“おはようございます。”とAさんが一番に食堂に来る。
みんなの湯呑みにお茶を注いでテーブルに置いていく。
89歳、毎晩晩酌を欠かさず、雪降るこの時期、外に出られない時は廊下を何往復もせっせせっせと歩き、ロビーにある自転車こぎもせっせせっせとこいでいる。
“正月を迎える事だし美容院に行って来るわ。”
“きれいになって帰るのを楽しみにしてるね。”
“いつもきれいでしょ。”と笑顔を見せる。
“来年は90になっちゃう。やだね~”
とてもとても90には見えない達者なAさん。
老人クラブの旅行、集まりにもせっせせっせと参加。
夕飯のおかずは半分残しタッパーに詰め、部屋で飲む晩酌用の肴に持っていく。
いつもニコニコ。
達者のお年寄りは怠けることをしない。
暇で~と言いながら、暇ではない。
管理人をしている76歳のBさん。
冗談を連発し女性陣を笑わせている。
この方も老人クラブ3箇所に入り、今日はあそこ、明日はむこうと急がしく出掛けていく。
朝5時には下宿屋の廊下、食堂、トイレなど掃除を終わらせている。
掃除はとっても丁寧。
もう一人の管理人、73歳のCさん。
いつもいつもにこにこ。
Cさんが居るだけでほかほかの空気が流れる。
仕事を終え帰る時は、
“気をつけて帰れよ。”。
とっても優しいんだ。
奥さんを癌で亡くし、息子さん夫婦と暮らしていたんだけど、ある日お嫁さんと喧嘩し家を飛び出しここに入居したと言う。
“たまに寂しいなあ~と思う事もあるけど気楽でいいわ。”と笑っている。
夫婦で入居している一組以外は、皆、つれ合いに先立たれたひとり住まい。
わいわいがやがや賑やかな食事風景。
ヘルパーで入っている50代の女性は、
“ここで働くまでこういう所があるなんて知らなかった。旦那はいないし、私も年を取ったらここに入ろうかな。3食食事付きで、お風呂は沸かしてくれるし、自由だし、干渉はされないし、必要となれば介護も受けられるし”と話す。
私もあるのは知っていたけど詳しい事は知らず、実際に賄いとして働いてみると、
いいかも
と思える。
入居者もここで働く管理人さんも高齢者の域だろうが、ここでは皆、互いを思いやりながら可笑しく楽しく暮らしている。
年をとってからの生活の場所。
選択肢が増えた。