河童アオミドロの断捨離世界図鑑

ザスドラス博士の弟子の河童アオミドロの格安貧困魂救済ブログ。

ソラリス家族 第5回

2017年08月12日 | シャーリー★ダンの悲劇
「い、痛いじゃないですか
あなた、何をなさるのです
いきなり私の頬をつねったりして
それに、そのマネキンの服を脱がせてどうするんですか」

「あ、ごめん
ここに転勤してから、まだ頭が混乱してるんだ
マネキンって、ああ、この充電式受付ロボットの事だね
とりあえず、ジュースを買いに行ってくるよ」

冷静にならなくてはいけない。
ここは冷静にならなくては。
私は別れた妻に再会して心が動揺してるのだ。
無くなったはずの愛情がまだ残ってる事に自分で気づいたのか。
古い乾電池を入れた懐中電灯がまだ光った事に驚いたのか。

連絡橋を渡って赤い自動販売機のところまで来た。
飲み物はみんな50円だった。
きっと会社がこの支店の社員のために設置した販売機なのだろう。
本社のように社員食堂が無い分の福利厚生ってやつか。

娘のアサリのためにファンタグレープを買った。
妻のとし子には餅入りぜんざいを、自分用にはさんぴん茶を買った。

そうだ、警備員の山川さんにもう一度さっきのお礼を言っておこう。

「ピンポーン」

宿直室のインターホンを押した

「はい、本社、吉田ですが、どうされました?」

「よ、吉田さん、山川さんはいらっしゃいますか」

「ああ、山川さんですね。本名、物星友郎さん。残念な事でした」

「山川さんに何かあったのですか」

「山川さん、いや物星さんは去年、連絡橋から海に落ちて亡くなられたんです
そちらの支店は最近事故が多いので、警備員さんの配置はやめて
今は本社直通のインターホンで管理してるんです」

「そ、そうでしたか、ご苦労様です」

やはり何かがおかしい。
この支店に来てから、海の上に来てから、次元が変わったような妙な空気を感じる。

「ブッポウソー ブッポウソー ギャハハハハー ギャハハハハー トッケイ トッケイ」

闇の中で鳥なのかトカゲなのか不気味な鳴き声が聞こえる。
とにかく、今は落ち着いて、どこからどこまでが現実で、どれが幻覚なのかを見極めなくてはならない。
朝日が登る頃には幻覚は消え去って現実だけが残るだろう。

「ジュース買ってきたよ
連絡橋が長くて往復するの大変だなあ」

私は少し怯えながらドアを開けた。

・・・続く・・・









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