ドナウ川の白い雲

ヨーロッパの旅の思い出、国内旅行で感じたこと、読んだ本の感想、日々の所感や意見など。

Fisterra岬に立ち、大西洋を望む … 冬のサンチャゴ・デ・コンポステーラ紀行 2

2013年01月17日 | 西欧旅行…サンチャゴ・デ・コンポステーラ

              ( 大西洋を見た!! )

 冬のサンチャゴ・デ・コンポステーラへの旅を考えたとき、そこまで行くなら、ぜひ行ってみたいと思う所があった。

 フィニステレ岬。… 「陸の終わり」 を意味するそうだ。つまり、ユーラシア大陸の終わりの岬である。その先は大西洋が広がるのみ。

 その岬は、サンチャゴ・デ・コンポステーラから西へ90キロの地にある。

 聖ヤコブの大聖堂までたどり着き、歓喜の礼拝を終えた巡礼者たちは、さらにこの岬を目指して旅を続ける。そして、ついに到達した陸の終わる崖の上で、大西洋の波濤を見下ろしながら、旅の間着ていた服やブーツを燃やして、自らの旅を終わらせるのである。

 フィニステレ岬に立ち、ユーラシア大陸の果てを見たい、という思いに駆られて、そこへ行く手立てを調べたが、 サンチャゴ・デ・コンポステーラからは路線バス以外に交通手段はなく、バスを降りてからも、丘に向かってかなり歩くと知り、断念した。「陸の終わり」は、あまりに遠い …。

 それで、サンチャゴ・デ・コンポステーラの2日目も、このケルト的な雰囲気をもつ町の中で過ごすつもりでいたが、念のため、五つ星ホテルのフロントに行って、フィニステレまでタクシーが行ってくれるかどうか、行ってくれるとして、どれくらいの時間と料金がかかるか、聞いてみた。

 フロントの青年は即座に、「とても良い人 (運転手) がいますよ」と言って、電話で問い合わせてくれた。

   翌朝から夕方まで、1日かけて案内して、225ユーロだと言う。それならOKだ。すぐに頼んでもらった。こんなラッキーなことはない

          ★

< 第3日 ── 巡礼が旅を終えるフィステーラ岬ヘ >   

   朝、ホテルのドアを開けると、天が裂けたような雨。広いオブラドイロ広場は雨に霞んで、石畳の上を雨水が流れ、浅い池のようになっていた。

 だが、しばらくすると、小雨になった。

 この日は、小雨になったり、霧雨になったり、横なぐりの風とともに降る強い雨となったり、雨がやんで少し青空がのぞいたりする1日だった。

 イベリア半島の大西洋に臨むガリシア地方は、海洋性の気候で、雨が多く、冬の冷え込みはゆるく、太陽が照り付けて40度を超す赤茶けて乾燥したイベリア半島のイメージと異なり、緑も豊かであると書かれていた。 

 

         ( 雨のカテドラル )

                 ★

< ガイド兼ドライバーの Jose さん >  

 タクシーの運転手の Jose さんは、初老の、朴訥で、いかにも誠実一筋に生きてきたような感じの人で、体型も人柄も年齢も、サッカーの日本代表監督アルベルト・ザッケローニ (ザック) に似ていると思った。

   タクシーの運転手というよりは、ガイド兼ドライバーという感じで、よく勉強していて、ガイドとしてもプロフェショナルだ。

 もちろん、スペイン語である。ただ、身振り・手振りに加えて、紙に絵をかいたり、スマホを検索して写真を示してくれたり、あらゆる努力をして、本当に丁寧に、一生懸命、説明してくれ、その人柄を感じた

 途中、風光明媚な港町に立ち寄って、貝の養殖や、採取する船の構造などを説明してくれた。

  (養殖の貝を採取する小型の船)

  「リアス式海岸」という言葉の出自はこのあたりだと、旅行に出る前に、何かで読んだ。「リアス」とはガリシア語で 「入り江 (リア) 」の複数形。当然、漁業が盛んなのだ。

              ★

< 村の墓地教会 >

   ガリシア地方の民俗的な、「村の教会」にも立ち寄った。

 それはいかにも古びた石造りの、塔のある教会で、教会の横の庭には墓石が並び、村の墓所として整えられていた。

 日本とはやや趣を異とするキリスト教式の墓石の群れを見ていると、世界の片隅で、名もなく、静かに生きて死んでいった人々の、人の一生ということに、ぼんやりと想いを馳せてしまう。

饗庭孝男『石と光の思想』から

 私がロマネスク建築の教会をはじめて見たのは、ピレネーの麓にあるヴァルカブレェールの「サン・ジュスト教会」であった。それは … 寒村の、とうもろこし畑のひろびろした中に、青空をくっきりと切った糸杉にかこまれた墓地教会である。柵をとおして墓地に入ると、白い十字架や墓石が崩れかかり、蔦がそれにからみ、…

   (墓石のある村の教会)

