今回の記事は「司法精神」というジャンルについて書いていきたいと思います。
私自身、現役看護師をしていたとき、鑑定入院や措置入院患者は受け持ってきましたが、司法精神病棟での勤務はなく、あくまで元同僚の話や経験談を元にしか記事にかけません。
簡単に司法精神を説明するなら、法務省管轄の「医療刑務所」が厚労省管轄の「精神科病院司法精神病棟」に名前が変わっただけだということです。
いわゆる、更正施設として「司法精神」が立ち上がっています。
実は、それまで罪を犯した精神障害者は、公判が開始するまもなく、措置入院として、精神病院に入院し、完治するまで(ムリ)一生病院で生活するという生活をしていました。
しかしながら、池田小学校殺害事件、相模原殺人事件など、措置入院していた患者を精神保健指定医が「治療できた」と措置解除をして、野に放ちます。
そして、殺人衝動に駆られ、大量殺人をしてきた経緯があります。
それに対して、厚労省は全く責任をとっておらず、いまだに治療可能だと不明瞭な見解をしめし、「司法精神」なる病棟を立て、そこで更正させようと形上やっている政策医療なのです。
精神病は不治の病)快楽殺人の原理、人間の脳は一度壊れてしまうと、医療では修復できない
を参考にしてただければ解ると思いますが、精神病は不治の病=脳の障害ですから、現代医療では手出しできません。
という事は、はなから医療費でなく、福祉費が使われるべきであり、治安維持の面からも警察と保健所が強力に連携しなければならないカテゴリーでもあります。
司法精神病棟には殺人者など重大犯罪の罪を犯した精神障害者が入院してきます。
まずは医療観察病棟についての説明を添付します。
・・・・・・・・(医療観察法病棟 久里浜医療センター)
1. 医療観察法とは
「医療観察法」の正式名称は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」です。平成15年7月に成立し、平成17年7月に施行されました。医療観察法では、①入院や通院、退院などを適切に決定する手続き、②手厚い専門的な医療、③地域社会における必要な医療やケアを提供する仕組み、などについて定めています。
2. 医療観察法の目的
不幸にして精神障害のために他害行為を行ない責任能力がないとされた者に対し、裁判所の指示により 法律に沿って治療と処遇を実施し、安心で安全な社会復帰を促進することが目的です。
3. 医療観察法の治療理念
医療観察法の入院処遇ガイドラインに示される「ノーマライゼーションの観点も踏まえた対象者の早期実現、標準化された臨床データの蓄積に基づく多職種のチームによる医療提供、プライバシー等の人権に配慮しつつ透明性の高い医療の提供」を遵守し、久里浜医療センターの医療観察法病棟では、対象者中心の医療を実践し、人間性の回復を援助し、地域社会で共生できることに尽力していきます。
4. 医療観察法病棟(しおさい病棟・なぎさ病棟)
久里浜医療センターは国により指定を受けた指定入院医療機関であり、医療観察法に基づき、入院医療の提供を行う専門病棟です。自然の光や風を取り込むなどのアメニティーを確保する一方、玄関は電気錠による二重扉構造とするほか、24時間体制の警備員を配置するなど、国のガイドラインに基づいた高い安全管理とセキュリティ対策を採っています。病室は全て個室で、対象者のプライバシーに配慮した病棟構造になっています。
5. 多職種チーム医療
医師や看護師、臨床心理技術者、精神保健福祉士、作業療法士からなる多職種チームによって、対象者の社会復帰実現を目指した各種治療プログラムを実施しています。対象者自らが病気を理解し、症状への対処能力を会得したり、退院後の生活に必要な技術や能力(対人関係、援助の求め方、金銭管理や調理など)を身につけるために、多様なリハビリテーションプログラムを対象者も参加しながら作り上げます。
6. 治療期間
裁判所により入院処遇の決定を受けた対象者の治療に当たります。 急性期・回復期・社会復帰期と治療ステ―ジに合わせた多様な治療を提供しています。標準的な入院期間は18ヶ月以内とされていますが、病気の状態や対象者の社会復帰の準備に合わせて入院期間は個別に設定されます。治療の継続や退院の決定は全て、地方裁判所において、裁判官と精神保健審判員(精神科医)の審判で決定されています。
7. 地域連携
久里浜医療センターの医療観察法病棟では、医療観察法の対象となった方々の自律と人間性の回復を目指し、対象者、家族、地域、病院などが共に手を取り合いながら歩んで行くことを目指しています。入院当初から退院に向けて、関係機関との十分な連携を行うことで、退院後の継続的な医療とケアへつなげていきます。
保護観察所の社会復帰調整官と協力しながら、都道府県、市町村といった各自治体、精神保健福祉の関係機関との連携により、総合的で専門的な医療保健康福祉サービスを提供し、地域ケアチームの一員として入院対象者の社会復帰を支援します。
