【人を殺した人は自分自身も「異常に深く傷つく」のが正常な精神である】



 ①「〈インタビュー〉戦場に立つということ 戦場の心理学の専門家,デーブ・グロスマンさん」(『朝日新聞』2016年9月9日朝刊「オピニオン」)

  【人物紹介】 Dave Grossman は,1956生まれ,米陸軍退役中佐。陸軍士官学校,・心理学教授、アーカンソー州立大学・軍事学教授を経て、1998年から殺人学研究所所長。著書に『戦争における「人殺し」』の心理学』(日本語訳は原書房,1998年,筑摩書房,2004年)など。( ↓  画面 クリックで 拡大・可)
『朝日新聞』2016年9月9日朝刊オピニオン:デーブ・グロスマン
 1) このインタビュー記事に関しては,『朝日新聞』昨〔2015〕年5月29日朝刊「天声人語」が言及していた。こちらをさきに紹介しておく。

 意外にも多くの兵士が銃を撃っていなかった。米軍が調べたところ,第2次大戦で戦闘中に発砲したのは,全体の15%から20%に過ぎなかったという。デーヴ・グロスマン著『戦争における「人殺デーヴ・グロスマン表紙し」の心理学』が紹介している話だ。

 ▼ その後,米軍は発砲率を上げるための訓練法を開発した。朝鮮戦争では55%になり,ベトナム戦争では90%以上になったそうだ。著者は言う。本来ほとんどの人間には同類である人間を殺すことに強烈な抵抗感がある,と。であればこその訓練か。

 ▼ 戦場は人を激しいストレスにさらす。心を壊す。イラクとアフガニスタンの戦争に派遣された米兵200万人のうち,50万人が帰還後に精神を病んだ。デイヴィッド・フィンケル著『帰還兵はなぜ自殺するのか』が挙げる数字だ。

 ▼ 悪夢,パニック,記憶障害,人格変化……。書名のとおり自殺者も多い。多くの事例から防止のための教訓を引きだそうと国防総省は躍起だという。どの戦争にも必ず「戦争の後」がある。著者の言葉が重く響く。

 ▼ 自衛隊員も戦場の近くで恐怖や緊張に直面してきた。イラクやインド洋に派遣された隊員のうち54人が帰国後に自ら命を絶ったという。防衛省が一昨日〔2015年5月27日〕,明らかにした。個々の原因の特定は困難としているが,派遣と無縁かどうか。

 安全保障法制で自衛隊員のリスクが高まるという議論は木を見て森をみていない。首相はそういうが,木を語らずに森は語れない。隊員の「派遣の後」にも思いを致す議論が必要だ。


 2)インタビュー記事「本文」

 戦場に立たされたとき,人の心はどうなってしまうのか。国家の命令とはいえ,人を殺すことに人は耐えられるものか。軍事心理学の専門家で,長く人間の攻撃心について研究してきた元米陸軍士官学校心理学教授,デーブ・グロスマンさんに聞いた。戦争という圧倒的な暴力が,人間にもたらすものとは。

 ◆ 戦場で戦うとき,人はどんな感覚に陥るものですか。

 ◇「自分はどこかおかしくなったのか,と思うようなことが起きるのが戦場です。生きるか死ぬかの局面では,異常なまでのストレスから知覚がゆがむことすらある。耳元の大きな銃撃音が聞こえなくなり,動きがスローモーションにみえ,視野がトンネルのように狭まる。記憶がすっぽり抜け落ちる人もいます。実戦の経験がないと,わからないでしょうが」。

 ◆ 殺される恐怖が,激しいストレスになるのですね。

 ◇「殺される恐怖より,むしろ殺すことへの抵抗感です。殺せば,その重い体験を引きずって生きていかねばならない。でも殺さなければ,そいつが戦友を殺し,部隊を滅ぼすかもしれない。殺しても殺さなくても大変なことになる。これを私は『兵士のジレンマ』と呼んでいます」。
 グロスマン図1  グロスマン図2
   出所)グロスマン『戦争における「人殺し」』の心理学』47頁,181頁。

 「この抵抗感をデータで裏づけたのが米陸軍のマーシャル准将でした。第2次大戦中,日本やドイツで接近戦を体験した米兵に『いつ』『なにを』撃ったのかと聞いて回った。驚いたことに,わざと当て損なったり,敵のいない方角に撃ったりした兵士が大勢いて,姿のみえる敵に発砲していた小銃手は,わずか15~20%でした。いざという瞬間,事実上の良心的兵役拒否者が続出していたのです」。

