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「高齢者の医療費負担が1割から2割に」と慌てる人が意外に知らない制度の実態

2022-09-06 16:23:55 | 日記
「高齢者の医療費負担が1割から2割に」と慌てる人が意外に知らない制度の実態
 
早川幸子
 
2022/09/02 06:00 

10月から75歳以上の医療費の自己負担額が上がる。これまで窓口での自己負担額が1割だったものが、2割になるのだ。

ネットでは不安の声も流れるが、実態を理解せずにあおる内容のものも多い。

実はこれはすべての後期高齢者を対象とした値上げではない。

連載『医療費の裏ワザと落とし穴』の第246回では、今回の制度変更の実態を詳しく解説しよう。(フリーライター 早川幸子)
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5歳以上の高齢者、医療費の窓口負担が
2割になるのはどんな人?

 10月1日から、75歳以上の人が窓口で支払う医療費の自己負担額が見直される。

これまで窓口負担は1割だったが、所得が一定以上ある人は2割に引き上げられるのだ。

 政府への信頼が薄い日本では、“お上”に納める税金や社会保険料などの引き上げに対する抵抗感が大きい。

今回の後期高齢者の窓口負担の引き上げについても、一部の医療者団体などからは、制度の見直しを求める声も上がっている。

 特に今は、長引くコロナ禍と、ウクライナ情勢の悪化によって物価が大幅に上昇し、一般家庭の家計は厳しい状況に置かれている。

こうした状況下で医療費まで引き上げられることに、不安を覚える人がいるのも無理はないことだ。

 ただし、今回の見直しは、75歳以上のすべての人の自己負担割合を引き上げるものではない。
引き上げ対象となったのは、一定以上の所得のある人で、後期高齢者全体の23%だ。

 ところが、SNSのつぶやきなどを見ていると、制度の内容を正しく理解しないまま、高齢者の不安をあおるようなものも散見される。

 そこで、今回は、10月1日からの後期高齢者の窓口負担の見直し内容を改めて確認してみたい。

●2割負担になるのは単身で課税所得月額28万円以上、かつ年収200万円以上の世帯のみ

●2025年までは月額負担の上限が3000円までの経過措置がある

団塊の世代の先頭集団が2022年から後期高齢者に

 国民皆保険の日本では、この国で暮らすすべての人に、なんらかの公的な医療保険(健康保険)に加入することを義務付けている。

74歳までは、職業に応じて、会社員は勤務先の健康保険組合、自営業者や無職の人は国民健康保険などに加入することとなっている。

そして75歳になると、すべての人が後期高齢者医療制度に移行する。

 医療費の窓口での自己負担割合は、未就学児が2割、小学生から70歳未満は3割、70~74歳は2割、そして75歳以上が1割だ。

ただし、70歳以上でも、年収383万円以上(課税所得145万円以上)の現役並み所得者は3割を負担することになっている。

 今回、制度改正されるのは、75歳以上の窓口負担割合だ。これまで1割だった人の中で、所得が上位に位置する人の自己負担割合が2割に引き上げられるのだ。

 なぜ、このタイミングで引き上げが決まったのだろうか。それは、2022年から、後期高齢者になる人が急増するからだ。

 戦後の1947~1949年は、日本がベビーブームに沸いた時期だ。この3年間に生まれた子どもの数は約810万人。他の世代に比べて、突出した出生数となった。

 のちに、「団塊の世代」と呼ばれる彼らは、令和の世でも人口のボリュームゾーンとなっている。

総務省統計局の人口推計によると、2021年10月1日現在の団塊の世代(72~74歳)の人口は約600万人で、総人口の4.7%という高い割合を占めているのだ。

 今年は、この団塊の世代の先頭集団(1947年生まれ)が75歳になり、後期高齢者医療制度に移行し始めている。

 後期高齢者医療制度の医療費の財源は、75歳以上の高齢者自身の保険料は10%で、国や地方の税金が50%、残りの40%は74歳以下の人が加入する健康保険から支援金として負担することになっている。