8. 各種会議
治療評価会議や運営会議を行い、多角的な評価を行い、診療の質を高めています。また、外部委員を交えた倫理会議や外部評価会議を開催し、診療の透明性を高めています。
9. 久里浜医療センターの司法精神医学への役割
医療観察法に基づいて、 当院は52床(全国で2位)の指定入院医療機関として運営しています。科学的根拠に基づいた先進的な医療を提供します。また、臨床的な研究や研修を行ない司法精神医学の発展に寄与したいと願っています。包括的な司法精神医療への寄与を目指し、各種精神鑑定も積極的に行っています。医療観察法での診療経験を生かして、新しい治療技術や治療体制の開発など司法精神医学だけでなく、精神医療全般の発展に貢献することを願っています。
・・・・・・・・(転載ここまで)
目的を見て笑えてきますね。
『2. 医療観察法の目的
不幸にして精神障害のために他害行為を行ない責任能力がないとされた者に対し、裁判所の指示により 法律に沿って治療と処遇を実施し、安心で安全な社会復帰を促進することが目的です。』
「罪の償い」という言葉が一言も入っていません。
では、その病棟の治療(?)実績はどうなのでしょうか?
・・・・・・・・(2016年11月7日 ジャーナリスト浅野詠子 医療観察法、強制治療処遇中の対象者52人が自殺)
精神疾患がもとで行動をコントロールする力が低下して傷害などの事件に及び、刑事責任能力が問われず、不起訴や執行猶予になった人たちを強制的に治療する医療観察法の対象者のうち、法施行の2005年7月以降、処遇中の自殺者が52人に上ることが分かった。同法は対象者を社会復帰させることを目的とし、収容病棟の医師、看護師らのスタッフの数は、一般の精神科病棟より圧倒的に多い。支援のあり方が問われそうだ。
自殺者の数は、精神障害者の権利拡張運動をしている兵庫県在住の高見元博さんが法務省、厚生労働省の医療観察法担当課に照会して先月つかみ、「52人が自殺した」と記者に電話連絡があった。
これを受け、記者が両省に確認したところ、入院処遇中の患者の自殺は11月2日現在で12人、通院処遇中の自殺者は9月30日現在、40人だった。
法の施行後から2014年12月31日までの間、強制入院の命令を受けた精神障害者は2248人いる。退院すると、大半の人が最長3年間の治療命令(通院処遇)を受けている。入院、通院ともに命令は裁判所が言い渡す。
ニュース奈良の声が2013年7月25日付で報じた医療観察法の自殺者36人の内訳は、入院処遇中が8人、通院処遇中が28人だった。
社会一般の傾向から、厚労省における自殺対策の中核となっているのはうつ病対策だ。一方、医療観察法病棟に入院している701人の精神障害分類によると(本年9月1日現在)、うつ病患者(気分障害)は51人、統合失調症は584人となっている。処遇中の自殺者の精神障害分類について国は明らかにしていない。
同法の病棟は、事件について患者が内省を深めない限り、退院することが難しく、平均在院日数が長期化している。
自殺者の中には、元自衛隊員で横須賀基地の護衛艦「はたかぜ」の海士長だった男性も含まれる。直属の部隊でいじめを受けたことが原因とされる精神疾患の悪化により幻聴で苦しみ、罪のない通行人を傷つけてしまった。
男性はいじめの具体的な内容を横須賀地方総監部に内部告発していた。
医療観察法の公立病棟は、国の掲げる「司法と医療の連携」のスローガンの下、予算の措置が手厚い。厚労省が所管する標準的な33床の病棟においては、看護師43人、医師4人、精神保健福祉士3人、心理職、作業療法士を2人ずつ配置し、一般の精神科病棟の3倍のスタッフを誇る。
対象者が退院し、通院処遇に切り替わると、主務官庁は法務省の保護観察所に変わる。そこでは福祉の専門職の社会復帰調整官が対応するが、人手が足りないという声が出ている。仮に人員が増えても、スタッフの充実した入院病棟で自殺者が増えている以上は、根本的な解決になるのか、誰も確信は持てない。
表向きは通院処遇の身分であっても、民間の精神科病院への入院を勧められ、そこで命を絶ったケースも少なくないとみられる。
法務省保護局総務課精神保健観察企画官室は「自殺につながりかねない症状を含む病状悪化の対策については、処遇の実施計画において病状悪化時への対応策をあらかじめ定め、その後の症状悪化に応じて必要な医療を確保するなどの対応を行なっている」とする。
厚労省社会・援護局自殺対策推進室の担当官は「警察庁が取りまとめた自殺者の中に医療観察法の処遇中の自殺者は含まれておらず、当局としては把握していない」と話している。【関連記事へ】
・・・・・・・(転載ここまで)
この記事から解るように、殺人する人はその動機に関わらず、気が狂ってしまっているので、最期は絶望して自殺するのでしょうね。
そこで看護する看護人はどのような教育を受けているのでしょうか?
