの兵はアメリカのためだけに戦う」と一部の支持者に向けた発言をし、彼らが喜ぶようなツイートをおこなう。トランプは国民の不満を巧みに利用したパフォーマンスを繰り広げ、支持率が不気味なほど安定している。


アメリカはなぜ復活できるのか

差をつけられる日本の「弱さ」

 アメリカが民主主義先進国として世界秩序のリーダーであることをやめた世界で中国の脅威が増し、他方でナショナリズムが台頭してきた日本は、今後排他的になっていく可能性がある。それが訪れるのが5年後なのか、10年後なのか、あるいはもっと先なのかはわからない。だが、このまま“見えない戦争”が進めば、誰にとっても幸福だとは思えない未来が訪れるだろう。

 これまでも何度も「アメリカは終わった」「もう駄目だ」と思う時代があった。しかし、鉄鋼が下火になれば自動車産業が、自動車が衰退すればITや金融産業が成長し、いまはAI(人工知能)の時代だと言われている。こういったイノベーションで危機を乗り越えてきたのがアメリカだ。アメリカには競争を勝ち抜く教育があり、そこからイノベーションが生まれる。この“見えない戦争”の時代を変え得る突破口は、イノベーションにある。

 インターネットは、世界を変えた。それまで壁となっていた国境を越えて、情報や知識が流通するようになり、多大な変革を世界にもたらした。それは、ある意味で“見えない戦争(インビジブル・ウォー)”を生み出す発端となったとも言える。ポジティブであれ、ネガティブであれ、技術革新は世界を変える力を持っている。これからの社会では、AIや電気自動車などがその役割を担うことが予想されるし、だからこそアメリカや中国はその分野に力を入れ、世界の覇権を争っている。

 しかし残念なことに日本は、時代を変えるような新しい技術を生み出せていないし、生み出すだけの環境も整っていない。これまで日本は、強い平等意識のなかで国が成長していった。戦後日本にやってきたアメリカの経済学者のカール・シャウプは、「世界でもっとも優れた税制を日本に構築する」として、所得格差を是正し富を社会に分配するというシステムをつくり上げたが、これは自国であるアメリカの貧富の格差を反面教師として生まれたものだと推察される。

 税制、そして教育における日本の平等意識は、敗戦から立ち直って、新しい民主主義国家をつくるという意味では、極めて有効に働いた。抜きん出た才能を生み出すより、平均的に優秀な労働力を育成する。その結果、日本は優れたモノづくりの技術を持つ産業大国に成長した。

 だが、新興国がモノづくりの技術を培い、より低コストで生産できるようになると、日本は苦境に陥るようになった。そこに必要だったのは、時代を変え得るアイデア、テクノロジーを生み出す人材だったのだが、そういう人材を日本はつくってこなかった。平均的な人材をつくる教育制度を良しとし、突出する人材を生み出すことができない。

 アメリカでは、教育でもビジネスでも未来に対しての投資が盛んだ。「いま何ができるか、どれだけ利益をあげられるか」ではなく、「将来的に何を生み出す可能性があるか」に対して積極的に投資するから、アメリカという国は既得権益を壊すことができ、新しい技術が生まれる。そこには当然リスクがあるが、彼らはそれを恐れない。


未来をつくる力に乏しい日本人が

「誇り」を持つためには

 日本はどうしてもリスクを先に考えてしまう傾向があり、そのためダイナミックな変革ができない。これはテクノロジーの分野だけではない。政治家にしろ、官僚にしろ、現状に対処する能力は優れているのかもしれないが、既得権益を壊し、未来をダイナミックにつくっていく力が欠けているように思う。

 2050年の日本のベストシナリオを考えると、第一に、今後も一定の経済成長を続けて、自由民主主義体制や自由貿易体制が壊されないことだろう。中国の強大化を止めることはできないが、良好な関係を築くことはできる。もちろん、アメリカとの同盟関係はこのまま維持・強化すべきだし、アジア諸国ともより緊密な関係を築いていかなければならない。

 韓国、北朝鮮、ロシア、さらにはブレグジットの行方が不透明なヨーロッパ、中東、アフリカ……すべての国々と良好な関係をつくりながら、日本としてのアイデンティティを世界に示していくのは、もちろん決して簡単なことではない。だが、それを実現する“新しい絵”を描けなければ、日本はどんどん沈んでいき、20世紀の後半に輝いた“元・先進国”ということになりかねない。