 2022年度の予算ベースで見ると、医療費の総額は18.4兆円だ。

内訳は後期高齢者の保険料が1.5兆円、窓口負担が1.5兆円、税金が8兆円、現役世代からの支援金が6.9兆円である。

そして、この支援金を支払うために、現役世代の健康保険料は年々増加している。

 この状況で人口のボリュームゾーンである団塊の世代が75歳になり、後期高齢者医療制度に加入すると、現役世代の負担がさらに増すことが予想されているのだ。

そのため、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合連合会(けんぽれん)など、現役世代の健康保険の利害を代表する団体は、現役世代の負担を抑えるために、高齢者の自己負担割合の引き上げを求めていた。

負担能力のある高齢者の窓口負担は引き上げ

低所得層への配慮を行うことが前提の制度改定に

 実際、今は、一概に高齢者が「弱者」とは言い難い状況になっている。

2019年度の金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」によると、1世帯当たりの金融資産保有額の平均は、20歳代が165万円、30歳代が529万円なのに対して、60歳代は1635万円、70歳以上は1314万円で、高齢者層のほうが貯蓄に余裕がある。

 公的な年金保険や健康保険が整備され、高齢者に対する福祉が充実する一方で、非正規雇用の増加など雇用環境の変化によって、若い世代でも貧困が見られるようになっている。

そのため、国はこれまでのように「給付は高齢世代中心、負担は現役世代中心」という負担と給付の関係を見直して、「全世代型の社会保障」に転換するための法整備を行っている。

今回の後期高齢者医療制度の窓口負担の見直しも、そのひとつで、75歳以上でも一定以上の所得がある人には、相応の負担を求めることになったのだ。

 ただし、2020年12月15日に閣議決定された「全世代型社会保障改革の方針」では、後期高齢者医療制度の窓口負担の引き上げについて、次のような留意事項が記載されている。 

 少子高齢化が進み、令和4年度(2022年度)以降、団塊の世代が後期高齢者となり始めることで、後期高齢者支援金の急増が見込まれる中で、若い世代は貯蓄も少なく住居費・教育費等の他の支出の負担も大きいという事情に鑑みると、負担能力のある方に可能な範囲でご負担いただくことにより、後期高齢者支援金の負担を軽減し、若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていくことが、今、最も重要な課題である。

 その場合にあっても、何よりも優先すべきは、有病率の高い高齢者に必要な医療が確保されることであり、他の世代と比べて、高い医療費、低い収入といった後期高齢者の生活実態を踏まえつつ、窓口負担割合の見直しにより必要な受診が抑制されるといった事態が生じないようにすることが不可欠である。(太字は筆者)

 このように、国の方針では、負担能力のある後期高齢者の窓口負担は引き上げつつも、負担増大で医療にかかれない人が出ないように、低所得層への配慮を行うことが明記されている。

今回の見直しも、75歳以上のすべての人の窓口負担を2割に引き上げるのではなく、一定以上の所得がある人に限定されている。

 では、どのような人が引き上げ対象となったのだろうか。具体的に見ていこう。

2割負担になる後期高齢者は

課税所得28万円以上、年収200万円以上

 今回の見直しで、窓口負担が2割になるかどうかの線引きは、課税所得と収入で判断されており、世帯単位で適用される。以下の2つの条件を満たす世帯が対象だ。

1.世帯の中に課税所得28万円以上の人がいる

 世帯の中に課税所得の基準は28万円以上の人が、1人でもいることが条件。これを超える人がいなければ世帯全員が1割負担のままだ。

2.世帯年収が単身世帯は200万円以上、複数世帯は320万円以上ある

 年金年収とその他の合計所得金額が、単身世帯は200万円以上、後期高齢者が複数いる世帯は320万円以上だと、世帯全員が2割負担になる。

課税所得は28万円以上でも、年収基準を超えていなければ、世帯全員が1割のままだ。

 たとえば、夫婦2人世帯で、夫の課税所得が28万円でも、妻の年金額が少ないなどで、夫婦の年金の合計が320万円未満なら、窓口負担は夫婦共に1割負担のままだ。

 一方、年金収入の他にも、不動産収入などがあって、その合計が320万円以上になると、夫婦とも窓口負担は2割になる。たとえ妻に収入がなくても、夫の収入が高ければ、夫だけではなく、妻も2割負担になる。

 さらに、これらの条件を満たして2割負担になっても2022年10月から2025年9月までの3年間は、外来(通院)での窓口負担の増加額は、最大でも月額3000円までに抑えられることになっている。

