病院で横になっている母の顔はすっかり老人になっていた。
最後まで一緒に居た私の顔は覚えていると思っていたが・・・
“私は真知子、こっちは孫の菜帆美”
“真知子? 菜帆美?”
“ふ~ん”
“恵っ子?(長女の名前)”
“違う、真・知・子”
どっちでもいいか、娘には変わりないんだから。
若き頃英国留学していた祖母と祖父の間に生まれ、
子供の時は神童と言われ、美しく聡明だった母。
どこで人生の歯車が狂ったのか。
“顔や手を自分で洗いたいのに、ここは行かせてくれない。トイレにも行かせてくれないからPトイレを置いてもらった。ひどい病院だよ。”
日曜日で担当Drは不在、看護師に現在の状態を尋ねると、食欲が全くなく、いつもひと口み口で点滴を一日1000mlしています。歩行は医者から許可がないので。”と言う
口の中を見ると舌苔がひどくこびりつき乾燥している。
点滴台を移動しながら室内の洗面所まで付き添い歩かせ、口をうがいし、手、顔を洗い、トイレ排尿をする。
持参したみたらし団子を手渡すと、一本ぺろっと食す。
“歩かないと足が弱くなるから歩きたいのに・・・・”
微量点滴で24時間ベットに釘付け。
仕事をしている時、こんな場面によく遭遇していた。
目の前の親を見ていると、老人医療の難しさを痛感。
血流が悪いのか、片方の足首から下は紫色に変色し冷たい。
靴下を履かせようとするが靴下はない。
タオルで包もうとするがタオルはない。
看ることをしない私はどこまで看護師に物を申したらいいのか。
母親と顔を合わせるのも口を聞くのも嫌だったのだが・・・
患者として見ている部分がある。
この人だったら・・・
食べられないのではなく、食べたくない。
まず口腔ケアーをしっかり実施し、舌苔の除去をして、
入院するまではひとりで何でもやっていた人だから、
持続点滴は中止し、昼間フリーの時間が持てるような治療計画を立て、ADLが低下しないよう、トイレ、洗面所まで歩行援助をする。
変色し冷感のある足に関しては、家族にゆるめの靴下を持参してもらい、温浴実施。
なんてね。
言うは易し。書くは易し。
家族が来ない患者、看護師がやる事にも限界がある。
家族と医療従事者が一緒になった看護計画が理想だよね。
家族の協力は必須。
寝たきりにならないよう、早期退院を望む母を付き添い援助したいと思った。
家族にもそれぞれの事情。
悪い状態から脱出したばかり、きっとこれから退院に向けた看護計画を考えてくれるものと思う。
今の自分が情けない。
老人看護をじっくり実践するいい機会なのに。
店のセールが終わったら、もう一度行ってみたいと思うが・・・
じわじわ寝たきりになっていくのか。
今、母は何を思う。
老人になっていく自分を感じた時、死への階段を感じた時、人は魂の孤独を考えるのか。