 1945年に無条件降伏をしてから、二十数年で世界第2位の経済大国になったことは奇跡だと言える。それだけのことをやり遂げた日本人は、極めて稀有な資質を持っている。条件さえ整えば、日本はまことにダイナミックな国になり、世界に範を示すことができるはずだと私は信じている。


前例に囚われず孤立を恐れない

「尖った人間」が必要に

 今の日本に必要なのは、単に優秀なだけでなく、尖った人間だ。前例に従わず、孤立することも恐れない、個としての強さを持った人間。明治維新のときに活躍した人たちはみんな尖った人間だった。ところが、いつの間にか日本には「みんなで渡れば怖くない」といった平均主義、前例主義がはびこり、尖った人間が出ると、それを抑えようとするようになってしまった。それでは未来は生まれない。尖った人間を積極的につくらない限り、日本人の資質を復活させることはできないのではないだろうか。

 私自身、外務省時代にさまざまな仕事を手がけたが、「みんなで渡ろう」と思ったことは1回もなかった。外務省や政治家から見れば、扱いにくい官僚だったかもしれない。でも、だからこそ成し遂げられたこと、得られた結果は少なくなかったのではないかと思う。

 今、世界で日本人が活躍している分野はスポーツだ。メジャーリーグでは引退したイチロー選手が「世界最高の打者」と呼ばれ、今また大谷翔平選手がスターの道を進んでいる。テニスでは錦織圭選手や大坂なおみ選手がトッププレーヤーとして活躍し、本場ヨーロッパのサッカーリーグにも多くの日本人が在籍している。

 彼らのインタビューなどを見る限り、彼らは類稀なる個人主義者だ。だからこそ世界の舞台でも恐れることなく、自分の力を発揮することができる。最近の例では、ゴルフで全英オープンを制した渋野日向子選手だ。結果を恐れず、リスクを承知で世界に挑み、そして世界に出て、競争をすることでさらに自分を高める。スポーツ界以外でもこういう人材がどんどん出てきてほしい。
 
 私は、2006年から12年間、東京大学の公共政策大学院で教鞭をとってきた。最初の5年間は日本語で授業をし、あとの7年間は英語での授業。学生は日本人と外国人が半々だったが、積極的に議論して、授業のなかでも建設的な形で議論をしようという意図、意欲を持った日本人はかなり少なかった。中国や韓国からの留学生が積極的に発言するなかで、日本人学生はおとなしくしていたのが印象に残っている。


教育を変え、若者を変え、未来を変えよ

「見えない戦争」に生き残れるか

 未来を変えるには、若者を変えなければならない。若者を変えるには教育を変えなければならない。教育を変えるには、社会が変わらなければならない。

 私は、日本の教育システム自体を見直すべき時期に来ていると思う。日本が競争力を持つ国になるためには、若者を外で勉強させる。海外から人を入れて日本の国内で日本人と競争させる。そういったことをシステムとして取り入れていかないと、なかなか変わっていかないだろう。

 誰もが薄々感じているだろうが、今この国は危機に瀕している。いたずらに煽る気はないが、企業も政治も経済もいつ破綻・瓦解してもおかしくないような状況だと言っていいだろう。これまで日本を守ってきてくれたアメリカも、自国のことで手一杯。10メートル先にあると思っていた落とし穴が、実はすぐ目の前にあるということも考えておくべきだ。

“見えない戦争”を生き抜くためには、危機感を持って、個を磨いていくしかない。周りがどうするか、どう生きるかを見ている場合ではない。自分で判断し、自分の力で前に進むという意識が大切だ。1人ひとりがプロフェッショナルとして個を磨いていけば、日本全体の力が底上げされることになる。それができれば、今この国を覆う漠然とした閉塞感も消えるだろう。

 繰り返しになるが、日本人には世界が羨むだけの能力がある。日本人が、日本人であることを誇りに思える時代が長く続くことを願ってやまない。

韓国、「弱り目に祟り目」潜在成長率ガタガタ、素人政権が辿り着く先は「衰退二文字」

2020-01-29 12:00:00 | 日記
2020年01月29日
韓国経済ニュース時評アジア経済ニュース時評

韓国経済は、音を立てて崩れている感じである。最低賃金の大幅引上げ(2年間で29%)と週労働52時間が、大きなブレーキになっている。現実を無視して、理想論を追いかけすぎた反動に見舞われている。昨年の実質GDPは、2.0%成長であった。名目GDP成長率は、1.2%の模様だ。この結果、GDPデフレーターはマイナス0.8%見当と見られ、これがGDP成長率を押し上げたもの。不況期特有であるGDPの「名実逆転」が起こっていた。

