中国で「不動産バブル崩壊・失業」が深刻化、習近平政権は正念場に
真壁昭夫
多摩大学特別招聘教授
中国で不動産バブルの後始末が深刻化している。
大手デベロッパーは資産売却を加速しているが、資産価格の下落スピードはそれを上回る。
習近平政権は銀行に不動産業界向けの融資を増やすよう規制を緩めているが、相場底打ちの兆しが見えない。
1~6月期の不動産開発投資は前年同期比5.4%減り、分譲住宅の売上高は同28.9%も減少した。
懸念されるのが失業の増加だ。
6月、中国の若年層(16~24歳)の調査失業率は19.30%に上昇、調査開始以来最高だった。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
深刻化する不動産バブル崩壊の後始末
企業業績が悪化、失業率は上昇する
中国経済が、かなり厳しい状況を迎えている。
主因は不動産バブル崩壊だ。
共産党政権の厳格な融資規制は、人々のリスク許容度を急低下させた。債務問題は悪化している。
加えて、ゼロコロナ政策は建設活動を停滞させている。
他方、成長期待の高いIT先端企業の規制強化が先行き懸念をさらに高める。
それらの結果として、若年層を中心に失業者が急増。
ローンの返済を拒む住宅購入者も急増している。
地方政府の財政悪化も鮮明だ。債務返済の延期を銀行に求める地方政府まで、出現しはじめた。
中国の不動産バブルの後始末は拡大するだろう。
今後、大手不動産デベロッパーの資金繰りはさらに行き詰まる可能性が高い。
ゼロコロナ政策も続き、個人消費は減少基調で推移する。
他方、世界のインフレも深刻だ。
中国企業のコストプッシュ圧力は一段と強まり、企業業績は悪化するだろう。
生き残りをかけて多くの企業が雇用を削減せざるを得なくなり、若年層を中心に失業率は追加的に上昇するだろう。
失業問題は、共産党政権にとって無視できない問題だ。
長きにわたる不動産バブル膨張
「三つのレッドライン」導入後の誤算
中国で不動産バブルの後始末が深刻化している。
長い期間にわたって、中国では不動産バブルが膨張した。
根底には、共産党の経済政策があった。
共産党指導部は地方政府に経済成長目標を課す。
達成のために地方の共産党幹部は土地の利用権を中国恒大集団(エバーグランデ)などのデベロッパーに売却する。
それは地方政府の主要財源となった。
デベロッパーはマンションを建設する。建設活動の増加が、雇用を生み出し、建材の需要も増える。インフラ投資も加速する。
そうして地方政府はGDP成長率目標を達成し、幹部は出世を遂げた。
中国全体で「党の指示に従えば豊かになれる」という価値観が形成され、「不動産価格は上昇し続ける」という神話が出来上がった。
さらに、リーマンショック後は世界的なカネ余りが価格上昇を支えた。
上がるから買う、買うから上がる、という根拠なき熱狂が不動産バブルを膨張させた。
しかし、いつまでも価格が上昇し続けることはない。
2020年8月、共産党政権は「三つのレッドライン」を導入。
金融機関は不動産デベロッパー向けの融資を減らし、デベロッパーは資産売却による資金捻出に追い込まれた。
そうすることで共産党政権は経済全体での債務残高を削減し、資産価格の過熱を解消しようとした。
問題は、三つのレッドラインが想定以上の負の影響を経済に与えたことだ。
急速な融資規制は神話を打ち壊し、不動産バブルは崩壊した。
それ以降、売るから下がる、下がるから売るという負の連鎖が止まらない。
エバーグランデなどは資産売却を加速しているが、資産価格の下落スピードはそれを上回る。
習近平政権は銀行に不動産業界向けの融資を増やすよう規制を緩めているが、相場底打ちの兆しが見えない。
1~6月期の不動産開発投資は前年同期比5.4%減り、分譲住宅の売上高は同28.9%も減少した。不良債権問題が深刻化し始めている。