 教会に入ると、大きな平面の台の上に、人形や小屋や羊が配置され、イエス降誕の場面の飾りつけが進められていた。おそらく、何日もかけて、作られていくのだろう。

 そのような風習は日本から遠いが、純朴な田舎の「景色」という点では同じである。

 村を少し歩くと、奇妙な建物があった。

 読書百遍ではないが、Joseさんのスペイン語の説明を一生懸命聞いていると、少しわかってくるから不思議だ。

 これは、1世紀以上も前の穀物倉庫で、風が通るように造られている。高床式になっているのは、ネズミの害から守るためだ。

              ( 穀物倉庫 )

        ★

< ガリシア地方のこと >

 山の中の一筋の道を走り、峠を越え、野を走り、集落の横を通り、海岸に出てカーブの連続する漁村の家々を見ながら走った。

 赤い屋根に、白、もしくはイエローの壁。

 漁村に見えるが、都会に住む人たちの別荘地でもあるようだ。

    

               ( 別荘地 )

 ふと、疑問に思う。今、向かっている岬のことである。『地球の歩き方』では、「フィニステレ (Finisterre)」。ところが、ホテルでもらった地図では、「 Fisterra 」だ。

 後部座席で、「あれっ、何でや??」と、二つの単語を繰り返しつぶやいていたら、気づいてJoseさんが説明してくれた。

 言葉はよくわからないのだが、その説明は、( 間違っているかもしれないが )、多分、こんな内容だ。

 イスパニアは、実は4つの国でできている。

   その一つは、イスパニア? スペインの大きな部分を占め、マドリッドを首都とするカスティーリアと呼ばれる土地がその中心。

 もう一つは、バルセロナを中心とする、フランスに近いカタルーニア地方。言語が違う。( スペインの中では経済的に豊かで、独立したがっていると聞いていた )。

 もう一つは北東部のバスク。( 最近、おさまってきたが、かなり過激な独立運動をしてきた。フランシスコ・ザビエルの故郷 )。

 そして、もう一つが、今、訪れているガリシヤ地方。言語も違うのだそうだ。

 『地球の歩き方』 の 「フィニステレ (Finisterre)」 は、カスティーリア語。ホテルでもらった地図の「Fisterra」がガリシア語。(帰国して調べたら、ガリシア語も公用語として日常使われ、学校では両方の言葉が教えられているようだ)。

 ガリシヤ地方 … ポルトガルに接して、その北に位置する。大西洋に臨んで、スペインの中ではごくごく小さな、ローカルな地方に過ぎない。だが、イスパニアとは違う国なのだと Jose さんは言う。

 ガリシアは、スペインの一つの州である。だが、住民の意識は違う。一昨日、飛行機で到着した港湾都市ビーゴが、ガリシア州の最大の都市で、人口は27万人。州都は、サンチャゴ・デ・コンポステーラで、人口は8万人。

 翌朝、レオンに行くために、サンチャゴ・デ・コンポステーラの鉄道駅に行った。ホームの掲示を見たら、上下に二つの駅名が書いてあった。どちらかがカスティーリア語で、どちらかがガリシヤ語だ。

 「 Fisterra の岬は近いよ。ちょっと大西洋の浜辺に降りてみようか」と Joseさん。

 車を降り、浜辺へと向かう。海の方から、草をちぎるような強風が吹き、角を曲がると、突然、大西洋が目の前に現れた。

 荒々しい

 海が盛り上がって、押し寄せてくるように見え、恐ろしいほどだった。

    ( 大西洋の海岸 )   

        ★

< Fisterra岬に立ち、大西洋を望む >

 Fisterra岬は、海抜238mの山頂である。

 車はヘアピンカーブを登っていく。

 道路わきに巡礼者の像があった。

 やがて前方に灯台の家屋が見え、車をおいて、歩いた。

 曇天ではあるが、雨は上がり、灯台の向こうに大西洋が広がった。 

  ( 灯台の向こうに大西洋 )

 ここは、「陸終わる地」。遥々と巡礼の旅をしてきた人たちの終着点だ。

      ( 大西洋に向かって建つ十字架 )

 ここまでやって来た巡礼者が、長い旅の間、着ていた衣服を燃やした跡が、岩の上に残っている。 

 そのとき、厚い雲が切れ、青空が覗き、広がった。

 空も、海も、美しいブルーに変身した。 

 

 これが大西洋だ。 遥々と来た甲斐があった。 

 ただ、感動し、ユーラシア大陸の東の果てからやって来た異邦人を、心を込めて案内してくれた、初老のタクシーの運転手 Joseさんに感謝した。

       ★

  ( 帰途、山中で出会った巡礼者 )

 夜、食事に行き、少しサンチャゴ・デ・コンポステーラの街を歩いた。

 ローカルな宗教都市は、異教徒の目にも、鄙びて、どこかなつかしく感じられた。

(ライトアップされたカテドラルの塔)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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