文政権は、学生運動家上がりの集団である。北朝鮮問題になると目の色を変えるが、経済成長には無頓着である。最賃の大幅引上げと労働時間短縮を組み合わせたらどうなるか。経済が失速するということに気付かなかったのだ。この集団が、韓国経済の舵取りをしている以上、潜在成長率は低下して当然である。一言で表わせば、韓国経済は衰退過程に嵌り込んでいる。

勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。


韓国、「弱り目に祟り目」潜在成長率ガタガタ、素人政権が辿り着く先は「衰退二文字」

『中央日報』(1月28日付)は、「下降一途の韓国経済基礎体力、OECD推算潜在成長率 10年間で1.4%ポイント低下」と題する記事を掲載した。

韓国の潜在成長率が2%台中盤まで落ちたという経済協力開発機構(OECD)の分析が公表された。潜在成長率は労働力や資本のような生産要素を最大限活用して景気過熱を招かずに実現できる成長率だ。国家経済の基礎体力を示す。

(1)「28日、OECD発表によれば、韓国の潜在成長率予想は今年2.5%だ。これまでの潜在成長率の推移を示す。

2021年 2.4%

2020年 2.5%

2019年 2.7%

2018年 2.9%

2010年 3.9%

2009年 3.8%

潜在成長率が3%台から2%台に落ちるのに9年(2009~2018年)かかっているが、2%台から1%台に落ちるまでにかかる時間はこれより短くなる可能性が高い」


潜在成長率は、生産年齢人口比率と深い関係がある。
生産年齢人口比率


2014年 73.41%(ピーク)

  15年 73.36%

  16年 73.16%

  17年 72.92%

  18年 72.61%

(資料:世界銀行)

上記の生産年齢人口比率は、2014年がピークである。その後は、「人口オーナス期」に移行しているが、その低下幅は微々たるもの。一方、潜在成長率低下は大幅である。経済政策の失敗がもたらした結果と見るほかない。


(2)「人口高齢化が急速に進む中、革新不振、サービス業生産性の停滞などが複合的に作用して下落ペースが速まっているとみられている。15~64歳の生産年齢人口は2017年を基点に引き続き減少していく見通しだ。韓国経済の生産性向上ペースも遅くなっている。米国の経済研究機関「コンファレンスボード」によると、韓国の全要素生産性増加率は2017年1.2%から2018年0.5%に下落した。全要素生産性は労働と資本の投入量では説明できない付加価値の増加分を意味する。生産過程での革新と関連が深い」

韓国の全要素生産性増加率は、2017年1.2%から2018年0.5%に下落している。この理由は、失業率の増加と労働時間短縮がブレーキをかけたと見られる。生産量が減ったのだから、全要素生産性増加率が低下して当然であろう。

韓国雇用労働部が52時間を超えて勤務していた107万人余りを調査したところ、52時間制導入で平均月収が38万8000ウォン減少していた。上限の68時間近く勤務してきた労働者にとって、時間にすると23.5%の時間短縮だが、休日手当や夜勤手当、超過勤労手当等の割増支給を考慮すると手取り収入は20%から30%減ることになるという。生活の質を高めるはずの52時間制が、経済不安を高めるのだ。

(3)「実質成長率は、低下する潜在成長率にも及ばなくなっている。韓国の昨年の国内総生産(GDP)成長率は2%だ。OECD推算の潜在成長率に比べて0.7%ポイントも低い。今年、政府の成長率目標(2.4%)を達成するといっても、潜在成長率を下回っている。潜在成長率が低くなり、政府の拡張財政や韓国銀行の政策金利の利下げのような通貨政策が大きな効果をあげにくくなっているという意味だ」

低下している潜在成長率を引上げるには、構造的な脆弱性にメスを入れるほかない。労働市場の流動化である。働き方の多様性を実現することだ。労組が反対しても国民を救済する目的であれば、強硬策で突破するのも政治力である。文政権には、それができないのであろう。