以下のような犯罪心理学=異常心理学は学んでいるのでしょうか?
【人は人を殺せないのに,戦場では殺せと命じられる軍隊】
【人を殺した人は自分自身も「異常に深く傷つく」のが正常な精神である】
①「〈インタビュー〉戦場に立つということ 戦場の心理学の専門家,デーブ・グロスマンさん」(『朝日新聞』2016年9月9日朝刊「オピニオン」)
【人物紹介】 Dave Grossman は,1956生まれ,米陸軍退役中佐。陸軍士官学校,・心理学教授、アーカンソー州立大学・軍事学教授を経て、1998年から殺人学研究所所長。著書に『戦争における「人殺し」』の心理学』(日本語訳は原書房,1998年,筑摩書房,2004年)など。( ↓ 画面 クリックで 拡大・可)
1) このインタビュー記事に関しては,『朝日新聞』昨〔2015〕年5月29日朝刊「天声人語」が言及していた。こちらをさきに紹介しておく。
意外にも多くの兵士が銃を撃っていなかった。米軍が調べたところ,第2次大戦で戦闘中に発砲したのは,全体の15%から20%に過ぎなかったという。デーヴ・グロスマン著『戦争における「人殺し」の心理学』が紹介している話だ。
▼ その後,米軍は発砲率を上げるための訓練法を開発した。朝鮮戦争では55%になり,ベトナム戦争では90%以上になったそうだ。著者は言う。本来ほとんどの人間には同類である人間を殺すことに強烈な抵抗感がある,と。であればこその訓練か。
▼ 戦場は人を激しいストレスにさらす。心を壊す。イラクとアフガニスタンの戦争に派遣された米兵200万人のうち,50万人が帰還後に精神を病んだ。デイヴィッド・フィンケル著『帰還兵はなぜ自殺するのか』が挙げる数字だ。
▼ 悪夢,パニック,記憶障害,人格変化……。書名のとおり自殺者も多い。多くの事例から防止のための教訓を引きだそうと国防総省は躍起だという。どの戦争にも必ず「戦争の後」がある。著者の言葉が重く響く。
▼ 自衛隊員も戦場の近くで恐怖や緊張に直面してきた。イラクやインド洋に派遣された隊員のうち54人が帰国後に自ら命を絶ったという。防衛省が一昨日〔2015年5月27日〕,明らかにした。個々の原因の特定は困難としているが,派遣と無縁かどうか。
安全保障法制で自衛隊員のリスクが高まるという議論は木を見て森をみていない。首相はそういうが,木を語らずに森は語れない。隊員の「派遣の後」にも思いを致す議論が必要だ。
2)インタビュー記事「本文」
戦場に立たされたとき,人の心はどうなってしまうのか。国家の命令とはいえ,人を殺すことに人は耐えられるものか。軍事心理学の専門家で,長く人間の攻撃心について研究してきた元米陸軍士官学校心理学教授,デーブ・グロスマンさんに聞いた。戦争という圧倒的な暴力が,人間にもたらすものとは。
◆ 戦場で戦うとき,人はどんな感覚に陥るものですか。
◇「自分はどこかおかしくなったのか,と思うようなことが起きるのが戦場です。生きるか死ぬかの局面では,異常なまでのストレスから知覚がゆがむことすらある。耳元の大きな銃撃音が聞こえなくなり,動きがスローモーションにみえ,視野がトンネルのように狭まる。記憶がすっぽり抜け落ちる人もいます。実戦の経験がないと,わからないでしょうが」。
◆ 殺される恐怖が,激しいストレスになるのですね。
◇「殺される恐怖より,むしろ殺すことへの抵抗感です。殺せば,その重い体験を引きずって生きていかねばならない。でも殺さなければ,そいつが戦友を殺し,部隊を滅ぼすかもしれない。殺しても殺さなくても大変なことになる。これを私は『兵士のジレンマ』と呼んでいます」。
出所)グロスマン『戦争における「人殺し」』の心理学』47頁,181頁。
「この抵抗感をデータで裏づけたのが米陸軍のマーシャル准将でした。第2次大戦中,日本やドイツで接近戦を体験した米兵に『いつ』『なにを』撃ったのかと聞いて回った。驚いたことに,わざと当て損なったり,敵のいない方角に撃ったりした兵士が大勢いて,姿のみえる敵に発砲していた小銃手は,わずか15~20%でした。いざという瞬間,事実上の良心的兵役拒否者が続出していたのです」。