 ◆ なぜでしょう。

 ◇「同種殺しへの抵抗感からです。それが人間の本能なのです。多くは至近距離で人を殺せるようには生まれついていない。それに文明社会では幼いころから,命を奪うことは恐ろしいことだと教わって育ちますから」。

 「発砲率の低さは軍にとって衝撃的で,訓練を見直す転機となりました。まず射撃で狙う標的を,従来の丸型から人型のリアルなものに換えた。それが目の前に飛び出し,弾が当たれば倒れる。成績がいいと休暇が3日もらえたりする。条件づけです。刺激―反応,刺激―反応と何百回も射撃を繰り返すうちに,意識的な思考を伴わずに撃てるようになる。発砲率は朝鮮戦争で50~55%,ベトナム戦争で95%前後に上がりました」
 補注)ベトナム戦争でのアメリカ軍兵士は,ベトナム人はねずみかゴキブリと思えばいい,その気分になって殺せばいいのだ,と教育(洗脳)されていた。もっとも,そうでも教えこまねば「人間が人間を殺すことは」,もともと困難な行為である。軍隊というところは,「しごく簡単に」「人に人を」「しかも効率的に殺させる作業」を,躊躇することなく実行できる兵士を必要とする。もちろん,殺されることも怖がらない兵士が必要不可欠である。

 旧大日本帝国軍のとくに兵士が強いと評判だったのは,ふだんより小銃を手にしたときは,標的に狙った相手をまっすぐにとらえ,撃って,殺せる精神構造をもつ者の比率が多かったせいである。いうまでもなく,日本軍の兵士であっても,その比率が100%でなかったことは,後段でその実例を出し,説明する点である。

 ただ,日本軍兵士の場合はその比率が異常に高かったのである。軍人勅諭の強制的な教えや少年期からの教育勅語の日常的な教化によって,日本人男子兵士は敵兵を,よりまっすぐに狙い撃ちできる者の比率が非常(異常?)に高かった。


 その高い比率が具体的にどの付近の数値であったかは不詳であるが,日本軍の兵士は強かった,とくに下士官階級の彼らが強かったという評判は,帝国軍人としての精神を,肉体面の鍛錬とともに徹底的に叩きこまれたからである。

  ※-1『軍人勅諭』 ……「國家を保護し國權を維持するは兵力に在れは兵力の消長は是國運の盛衰なることを辨へ世論に惑はす政治に拘らす只々一途に己か本分の忠節を守り義は山嶽よりも重く死は鴻毛よりも輕しと覺悟せよ其操を破りて不覺を取り汚名を受くるなかれ」という具合に,ウンヌン。帝国臣民の命はとても軽いのだという上からの一方的な通告。

  ※-2『教育勅語』……「朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ德ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世世厥ノ美ヲ濟セルハ此レ我カ國體ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス」というふうに,うんぬん。「ともかく神州日本の皇祖皇宗」のすばらしさは,無条件的に認められるものなのだから,おまえたち臣民もこれに光被されるべき教育に従えとのたまう,これまた一方的な教え。


 ◆ 訓練のやり方次第で,人は変えられるということですか。

 ◇「そのとおり。戦場の革命です。心身を追いこむ訓練でストレス耐性をつけ,心理的課題もあらかじめ解決しておく。現代の訓練をもってすれば,われわれは戦場において驚くほどの優越性を得ることができます。敵を 100人倒し,かつわれわれの犠牲はゼロというような圧倒的な戦いもできるのです」。

 「ただし,無差別殺人者を養成しているわけではない。上官の命令に従い,一定のルールのもとで殺人の任務を遂行するのですから。この違いは重要です。実際,イラクやアフガニスタン戦争の帰還兵たちが平時に殺人を犯す比率は,戦争に参加しなかった同世代の若者に比べてはるかに低い」。

 ◆ 技術進歩で戦争のかたちが変わり,殺人への抵抗感が薄れている面もあるのでは?