企業・個人・地方政府に拡大する
不良債権問題
不良債権問題を三つに分けて考えてみる。
まず、企業に関して。エバーグランデなど大手のデフォルト(債務不履行)が相次いでいる。
銀行セクターでは、ずさんなリスク管理の実態が浮上した。
河南省では41万人の銀行預金が凍結された。貸し倒れ、担保資産の価値急落によって、銀行の資金繰りが急激に悪化している。
同省では3000人が参加して、預金の支払いを求めるデモが起きた。
取り付け騒ぎだ。それを阻止しようとした当局との衝突も発生した。
中国の金融システムの現況は、わが国の1990年代中頃を想起させる。
連鎖倒産が起き、不良債権は雪だるま式に増え、金融システムの不安定感が高まる一連の流れだ。
次に、個人(家計)について。住宅ローンの返済拒否が増加している。
例えば江西省では、不動産デベロッパーが経営体力を失ったせいで、1年以上建設が止まったままのマンションがある。
ゼロコロナ政策も拍車をかけて、建設現場に作業員が集まることすら難しい。
一部の購入者は、10月までに工事が再開されない場合、翌月から返済を停止すると表明した。
購入した住宅がいつ完成するのか、不安視する人が増えるのは当然だ。
支払い拒否は、他の地域でも急増している。
最後に、地方政府の返済能力が低下している問題だ。
一例として、貴州省政府は債務返済の先送りを金融機関に求め始めた。
鉄道などインフラ事業の収益性は低く、土地利用権の売却収入も減っている。
結果、同省政府は債務返済負担に耐えられなくなったようだ。
インフラ投資積み増しのために債権発行などを増やす地方政府が増えている。
債権者に返済期間の延長、さらには一部債務減免(ヘアカット)を求める地方政府が急増する可能性が高まっている。
かくして、「灰色のサイ」と呼ばれる中国の債務問題は深刻化している。
失業問題の深刻化
貧富の格差拡大も避けられない
懸念されるのが失業の増加だ。6月、中国の若年層(16~24歳)の調査失業率は19.30%に上昇、調査開始以来最高だった。
建国以来で見ても、新卒学生を取り巻く雇用環境は最悪だろう。中国人留学生の中には、帰国せず日本での就職を目指す者が多い。
今後、中国では銀行の貸しはがしや貸し渋りが増える。
不動産をはじめ民間企業の資金繰りは切迫する。
ウクライナ危機をきっかけに、世界全体でインフレも深刻だ。
中国では生き残りをかけてリストラに踏み切る企業が増え、若年層を中心に失業率は上昇するだろう。
となると、共産党政権に不満を持つ人が増える展開が予想される。
その展開を回避するために、習政権は高速鉄道などの公共事業を積み増すだろう。
しかし、経済全体で資本効率性は低下基調にある。
高速鉄道計画では、ほとんどの路線が赤字だ。
追加のインフラ投資は、地方政府の借り入れ増を必要とする。
結果として、経済対策は不良債権の温床になる。
強引なゼロコロナ政策の継続で、個人の消費や投資は減少せざるを得ない。
他方、成長期待の高いIT先端企業の締め付けも強まる。
8月からは改正版の独占禁止法が施行される。
連鎖反応のように、中国全体で企業の業績は悪化するだろう。
逆に言えば、一時的な失業増を伴う構造改革の実行は容易ではない。
今のところ、共産党政権は公的資金を注入し、エバーグランデなどを救済する姿勢も示していない。
中国では、追い込まれる企業・個人・地方政府が増える。
その結果、資金流出が加速し、人民元の先安観は強まり、ドル建てをはじめ債務のデフォルトリスクは高まるはずだ。
資産売却などリストラを強行せざるを得ない企業は、追加的に増えるだろう。
失業問題が深刻化することで、貧富の格差拡大も避けられない。
中国は不動産バブル膨張によって、過剰な債務・雇用・生産能力が出現した。
今後は、その整理が不可避だ。