◆ なぜでしょう。
◇「同種殺しへの抵抗感からです。それが人間の本能なのです。多くは至近距離で人を殺せるようには生まれついていない。それに文明社会では幼いころから,命を奪うことは恐ろしいことだと教わって育ちますから」。
「発砲率の低さは軍にとって衝撃的で,訓練を見直す転機となりました。まず射撃で狙う標的を,従来の丸型から人型のリアルなものに換えた。それが目の前に飛び出し,弾が当たれば倒れる。成績がいいと休暇が3日もらえたりする。条件づけです。刺激―反応,刺激―反応と何百回も射撃を繰り返すうちに,意識的な思考を伴わずに撃てるようになる。発砲率は朝鮮戦争で50~55%,ベトナム戦争で95%前後に上がりました」
補注)ベトナム戦争でのアメリカ軍兵士は,ベトナム人はねずみかゴキブリと思えばいい,その気分になって殺せばいいのだ,と教育(洗脳)されていた。もっとも,そうでも教えこまねば「人間が人間を殺すことは」,もともと困難な行為である。軍隊というところは,「しごく簡単に」「人に人を」「しかも効率的に殺させる作業」を,躊躇することなく実行できる兵士を必要とする。もちろん,殺されることも怖がらない兵士が必要不可欠である。
旧大日本帝国軍のとくに兵士が強いと評判だったのは,ふだんより小銃を手にしたときは,標的に狙った相手をまっすぐにとらえ,撃って,殺せる精神構造をもつ者の比率が多かったせいである。いうまでもなく,日本軍の兵士であっても,その比率が100%でなかったことは,後段でその実例を出し,説明する点である。
ただ,日本軍兵士の場合はその比率が異常に高かったのである。軍人勅諭の強制的な教えや少年期からの教育勅語の日常的な教化によって,日本人男子兵士は敵兵を,よりまっすぐに狙い撃ちできる者の比率が非常(異常?)に高かった。
その高い比率が具体的にどの付近の数値であったかは不詳であるが,日本軍の兵士は強かった,とくに下士官階級の彼らが強かったという評判は,帝国軍人としての精神を,肉体面の鍛錬とともに徹底的に叩きこまれたからである。
※-1『軍人勅諭』 ……「國家を保護し國權を維持するは兵力に在れは兵力の消長は是國運の盛衰なることを辨へ世論に惑はす政治に拘らす只々一途に己か本分の忠節を守り義は山嶽よりも重く死は鴻毛よりも輕しと覺悟せよ其操を破りて不覺を取り汚名を受くるなかれ」という具合に,ウンヌン。帝国臣民の命はとても軽いのだという上からの一方的な通告。
※-2『教育勅語』……「朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ德ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世世厥ノ美ヲ濟セルハ此レ我カ國體ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス」というふうに,うんぬん。「ともかく神州日本の皇祖皇宗」のすばらしさは,無条件的に認められるものなのだから,おまえたち臣民もこれに光被されるべき教育に従えとのたまう,これまた一方的な教え。
◆ 訓練のやり方次第で,人は変えられるということですか。
◇「そのとおり。戦場の革命です。心身を追いこむ訓練でストレス耐性をつけ,心理的課題もあらかじめ解決しておく。現代の訓練をもってすれば,われわれは戦場において驚くほどの優越性を得ることができます。敵を 100人倒し,かつわれわれの犠牲はゼロというような圧倒的な戦いもできるのです」。
「ただし,無差別殺人者を養成しているわけではない。上官の命令に従い,一定のルールのもとで殺人の任務を遂行するのですから。この違いは重要です。実際,イラクやアフガニスタン戦争の帰還兵たちが平時に殺人を犯す比率は,戦争に参加しなかった同世代の若者に比べてはるかに低い」。
◆ 技術進歩で戦争のかたちが変わり,殺人への抵抗感が薄れている面もあるのでは?
