「男はつらいよ」の第29作『あじさいの恋』のラストシーンは、滋賀県彦根市で撮影されました(1982.8公開)。
鎌倉でかがり(いしだあゆみ)とデートをした寅さんは、鎌倉から帰ってくるとすぐ、旅に出ます。その後、陶芸家・加納作次郎の弟子が、作次郎が寅さんに与えた茶碗を作品展に出したいので拝借できないかと車屋を訪れます。そのとき、タコ社長が茶碗を灰皿に使っていたため、弟子との間で騒ぎが起こります。騒ぎが続くなか、かがりが寅さんにあてた手紙が読み上げられ、読み終わると場面は、彦根城にかわります。
【映画】 蝉しぐれのなか、作次郎と作品展の図録を作っていた編集者が彦根城の武家屋敷の長屋門から出てきます。
【現在】 この長屋門は、彦根城の中堀の近くに建っている旧池田屋敷長屋門です。平成20年から3年間かけて解体修理されたため、映画が撮影された当時と建物に違いがあります。しかし、左側の塀の石組みを比べると、
上の映画と下の現在の写真が同じですから、ここで撮影が行われたのは間違いありません。また現在は道を挟んだ向かいに生け垣と建物があるため、映画のアングルでの撮影はできませんでした。
【映画】 作次郎と編集者が堀沿いの道をこちらに歩いてきます。
【現在】 この場面の撮影は、彦根城の佐和口から行われました。撮影は道路から堀に下りて行われましたが、現在は柵があり下りることはできません。
この堀は中堀で、写真真ん中の白塀のところに旧池田屋敷長屋門があります。作次郎と編集者が歩いていたのは、埋木舎(うもれぎのや)の前です。現在、この界隈は、白壁で統一されています。
【映画】 手前に佐和口多聞櫓、後ろに天守閣が少しだけ映っています。
【現在】 この場面の撮影も、中堀の佐和口から行われました。
【映画】 作次郎と編集者が堀沿いの道を歩いてきます。
【現在】 佐和口から入ってくると内堀にぶつかります。その内堀沿いの道で、この場面の撮影が行われました。石垣が見える向こうの道を左に行くと、名園玄宮園に行き着きます。
【映画】 作次郎たちの行く手では、寅さんが商売をしています。
【現在】 寅さんが商売をしていたのは、表門橋の橋のたもとです。寅さんの後ろに立っていた石碑は、現在は新しいものに取り換えられているようです。
【映画】 橋のたもとで「加納作次郎の作品だ」と言って焼き物を売っていた寅さんに、作次郎が「買うた!」と声をかけます。
【現在】 作次郎の後ろの建物は、馬屋です。前の道を左に行き、白壁の小さな建物のところで右に曲がると、佐和口多聞櫓があります。
【映画】 このあと、寅さんは作次郎をビールに誘います。レンズが引かれ、彦根城下が映し出されて映画は終わります。
【現在】 この場面の撮影は、彦根城の頂上部・本丸の東の隅着見櫓(つきみやぐら)跡で行われました。
手前に見える橋は表門橋、右側のグランドは彦根東高校、右奥の塔はNTT、左手前は二の丸駐車場と佐和口多聞櫓です。
最後に撮影場所を地図で確認すると、かなり狭い範囲で撮影が行われていたことが分かりました(オレンジ線が撮影場所です)。
『あじさいの恋』が公開されて、40年になります。
ラストシーンが撮影された彦根城を散策してみると、映画のなかの彦根城より整備されていました。これは、2007年の国宝・彦根城築城 400年祭を迎えるにあたり、城内の整備が大規模に行われ、その後も整備が続けられているからでしょう。
行ったこの日、初夏とは思えない高温のなか、 400年祭のときに初登場したひこにゃんが観光客にさかんに愛嬌を振りまいていました。