第1日目 ( 2018年5月13日 ) トルコへ
< 大韓航空に乗って >
いよいよイスタンブールへ。
関空9時30分発の大韓航空に搭乗し、ソウルで乗り継ぐ。
いくつかあるトルコ行きのツアーのほとんどが、中東系の航空会社を使っている。
今回、このツアーを選んだ理由の一つは、イスタンブールへの往復が大韓航空だから。
中東系の飛行機でイスタンブールへ行く場合、往・復ともに深夜便になる。往復とも、というのはしんどい。
しかも、乗り継ぎが大変なのだ。中東の、例えば、ドバイ空港のロビーで、夜明け前の数時間を過ごさねばならない。空港ロビーの椅子で仮眠をとるのは、若いバックパッカーの世界だ。
さらに、中東系の飛行機だと、午前中にイスタンブールに着いて、寝不足のまま観光バスに乗って、2日目の活動が始まる。元気な現役で休暇のとりにくい人には効率的だが、私の年齢ではそういう旅はできたら避けたい。
大韓航空は、朝、関空を出発して、仁川(インチョン)空港で2時間の乗り継ぎ、その日のうちに(現地時間19時40分に) イスタンブールの空港に着く。だから、第1日目は、ホテルで寝ることができる。
帰国便は夜行便だが、深夜に見知らぬ空港で、長時間、乗り換えのための時間を過ごすということはなく、イスタンブールから一気に飛んで、翌日の午後にソウルに着く。そして、夕方には関空に到着する。
もう一つ、大韓航空利用のツアーを選んだ小さな理由がある。
これまでヨーロッパ行きの航空機の旅を数多く経験したが、まず日本から北へ北へと航路を取り、あとは西へ西へ、延々とシベリアの凍土の上を飛ぶ。
一方、イスタンブールへ向かう場合は、中東系の飛行機であろうと、大韓航空であろうと、北上せず、ひたすら西へ西へと飛ぶ。だから、昼間の飛行機であれば、地図の上だけで知る本もののカスピ海や黒海を、上空から見ることができる … かもしれない。眼下に雲がなければの話だが。これはちょっとときめく!!
ただし、大韓航空に安心して搭乗するわけではない。最近、またまた、一族支配によるトラブルが報道された。仮にどんなに勉強がよくできて優秀な大学を出ていても (そうなのかどうかは知らないが)、ちやほやされて育った若い娘に、いきなり大組織のリーダーが務まるわけがない。
とにかく、機長以下従業員のモラール(志気)の低下が心配だ。何しろ航空機は、ちょっとしたミスで大惨事になる。
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< 仁川(インチョン)空港でWi-fi 通信に成功 >
大韓航空の客室乗務員は、韓国ドラマの宮廷女官の髪型を取り入れて統一し、中には宮廷ドラマから抜け出たような愛くるしい女性もいた。
乗り換えのため、仁川(インチョン)空港で、セキュリティ・フロアーに入る。そのとき、わがツアー一行のおっちゃん、おばちゃんたちは、私も含めて、慣れない自動チェックイン機の操作に手こずった。搭乗券を機械にかざすだけなのだが、なかなか上手くいかない。若い女性の空港係員がいらつき、まるで出来の悪い子どもに対するような態度で叱りとばされた。
近代的な機械を導入しても、未だに李氏朝鮮時代の、「官は上、民は下」という「お上」意識が根強いようだ。
そもそも、チケットをかざすだけなのになかなか上手くいかないのは、機械の性能に問題があると考えるべきで、もしコツを必要とするなら、それは機械の形をした「道具」に過ぎない。
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仁川空港で、Wi-fiを使ってインターネットを見ることに成功。
( 仁川空港ロビー )
事前にもらったツアーの案内に、旅行中ずっと利用する観光バスの中で、Wi-fiが利用できると書いてあった。海外でWi-fiを使ったことがなかったから、旅に出る前、使い方を研究した。
広いトルコをずっとバスで移動する。1日のほとんどがバスの中と言っていい。そのバスの中で、自分のスマホを操作して、無料で、トルコの天気予報も、日本のニュースも見ることができ、通信もできると思うと、閉塞した世界から解放されて外界に出たような気分になった。
翌日のバスの中では、添乗員のI氏から、もし万が一はぐれた場合にと、I氏の携帯電話の番号も教えてもらった。これも、ありがたい。
最近のツアーでは、ガイドレシーバーを持たされて、ガイドの説明をイヤホーンで聞く。お陰で、各国の観光客で賑わう観光地の雑踏の中でも、全員がはっきりと説明を聞きとることができるようになった。ところが、説明を聞きながら写真撮影に熱中して、ふと周りを見ると、声はすれども、ガイドも一行の皆さんも移動して、見当たらない!! ということがあった。声は、そばにいるように聞こえるのだが。これは慌てる。そういうことが、何度かあった。