◇「ドローンを飛ばし,遠隔操作で攻撃するテレビゲーム型の戦闘が戦争の性格を変えたのはたしかです。人は敵との間に距離があり,機械が介在するとき,殺人への抵抗感が著しく低下しますから」。
「しかし接近戦は,私の感覚ではむしろ増えています。いま最大の敵であるテロリストたちは,正面から火砲で攻撃なんかしてこない。われわれの技術を乗り越え,こっそり近づき,即席爆弾を爆破させます。最前線の対テロ戦争は,とても近い戦いなのです」。
◆ 本能に反する行為だから,心が傷つくのではありませんか。
◇「敵を殺した直後には,任務を果たして生き残ったという陶酔感を感じるものです。つぎに罪悪感や嘔吐感がやってくる。最後に,人を殺したことを合理化し,受け入れる段階が訪れる。ここで失敗するとPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症しやすい」。
「国家は無垢(むく)で未経験の若者を訓練し,心理的に操作して戦場に送り出してきました。しかし,ベトナム戦争で大失敗をした。徴兵制によって戦場に送りこんだのは,まったく準備のできていない若者たちでした。彼らは帰国後,つばを吐かれ,人殺しとまで呼ばれた。未熟な青年がなにの脅威でもない人を殺すよう強いられ,その任務で非難されたら,心に傷を負うのは当たりまえです」。
「PTSDにつながる要素は3つ。(1) 幼児期に健康に育ったか,(2) 戦闘体験の衝撃度の度合い,(3) 帰国後に十分なサポートを受けたか,です。たとえば幼児期の虐待で,すでにトラウマを抱えていた兵士が戦場で罪のない民を虐殺すれば,リスクは高まる。3要素のかけ算になるのです」。
◆ 防衛のために戦う場合と,他国に出て戦う場合とでは,兵士の心理も違うと思うのですが。
◇「そのとおり。第2次大戦中,カナダは国内には徴兵した兵士を展開し,海外には志願兵を送りました。成熟した志願兵なら,たとえ戦場体験が衝撃的なものであったとしても,帰還後に社会から称賛されたりすれば,さほど心の負担にはならない。もし日本が自衛隊を海外に送るなら,望んだもののみを送るべきだし,望まないものは名誉をもって抜ける選択肢が与えられるべきです」。
「ただ,21世紀はテロリストとの非対称的な戦争の時代です。国と国が戦った20世紀とは違う。もしも彼らが核を入手したら,すぐに使うでしょう。いま国を守るとは,自国に要塞(ようさい)を築き,攻撃を受けて初めて反撃することではない。こちらから敵の拠点をたたき,打ち負かす必要がある。これが世界の現実です」。
◆ でも日本は米国のような軍事大国と違って,戦後ずっと専守防衛でやってきた平和国家です。
◇「われわれもベトナム戦争で学んだことがあります。世論が支持しない戦争には兵士を送らないという原則です。国防長官の名から,ワインバーガー・ドクトリンと呼ばれている。国家が国民に戦えと命じるとき,その戦争について世論が大きく分裂していないこと。もしも兵を送るなら彼らを全力で支援すること。これが最低限の条件だといえるでしょう」。
◆ 気になっているのですが,腰につけたふくらんだポーチには何が入っているのですか。
◇「短銃です。私はいつも武装しています。いつでも立ち上がる用意のある市民がいる間は,政府は国民が望まないことを強制することはできない。武器をもつ,憲法にも認められたこの権利こそが,専制への最大の防御なのです」。
◆ でも銃があふれているから銃撃事件が頻発しているのでは?