所得基準を超えて、窓口負担が2割になった世帯の人は不安に思うかもしれないが、経過措置が設けられている。

 たとえば、1カ月当たりの医療費が5万円の場合、1割負担だと窓口で支払う自己負担額は5000円。2割負担になると、自己負担額は1万円となり、これまでより5000円負担が増えることになる。

 だが、2025年10月までは、負担が増えた5000円のうち、患者が負担するのは3000円のみだ。

病院や診療所の窓口では、いったん2割を負担するが、後日、高額療養費として2000円が払い戻されるので、医療費が5万円だった場合の実質的な負担は8000円となる。

医療費が単純に2倍になるわけではない。

年間2万6000円の医療費の増加分は早めに家計を見直して吸収しよう

 今回の見直しで2割負担になる後期高齢者は約370万人で、後期高齢者全体の23%と予測されている。

この他に、現役並み所得者で3割負担している人が7%いるが、残りの70%の人は1割負担だ。

これまで1割負担だった人が、すべて2割負担になるわけではない。

 2割負担になるかどうかは、新たに発行される健康保険証を見れば分かるようになっている。

新しい健康保険証は、都道府県の後期高齢者医療広域連合、または市区町村から8月末から9月にかけて交付されるので、それを見て自分の負担割合を確認しよう。

 2割負担になった場合はどうすればいいか。物価上昇で生活費も上昇している今、医療費の自己負担割合の引き上げを不安に感じる高齢者もいるだろう。

 だが、経過措置もあり、いきなり医療費が2倍になるわけではない。

医療費が高額になった場合の高額療養費も、これまで通りに利用できるので、医療費が際限なくかかるという心配もない。

 厚生労働省の試算では、2割負担になる人の通院の自己負担額の増加分は、平均で年間2万6000円になる見込みだ。

 医療費が増えるのはうれしいことではないが、年間2万~3万円の増加なら、家計の見直しで吸収することも可能な金額だ。

 家計の見直しをするときは、食費や雑貨費の見直しも大切だが、車両費や生命保険料など単価が高い費目を見直すと、一気に家計改善できる可能性が高くなる。

また、年会費を払っているのに、ほとんど使っていないクレジットカードや有料サイトを解約したり、携帯電話のプランを見直したりするだけでも、年間数千円から数万円の節約効果が期待できる。

 まずは、制度の変更内容を正しく理解した上で、2割負担になる人は医療費の増加分を吸収できるように、早めに家計全体を見直しておこう。



韓国が誇る唯一の産業である半導体へ、にわかに危機感が漲ってきた。

2022-09-06 13:28:28 | 日記
勝又壽良のワールドビュー
好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

韓国が誇る唯一の産業である半導体へ、にわかに危機感が漲ってきた。

専門家の97%が「危機」という認識を示したからだ。韓国半導体は、汎用品のメモリーである。世界的にメモリー市況は急落に転じている。

回復は、早くて来年後半以降とされるが、世界経済の動向次第で先へ延ばされることも十分ありうる。

韓国は現在、政治が泥仕合を演じている。

最大野党「共に民主党」代表の李在明氏が、検察から不動産疑惑で召喚状が出されたのだ。

これに対して、「召喚に応じず」と声明を出している。

検察がこれにどう対応するのか。

「共に民主党」は、報復措置として尹大統領を告発している。

こういう状況で、国政問題がまともに議論される状況にないのだ。危機感は深まるばかりである。

『朝鮮日報』(9月6日付)は、「『韓国の半導体産業は危機ではない』とみる専門家はわずか3・3%」と題する社説を掲載した。

大韓商工会議所が韓国の半導体専門家30人に今の半導体産業の現状について質問したところ、77%が「危機」、20%が「危機直前」と回答した。

「危機ではない」との回答はわずか3.3%だった。

韓国が米国と中国によるサプライチェーン競争の板挟み状態にあることや、技術面における中国の追撃が一層激しくなっていることなどがその背景にある。

さらに専門家の97%は「危機は来年も続く」と予想している。韓国経済において非常に大きな比重を占める半導体産業が大きく揺らいでいるのだ。

(1)「危機は数字からも確認できる。今年8月の半導体輸出増加率は26カ月ぶりにマイナスに転じた。

半導体の販売が減少した影響で7月の半導体在庫は1年前に比べて80%も増えた。

サムスン電子の在庫は52兆ウォン(約5兆3000億円)、SKハイニックスは12兆ウォン(約1兆2000億円)と過去最大だ。

韓国が得意とするDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)とNANDメモリーの国際価格はここ2~3ヵ月連続で下落している。