 ◇「ドローンを飛ばし,遠隔操作で攻撃するテレビゲーム型の戦闘が戦争の性格を変えたのはたしかです。人は敵との間に距離があり,機械が介在するとき,殺人への抵抗感が著しく低下しますから」。

 「しかし接近戦は,私の感覚ではむしろ増えています。いま最大の敵であるテロリストたちは,正面から火砲で攻撃なんかしてこない。われわれの技術を乗り越え,こっそり近づき,即席爆弾を爆破させます。最前線の対テロ戦争は,とても近い戦いなのです」。

 ◆ 本能に反する行為だから,心が傷つくのではありませんか。

 ◇「敵を殺した直後には,任務を果たして生き残ったという陶酔感を感じるものです。つぎに罪悪感や嘔吐感がやってくる。最後に,人を殺したことを合理化し,受け入れる段階が訪れる。ここで失敗するとPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症しやすい」。

 「国家は無垢(むく)で未経験の若者を訓練し,心理的に操作して戦場に送り出してきました。しかし,ベトナム戦争で大失敗をした。徴兵制によって戦場に送りこんだのは,まったく準備のできていない若者たちでした。彼らは帰国後,つばを吐かれ,人殺しとまで呼ばれた。未熟な青年がなにの脅威でもない人を殺すよう強いられ,その任務で非難されたら,心に傷を負うのは当たりまえです」。

 「PTSDにつながる要素は3つ。(1)  幼児期に健康に育ったか,(2)  戦闘体験の衝撃度の度合い,(3)  帰国後に十分なサポートを受けたか,です。たとえば幼児期の虐待で,すでにトラウマを抱えていた兵士が戦場で罪のない民を虐殺すれば,リスクは高まる。3要素のかけ算になるのです」。
グロスマン102頁
出所)グロスマン『戦争における「人殺し」』の心理学』102頁。

 ◆ 防衛のために戦う場合と,他国に出て戦う場合とでは,兵士の心理も違うと思うのですが。

 ◇「そのとおり。第2次大戦中,カナダは国内には徴兵した兵士を展開し,海外には志願兵を送りました。成熟した志願兵なら,たとえ戦場体験が衝撃的なものであったとしても,帰還後に社会から称賛されたりすれば,さほど心の負担にはならない。もし日本が自衛隊を海外に送るなら,望んだもののみを送るべきだし,望まないものは名誉をもって抜ける選択肢が与えられるべきです」。

 「ただ,21世紀はテロリストとの非対称的な戦争の時代です。国と国が戦った20世紀とは違う。もしも彼らが核を入手したら,すぐに使うでしょう。いま国を守るとは,自国に要塞(ようさい)を築き,攻撃を受けて初めて反撃することではない。こちらから敵の拠点をたたき,打ち負かす必要がある。これが世界の現実です」。

 ◆ でも日本は米国のような軍事大国と違って,戦後ずっと専守防衛でやってきた平和国家です。

 ◇「われわれもベトナム戦争で学んだことがあります。世論が支持しない戦争には兵士を送らないという原則です。国防長官の名から,ワインバーガー・ドクトリンと呼ばれている。国家が国民に戦えと命じるとき,その戦争について世論が大きく分裂していないこと。もしも兵を送るなら彼らを全力で支援すること。これが最低限の条件だといえるでしょう」。

 ◆ 気になっているのですが,腰につけたふくらんだポーチには何が入っているのですか。

 ◇「短銃です。私はいつも武装しています。いつでも立ち上がる用意のある市民がいる間は,政府は国民が望まないことを強制することはできない。武器をもつ,憲法にも認められたこの権利こそが,専制への最大の防御なのです」。

 ◆ でも銃があふれているから銃撃事件が頻発しているのでは?

 ◇「日本の障害者施設で最近起きた大量殺人ではナイフが使われたそうですね。我々は市民からナイフを取り上げるべきでしょうか」。

 ◆ 現代の戦争とは。

 ◇「戦闘は進化しています。火砲の攻撃力は以前とは比較にならないほど強く,精密度も上がり,兵士はかつてなかったほど躊躇なく殺人をおこなえる。志願兵が十分に訓練され,絆を深めた部隊単位で戦っている限り,PTSDの発症率も5~8%に抑えられます」

 「一方で,いまは誰もがカメラをもっていて,いつでも撮影し,ネットに流すことができる時代です。ベトナム戦争さなかの1968年,ソンミ村の村民 500人を米軍が虐殺した事件の映像がもしも夜のニュースで流れていたら,米国民は怒り,大騒ぎになっていたでしょう。現代の戦争は,社会に計りしれないダメージを与えるリスクも抱えているのです」。

