中島みゆき/蕎麦屋
いくらなんでも、ここらへんでエネルギーをチャージしないと、
たぶん、絶命してしまうんじゃないかと思えるくらい疲れもピークに達したころに、
目の前に現れた1軒の蕎麦屋。
店頭の蕎麦のメニューの見本は、なんだかすすけたような感じはしたが、
あっさりしたものが食いたかったのも手伝って、迷いつつも入り口を開け店内に。
「いらっしゃいませ~」
店内は20席くらいの席数。
4人掛けが5つくらい。
満席っぽかったんだが、女将さんが
「ちょっと待っててな~」
とバタバタと席を作ってくれた。
「どうぞ、こちらに~」
ほどなくお茶が運ばれてきて、メニューに目を通す俺ら。
うん?
なんだか店内の様子がおかしい。
何がおかしいのか観察していて気がついた。
あ。
20人の客がひとりも食っていない…。
どちらかと言えば、みなさん、少し殺気立っているような様子。
ピリピリとした空気。
みなさん、顔に「いつまで待たせるんだ?」と顔に書いてある。
そうか、料理が出ていないんだ。
でも、厨房はやたら忙しく働いている。
熟年夫婦の奥さんが待ちくたびれて女将さんに尋ねる。
「煮込みうどんはまだ?」
「今、火にかかったところですから、すぐにできます。」
蕎麦屋が「蕎麦屋の出前」のようなことを言っているのに感激。
しかし、やはり、そこはそれ、本家本元の蕎麦屋。
すぐにできる例などあるはずもなく、10分以上経過。
いらつく様子の奥さん。
その時、入り口が開き、新たに4人組がご来店。
だが、店内が満席だっために、女将さんと問答の末、あきらめて店を出て行った。
と、さっきの熟年夫婦、店をあとにする4人組に紛れて、逃げるように店からとんずら。
女将さんはそれに気がついていない。
数分後、女将さんは、煮込みうどんを運んできて、
熟年夫婦がいるはずのテーブルがもぬけの空になっていることにしばし茫然。
他のお客に聞こえよがしに
「困るわ~。知らない間に帰ってもうた。煮込みうどんどないしよ~。」
「困るわ~。知らない間に帰ってもうた。煮込みうどんどないしよ~。」
「困るわ~。知らない間に帰ってもうた。煮込みうどんどないしよ~。」
を連発。リフレインが叫んでる。
その時、とんずらこいたはずの、熟年夫婦の奥さんが、また入店。
どうやら慌てて出て行ったので、マフラーを席に置き忘れてしまったと思い、戻ってきたらしい。
しかし、店内にはその忘れ物はなく、女将さんと顔を鉢合わせることになり
女将さん:「困るわ~。煮込みうどんできたんですけど…」
奥さん:「時間がないのでいらんし」と振り切るように、再度、退場。
厚かましいというか、面の皮が厚いと言うか、でも、気持ちはわかってしまうというか。笑
その成り行きを、店内に残されたお客は、みな、耳がうさぎちゃん状態で聞き入っていた。
ほら、うさぎ年だし。
知らぬ客同士が無言でアイコンタクト。
目と目で通じ合う♪ってこうことだったのね。
「はずれの店を引いちゃいましたね~」
次に注文したものが出てきたのは、家族4人組。
お父さんの分
お母さんの分
しかし、娘さんの分が出てくるのに時間がかかり、
お父さんもお母さんも食い終わった頃にやっと娘さんの分が出てきた。
んでもって、ここでまたアクシデント。
娘さん、手をあげて女将さんを呼ぶ。
なにやら、ティッシュに包んだものを女将さんに見せている。
どうやら、得体のしれない虫が、料理の中に入っていたらしい。
その瞬間、顔色を変える女将さん。
「あら、どうしましょ、あら、どうしましょ」を連発し、店の中を右往左往。
「ごめんなさいね、ごめんなさいね」と言いながら
厨房に引き換えし、調理をしている人に向かって大きな声で
「ねー、虫が入っていたみたい。ほら、これ。」
ついで、女将さん、
「でも、時間がないから、お客さんは作り直さなくてもいいって。」
もちろん、その女将さんの言葉は、客たちにも筒抜けで
当の家族の娘さん、笑うしかなく
「作り直さなくっていいって、なんて、私、言ってないんだけど…。」と小さくぼやいた。
狭い店内、その娘さんのぼやきも、お客さんたちに聞こえ、どっと笑いが…。
ここまでくると、客はみな一蓮托生。
さ~、どんな料理が出てくるか、どんなんでも食ってやるぞ~と根性が出てくるから不思議。
数十分後に、頼んだ、かつ丼とざるそばがやっと出てきて
美味しくいただきましたけど
もしかしたら、俺のにも虫がはいってるんじゃないかと気が気じゃなく、笑
おかげで料理の写真を撮り忘れ。
でも、女将さん、待たせたお客さん全員、割引してくれたんで、ま、許せるかな。
来年も正月営業、頑張ってな~。