世界的な景気不振の影響で半導体分野でも好況が終わり、不況が近づいていることを示す一種のシグナルだ」

世界的に半導体市況が崩れ始めたのは、半年前からであった。

これまでの半導体「バカ景気」に幻惑されて、迫りくる半導体不況への認識が遅れたのが真相である。

本欄が、最初にこの問題をとり上げたのは、6月20日付のブログであった。

それは、中国半導体が韓国へ輸出してきたという事実に、中国の半導体需要の低下を見たからだ。

(2)「中国は急速に韓国を追撃している。

つい先日アップルがスマートフォンなどに使用するメモリー半導体の新たなサプライヤーに中国のYMTCを指定したのは衝撃だった。

中国でファウンドリー(半導体の委託生産)1位のSMICが7ナノの開発に成功したとのニュースも報じられた。

中国における「半導体崛起(くっき)」の成果が出始めており、NANDフラッシュ分野では韓国との格差はわずか1~2年にまで狭まった」

「ナノ」問題は、半導体企業が勝手に宣伝しているだけで確たる証拠はないとされている。

既製服のサイズで、「S」「M」「L」「LL」と称しているに匹敵すると米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は揶揄しているほどだ。

中国が、「7ナノ」半導体を開発したと言っても、その実体は不明である。

(3)「ライバルとなる国々は半導体産業への支援に総力を挙げている。

中国政府による大々的な半導体分野育成の動きに対抗し、米国は半導体製造などに520億ドル(約7兆3000億円)を支援する半導体法を成立させた。

EU(欧州連合)も2030年までに半導体シェア20%を目標に数十兆ウォン(数兆円)の支援計画を発表した。

ファウンドリー分野で世界トップの台湾も国全体で支援を続けている。

その結果、経済規模が韓国の半分の台湾では売り上げが10億ドル(約1400億円)以上の半導体メーカーが28社となり、韓国(12社)の2倍を上回るようになった」

台湾は、国を挙げて半導体育成に取り組んでいる。これを武器に、EUへ政治的に接近する手段としているのだ。

すでに、バルト三国は台湾と関係を深めている。EU全体も半導体育成で台湾と関係を深めるというスタンスである。

韓国は文政権の反企業姿勢で、大統領が長いことサムスン副代表と会うことすら忌避していた。

これでは、韓国半導体が台湾半導体に遅れを取るのは当然である。

(4)「尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権も「半導体競争力強化特別委員会」を立ち上げ、各種支援策を含む法律の改正案を提出したが、国会での審議は全く進んでいない。

この半導体特別法は先週開催された国会産業通商資源中小ベンチャー企業委員会では議題にもならず、現時点で9月の通常国会で審議されるかどうかも決まっていない。

米国議会は自国の製造業を支援するため「インフレ削減法(IRA)」をわずか2週間の審議で成立させたが、韓国の国会は政争に没頭し経済の命綱である半導体産業を支援する法案さえ成立させることができない。問題は深刻だ」

韓国は、政治の泥仕合を始めている。これでは、まともな対策を取ることも不可能である。朝鮮民族の悪しき伝統ゆえか、「政治休戦」できない政治体質である。



勝又壽良のワールドビュー

2022-09-06 11:05:31 | 日記
勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

韓国メディアは、主義主張を前面に出す。公平な報道という視点を忘れ、「口角泡を飛ばす」論調だ。これまで「反日」で盛り上がってきたが、今度は「反米」である。

ことの発端は、米国バイデン政権が成立させた「インフレ抑制法」で、EV(電気自動車)補助金が北米(米国・カナダ・メキシコ)の三ヶ国生産に限定されたからだ。

米国EV市場で2番目に売れている韓国車が、北米生産でないことを理由に補助金対象から外されたので、韓国では怒り心頭になっている。

 『ハンギョレ新聞』(9月5日付)は、「トランプに続くバイデン、同盟国を絞り上げ 米経済を優先」と題する記事を掲載した。

米国のジョー・バイデン大統領は今年3月1日、一般教書演説で「バイ・アメリカン」を強調した。

空母の甲板から高速道路ガードレール用鉄鋼まで、すべて米国産を使うと発表した。

また「より多くの自動車と半導体を米国で作らなければならない」と述べた。

このような約束は、先月の「CHIPS法」と「インフレ抑制法」の発効で現実化している。

今年4月、米国産の鉄鋼だけを使うようにした「インフラ投資と雇用法」のガイドラインが出たことも含めれば、インフラ、電気自動車(EV)、半導体で米国産の使用を強調した一般教書演説の内容が着々と実行されているということだ。

