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この道を歩む②

2017-10-16 11:42:18 | お話
🍀この道を歩む🍀②


🔸吉田、創業から11年経ってつくづく思うのですが、

もしこの事業を自分のお金でやっていたら、

これまでたくさんの方に応援していただくことはできなかったでしょう。

ご出資いただいたのは、大和ハウス工業の樋口武夫さん、北尾さんをはじめ上場企業ばかりで、

皆様のお気持ちが一つひとつ積み上がって、315億円もの資本になりました。

日本というのは、すごい国だと改めて思いますね。

最初に面接していただいたときの北尾さんは、軽く品定めをなさるくらいの認識だったと思うんです。

私も既に75歳を過ぎていましたし、

この老人はボケていないかと(笑)。

熱心に応援してくださるようになったのは、

その3年後の平成27年に、当社の工場をご覧いただいてからでしたね。

北尾さんはとても高く評価してくださって、ご自身のブログでも紹介してくださいました。

🔹北尾、あの時は驚きました。

ベンチャー企業というのは工場まで十分に手が回らないところが多いんですが、

吉田さんは公開前にも関わらず、あれだけスケールの大きな工場をお建になっていた。

しかもレイアウトから何から、細部に至るまで、ものすごく考え抜かれている。

電池に全く縁のない製薬会社の方を役員に抜擢されてつくられたと伺って、

吉田さんという方は、ただ者ではないなと、改めて感銘を受けました。

🔸吉田、彼は副社長で、いまは特別顧問をやってもらっているんですが、

彼以外の若い人たちも同様で、電池の生産技術ゼロの人間で作った工場なんです。

要するに、成功体験が何もないところから新しいものをつくることにチャレンジしたわけです。

工場をつくる際に副社長に告げたのは、

「安全な電池をつくるために、フルオートの工場でなければ満足しないよ。

お金は、私がいくらでも集めてくるから」

ということでした。

コンセプトはいろいろ話し合うけれども、

細かなことは言わずに、彼にすべて任せたんです。

任された彼は、若い人を使って死に物狂いで期待に応えてくれました。

北尾さんにも感心していただきましたが、トイレ1つ取っても、

これが工場のトイレかというくらい立派で、細部まで行き届いたつくりになっています。

この設備で、いずれスタート時に描いていた売上高2兆円を実現しようということで、頑張っているんです。

🔹北尾、任用するのではなく信用し、

部下の方を信じて任せたわけですね。

御社を訪れた人は皆、あの工場を見てびっくりして

「この会社の電池なら大丈夫だ」

と納得される。

そういう意味では、吉田さんは偉大なショーケースを最初につくられたわけです。

普通はいい商品ができたら、それを集めてショーケースをつくろうかという順序になるんですが、

吉田さは全く逆をいかれて成功なさっています。

🔸吉田、人と違うことをやるというのが、私の生き方でしてね。

だから私みたいに凡庸な人間でもやっていけるんです。

銀行には「過大投資だ」と言われましたけれども、

工場を立派にして、それを見せれば、うちの電池に興味を持っていただけるんじゃないかと私は考えたわけです。

案の定、本田さん、セコムさんと、工場を見ていただいた方は皆さん

「よその電池メーカーより100年進んでいる」

とびっくりなさって、スムーズに契約に至りました。

北尾さんがおっしゃるとおり、工場がショールームの役割を果たしてくれているわけです。

🔹北尾、大きな投資をなさったわけですけれども、お金を集めて来られるのは大変だったと思います。

ほとんどのベンチャー企業は、それができなくて苦労する(笑)。

吉田さんは住友銀行で副頭取まで務められた方ですけれども、

それだけで、315億円ものお金は絶対に集めることはできません。

あの人は信用できる、あの人はなかなかの人物だと周りから思われていたから、成し得たことだと思うんです。


吉田さんの起業のきっかけは電気自動車だったわけですけれども、

そこで使われているリチウムイオン電池が、

自動車以外の産業や家庭で幅広く使われるようになることに気づかれたのは卓見です。

いま世界で注目されているのは、もっぱら電気自動車用の蓄電池ですが、

やっぱりもっと大事なのはインダストリーユース(産業利用)や家庭向けなど、

様々な用途に使われることだと思うんです。

最近は、太陽光パネルを設置する家庭が増えていますが、せっかく設置しても夜中には使えません。

昼間に発電した電気を蓄電池に安全に貯めておいて、

夜も使えるようにすることが求められてくるわけです。

それから、いまの公共の施設はどこも電池が必要です。

病院で心臓の動脈をモニターするのだって、全部電力でやってるわけで、

大事な手術中に停電になってしまったら大変なことになる。

電池の有無が人命を左右するわけです。

ですから、吉田さんはいずれ売上高2兆円とかおっしゃっていますが、

ちっとも不可能なことではない。

もっといくんじゃないかと私は思っていますよ。

🔸吉田、蓄電池と言い続け夢中で走ってきましたが、

この頃では、世の中が動いてきて蓄電ブームが到来しました。

マーケットができ上がり、これから何か始まるかというと、

安全性や機能面での選別です。

先日の新聞に

「リチウムイオン電池で発煙、発火が相次ぐ」

という記事が出ていましたが、

これから家庭やオフィスでの設置を進めていく上で、電池は絶対に安全でなければなりません。

品質に劣る電池は淘汰されていくでしょう。

🔹北尾、サムスンのスマホや、ボーイング787では、

リチウムイオン電池の発煙、発火事故が起きて、ずいぶん問題になりましたね。

しかし、御社の電池は、穴を開けても火を噴かない。

これには驚きました。


🔸吉田、米軍から銃弾で撃っても大丈夫かと聞かれ実験しましたが、

私どもの電池は銃弾で撃ち抜いても生きているんです。

それから、これは不幸な出来事なのであまりお話ししてこなかったんですけれども、

熊本地震の時に、うちの電池を設置した大和ハウス工業様の64戸の住宅でも、お役に立ったようです。

🔹北尾、そういうお話は、宣伝しなくても、どんどん広がっていくでしょうね。

🔸吉田、私どもの電池は、60℃から− 20℃まで充・放電できますし、

リチウムイオン電池というのは高温になると、ものすごく劣化するんですが、

私どもの電池は劣化も非常に少ない。

蓄電用として品質では、おそらく世界一だと自負していますし、

定置用の大型セルの量産を手がけたのも、世界で私どもが初めてだと思います。


(つづく)

(「致知」11月号 吉田博一さん北尾吉孝さん対談より)