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< 眼下にカスピ海、そして黒海を見る >
ソウルを13時40分発。西へ西へと、12時間の飛行だ。
途中、体がだるく、胸に圧迫感があり、脈拍を測ってみたら、ふだんと違う。運動した後でもないのに、こんなに脈拍が上がるのは初めてだ。それで、本も読まず、映画も見ず、できるだけ安静にして過ごした。
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飛行機は、厚い雲海の上の、強い光にあふれた青空のなかを飛んでいることが多い。窓から外を見ると、飛行機の下には白い雲海が様々な形を描きながらどこまでも広がっていて、大地の様子は見えない。
それでも、雲海がなくなって、地表の上空を、遥かに高く、ゆっくりと移動しているときもある。
中国の北部からモンゴルに入って、さらに西へ西へと飛ぶ。
やがてカザフスタンへ。
… 旅行に出るときには、いつもコンパクトな世界地図帳を持っている。地図上の自分の位置を確かめながら時を過ごして、無聊の慰めとする。
緑のない、荒涼とした、砂漠のような大地の上を、延々と飛んできた。
長い時間が過ぎ、やがて、アラル海からカスピ海に差し掛かる。このあたり、雲海はまったくない。
スカイブルーの水と、砂糖菓子のように白い世界が広がった。今までの荒涼とした大地と比べて、美しい。実際に、そこに行けば、やはり荒涼とした死の世界かも知れないが、上空から見る世界は、本当に綺麗だ。
何だろう?? 塩だろうか⁇
帰国してから、すこし調べてみた。
調べたが、よくわからない。しかし、なかなか興味深いものがあったので、少し書きとめておく。
太古、2つの大陸があり、大陸と大陸の間に大海があった。その海は、チラス海と名付けられている。
550万年前、大陸移動により、その海は陸地の中に閉じ込められた。その名残が、地中海、黒海、カスピ海、アラル海などである。
黒海は海だ。ボスポラス海峡、マルマラ海、そしてダータネルス海峡を通って、地中海、大西洋につながっている。
一方、カスピ海やアラル海は湖だ。ただ、昔、海であった名残をとどめて、塩湖である。
アラル海は世界第4位の大きな湖だった(日本の東北地方ぐらい)が、1950年ごろからソヴィエット政府によって始められた「科学的」な自然改造計画によって、半世紀で1/5に縮小した(福島県ぐらい)。その過程で、塩分濃度が異常に濃くなり、魚の棲まない湖になって、このあたりの中心的な産業であった漁業と魚肉の加工業は壊滅した。干上がった湖底からは砂嵐が舞い上がり、緑も消え、生態系が破壊されて、砂漠化した。人間の健康への被害も生じている。「20世紀最大の環境破壊」と言われているらしい。
カスピ海は世界最大の湖で、我が国の国土面積よりわずかに狭い。塩分濃度は、大河ヴォルガ川が流れ込む北部で薄く、流入河川の少ない南部で濃いが、平均すると海水の1/3である。
運河で黒海とつながり、また、他の河川や運河を経由して、ヨーロッパの北海まで貨物船は行く。
カスピ海の東のカザフスタン側には、白い岩山と白い奇岩の大地が広がっている。
これは、太古の海・チラス海で発生した円石藻という植物プランクトンが大量に海底に蓄積した後、隆起して、雨や風の侵食を受け、白い岩の層となったものだ。この白い岩の層は白亜(チョーク)と呼ばれる。「白亜紀」の白亜だ。
その続きになるカスピ海の東海岸付近は、荒涼として干上がり、塩で覆われている。春になり、その干上がった塩湖に雨が降り、薄く水が張ると、湖は鏡のように空の青を写して、美しいそうだ。
上の飛行機からの写真が、そういう現象による景色を空から写し撮ったものかどうかは、わからない。
日本の小さな旅行社が、この白亜の山や奇岩、そしてそれに続く鏡のような塩湖を見る旅行を企画している。やがて、南米のウユニ塩湖のように、観光化されるのかもしれない。しかし、今は、ガイド付きの「冒険旅行」に近い。
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カスピ海を過ぎると、ジョージアという緑豊かな国の上空となり、やがて黒海が見えてきた。
黒海の周辺は、1万m近い上空からも、緑が豊かであることがわかる。黒海の北側はウクライナだ。学校で、穀倉地帯と習った。
トルコはジョージアの西、黒海の南岸から南に広がる国だ。
飛行機は南岸沿いに、イスタンブールへ向かって飛んだ。トルコも緑豊かな国らしい。
※ 飛行機の窓が強い紫外線除けのガラスのため、かなり青っぽく写っている。