 3) 戦闘がもたらすトラウマ深刻- 一橋大学特任講師・中村江里-

 米国では,戦場の現実をリアルな視点からとらえる軍事心理学や軍事精神医学の研究が盛んで,グロスマンさんもこの観点から兵士の心理を考えています。根底にあるのは,いかに兵士を効率的に戦わせるかという意識です。

 兵士が心身ともに健康で,きちんと軍務を果たしてくれることが,軍と国家には重要なわけです。しかし,軍事医学が関心を注ぐ主な対象は,戦闘を遂行している兵士の「いま」の健康です。その後の長い人生に及ぼす影響まで,考慮しているとは思えません。

 私自身,イラク帰還米兵の証言やアートを紹介するプロジェクトに関わってしったのですが,イラクで戦争の大義に疑問を抱き,帰還後に良心の呵責に苦しんでいる若者は大勢います。自殺した帰還兵のほうが,戦闘で死んだ米兵より多いというデータもある。戦場では地元民も多く巻き添えになり苦しんでいるのに,そのトラウマもまったく考慮されない。軍事医学には国境があるのです。

 一方で,日本には戦争の現実を直視しない傾向がありました戦後,米軍の研究に接した日本の元軍医は,兵士が恐怖心を表に出すのを米軍が重視していたことに驚いていた。旧日本軍は「恥」として否定していましたから。口に出せず,抑えこまれた感情は結局,手足の震えや,声が出ないといったかたちで表われ,「戦争神経症」の症状を示す兵士は日中戦争以降,問題化していました。

 その存在が極力隠されたのは,心の病は国民精神の堕落の象徴と位置づけられたためです。こうした病は「皇軍」には存在しない,とまで報じられた。精神主義が影を落としていたわけです。戦争による心の傷は,戦後も長らく「みえない問題」のままでした。

 トラウマやPTSDという言葉が人びとの関心を集め始めたのは1995年の阪神・淡路大震災がきっかけです。激戦だった沖縄戦や被爆地について,心の傷という観点から研究が広がったのもそれ以降。戦争への忌避感がそれほど強かったからでしょう。

 昨〔2015〕年の安保関連法制定により,自衛隊はますます「戦える」組織へと変貌しつつあります。「敵」と殺し殺される関係に陥ったとき,人の心や社会にはどんな影響がもたらされるのか。私たちもしっておくべきでしょう。暴力が存在するところでは,トラウマは決してなくならないのですから。

  【人物紹介】 なかむら・えりは,1982年生まれ,専門は日本近現代史。旧日本軍の戦争神経症を題材にした新著を執筆中。

 4) 取材を終え

 戦場に立つということは,これほどまでに凄(すさ)まじいことなのだと思った。ただ,米国民がこぞって支持したイラク戦争では結局,大量破壊兵器はみつからず,「イスラム国」誕生につながったことも指摘しておきたい。

 日本が今後,集団的自衛権を行使し,米国と一心同体となっていけば,まさに泥沼の「テロとの戦い」に引きこまれ,手足として使われる恐れを強く感じる。やはり,どこかに太い一線を引いておくべきではないだろうか。一生残る心の傷を,若者たちに負わせないためにも。(萩 一晶)
 

・・・・・・・・(転載ここまで)
動機やいきさつはどうあれ、司法精神、つまり医療観察病棟の入院患者は、こんな人達だということです。
こんな人達は治療?更正できるのでしょうか?
看護師のような医療従事者は、病気から回復してもらって元気に生活してもらうことで喜びを感じる職業です。
最初から、原因不明の精神疾患の患者を更正させることは建前であり、本音はムリなのです。
それなのに、医療のフリをして、それっぽい演技をしている、実際は刑務官の仕事ですから、やりがいもへったくれもありませんね。
そして、殺人者は、絶望していつも自殺しようと考えています。
何を持って治療というのでしょうか?
いい加減に精神疾患の巨大な嘘が表に出ても良いと思います。
精神科病院は必要ですが、本来医療ではない、治安維持装置であるということを再認識しなければ、司法病棟も単なる一過性の政策医療で終わっていくだけでしょう。