◇「日本の障害者施設で最近起きた大量殺人ではナイフが使われたそうですね。我々は市民からナイフを取り上げるべきでしょうか」。
◆ 現代の戦争とは。
◇「戦闘は進化しています。火砲の攻撃力は以前とは比較にならないほど強く,精密度も上がり,兵士はかつてなかったほど躊躇なく殺人をおこなえる。志願兵が十分に訓練され,絆を深めた部隊単位で戦っている限り,PTSDの発症率も5~8%に抑えられます」
「一方で,いまは誰もがカメラをもっていて,いつでも撮影し,ネットに流すことができる時代です。ベトナム戦争さなかの1968年,ソンミ村の村民 500人を米軍が虐殺した事件の映像がもしも夜のニュースで流れていたら,米国民は怒り,大騒ぎになっていたでしょう。現代の戦争は,社会に計りしれないダメージを与えるリスクも抱えているのです」。
3) 戦闘がもたらすトラウマ深刻- 一橋大学特任講師・中村江里-
米国では,戦場の現実をリアルな視点からとらえる軍事心理学や軍事精神医学の研究が盛んで,グロスマンさんもこの観点から兵士の心理を考えています。根底にあるのは,いかに兵士を効率的に戦わせるかという意識です。
兵士が心身ともに健康で,きちんと軍務を果たしてくれることが,軍と国家には重要なわけです。しかし,軍事医学が関心を注ぐ主な対象は,戦闘を遂行している兵士の「いま」の健康です。その後の長い人生に及ぼす影響まで,考慮しているとは思えません。
私自身,イラク帰還米兵の証言やアートを紹介するプロジェクトに関わってしったのですが,イラクで戦争の大義に疑問を抱き,帰還後に良心の呵責に苦しんでいる若者は大勢います。自殺した帰還兵のほうが,戦闘で死んだ米兵より多いというデータもある。戦場では地元民も多く巻き添えになり苦しんでいるのに,そのトラウマもまったく考慮されない。軍事医学には国境があるのです。
一方で,日本には戦争の現実を直視しない傾向がありました戦後,米軍の研究に接した日本の元軍医は,兵士が恐怖心を表に出すのを米軍が重視していたことに驚いていた。旧日本軍は「恥」として否定していましたから。口に出せず,抑えこまれた感情は結局,手足の震えや,声が出ないといったかたちで表われ,「戦争神経症」の症状を示す兵士は日中戦争以降,問題化していました。
その存在が極力隠されたのは,心の病は国民精神の堕落の象徴と位置づけられたためです。こうした病は「皇軍」には存在しない,とまで報じられた。精神主義が影を落としていたわけです。戦争による心の傷は,戦後も長らく「みえない問題」のままでした。
トラウマやPTSDという言葉が人びとの関心を集め始めたのは1995年の阪神・淡路大震災がきっかけです。激戦だった沖縄戦や被爆地について,心の傷という観点から研究が広がったのもそれ以降。戦争への忌避感がそれほど強かったからでしょう。
昨〔2015〕年の安保関連法制定により,自衛隊はますます「戦える」組織へと変貌しつつあります。「敵」と殺し殺される関係に陥ったとき,人の心や社会にはどんな影響がもたらされるのか。私たちもしっておくべきでしょう。暴力が存在するところでは,トラウマは決してなくならないのですから。
【人物紹介】 なかむら・えりは,1982年生まれ,専門は日本近現代史。旧日本軍の戦争神経症を題材にした新著を執筆中。
4) 取材を終えて
戦場に立つということは,これほどまでに凄(すさ)まじいことなのだと思った。ただ,米国民がこぞって支持したイラク戦争では結局,大量破壊兵器はみつからず,「イスラム国」誕生につながったことも指摘しておきたい。
日本が今後,集団的自衛権を行使し,米国と一心同体となっていけば,まさに泥沼の「テロとの戦い」に引きこまれ,手足として使われる恐れを強く感じる。やはり,どこかに太い一線を引いておくべきではないだろうか。一生残る心の傷を,若者たちに負わせないためにも。(萩 一晶)
・・・・・・・・(転載ここまで)
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