(1)「米国の競争力強化と中国牽制を名分に掲げた立法の動きは、韓国や日本、欧州連合(EU)など同盟に対する差別と疎外にともなう逆風も起こしている。

特に、北米製のEVだけに最大7500ドルの補助金を与えるという「インフレ抑制法」は、世界貿易機関(WTO)の差別禁止規範や自由貿易協定(FTA)の最恵国待遇条項違反という議論に見舞われた。

韓国が対応に乗り出し、EUも「外国製に対する差別」であり「WTOと両立しがたい法律」と反発している」


 北米製のEVに補助金を出す理由は、米国・カナダ・メキシコが一体化した経済圏になっているからだ。

自動車部品製造でも、この三ヶ国を行ったり来たりして製品化される背景がある。

「米国産」と狭く限定できない理由はこれだ。

韓国は、自国製EVが補助金から外されたとして激怒している。

だが、これまで意識されなかった安全保障概念を強く認識すべきである。

「中ロ枢軸」という反民主主義グループが、世界秩序へ挑戦している現実を考えれば、米国経済を強くすることは不可欠である。その恩恵は、同盟国が等しく受けるからだ。

(2)「半導体の生産比重を上げようとする目標と中国牽制の意図が調和し、「第3国への投資禁止条件つき補助金」という聞き慣れない企業活動制限規定を盛り込んだ「CHIPS法」も、議論の的となっている。

米国の半導体生産の比重は1990年には37%だったが、今は12%まで落ちている。

米国に大規模投資をする予定のサムスン電子やSKハイニックスが補助金を受けようとすれば、中国事業への支障が避けられなくなる」

このパラグラフにも、安全保障という認識がゼロである。

冷戦時代、自由圏諸国はココムやチンコムによって、共産圏への輸出を規制してきた。その結果、戦わずしてソ連が崩壊したのである。今や、中ロ経済を弱体化させて戦争を未然に防ぐには、「CHIPS法」は不可欠である。こういう広い認識に立つべきだろう。


(3)「米国は、生産能力を考慮して自国産の割合を調整する計算的な姿も大っぴらに示している。

ホワイトハウスは5500億ドルを投入する「インフラ投資と雇用法」で米国産の鉄鋼だけを使うようガイドラインを定め、他の製造品は55%のみ米国産にするようにした。

「インフレ抑制法」のEVバッテリー条項でも、素材・部品・時期によって米国産の割合を段階的に引き上げるようにした。

グローバル経済下では、「米国一強」は弊害をもたらす。他国が、経済発展の芽を摘まれるからだ。

しかし現在は、「反グローバル経済」によって中ロ経済を締め出す必要性に迫られている。

こういう時代の大転換点においては、米国経済を強くして中ロに対抗可能な力を蓄えて貰うことが不可欠である。


 (4)「米国内外の専門家らは、生産施設を誘致するために同盟を疎外し、自国産を堂々と優遇することは、サプライチェーン再編戦略の核心を示していると指摘する。

コロナ禍、ウクライナ戦争、中国牽制の必要性を契機に推進されたサプライチェーン再編は、生産基地の米国移転と同盟・パートナー国家とのサプライチェーン協力強化が二つの軸だ。

この中で生産施設の誘致に重きを置きながら、外国に出た企業の本国回帰を意味する「リショアリング」を越え、同盟国の生産施設まで吸収しようとする動きが続いている」

最近、主張されている米中デカップリング(分断)は、サプライチェーン再編戦略に繋がっている。

中国への依存度を下げることが、西側諸国共通の利益になるという認識である。

米国が、経済面でも圧倒的な力を持つことは、再び「世界の警察官」へ復帰できる条件である。

米国が、世界の警察官として中ロに対峙できる体制になれば、韓国は防衛面で最大の利益を受けることになろう。