ひと月近く続く猛暑日。外出を控え、家にこもっています。
数日前、こもりながら寅さんの第9作『柴又慕情』(1972年夏公開)を観ました。
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吉永小百合さんがマドンナを演じた作品です。
映画の最後のほうで、吉永小百合さん演じる歌子が陶芸家のところに嫁ぎ、夫と窯場で働いている場面が映し出されました。
松竹の公式サイトでは、この場面の撮影地は愛知県春日井市高蔵寺町とされています。しかし、ちびとらさんたち先達によって、この場面は岐阜県多治見市で撮影されたことが明らかにされています。ただし詳しい住所は伏せられています。おそらく個人宅が特定されないように、配慮したのでしょう。
多治見で撮影された場面を観ていたら、珍しい陶器が映っていました。
ここからが多治見で撮影された場面です。
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袋を抱えた歌子が近所のおじさんに挨拶したあと、こちらにやって来ます。
歌子は作業場にいる夫のところに入って来ます。
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珍しい陶器とは、円の中の陶器です。
次の場面です。夫が手元で徳利を作っています。左側には、完成した徳利。
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再び作業をしている夫を見つめる歌子。右上には、あの珍しい陶器。
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このあと、夫の作業が一段落します。
作業場から出てきた夫は後ろで、歌子が持ってきたアイスを食べながら一休みします。
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歌子は庭で乾かしていた陶器を運ぶ手伝いを始めます。歌子が運んでいるのは、あの珍しい陶器です。
何度も出てきたこの珍しい陶器、調べたら燗瓶(かんぴん)というもの。徳利の一種の酒器で、お酒を入れて直火でお酒を温めるものだそうです。
多治見の焼き物について調べてみました。
焼き物の主な産地は、多治見に4か所あります。市之倉、高田(たかた)、滝呂、それに「平成の大合併」によって編入された笠原です。
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明治時代以降、陶器産業の近代化と大量生産のために、製品ごとの産地分業化を進め、産業の効率化を図ったそうです。その結果、市之倉は盃、高田は酒徳利、滝呂は洋食器、笠原はモザイクタイルが中心に生産されるようになったようです。
燗瓶を含む徳利類は、おもに高田で生産されていたんですね。その理由は、高田で採れる土(青土 あおと)にありました。焼きあがると、保水性がよくなるのだそうです。
1分に満たないこの短い場面、高田で撮影されたかどうかは分かりません。でも仮に、高田で撮影されていたとしたら、山田洋次監督は、高田と徳利の関係を知っていたのではないでしょうか。そんな感じがしてきました。