<旅に出よう>
この夏の暑さはこたえた。連日、35度を超えた。NHKの朝のお天気番組は、高齢者は外出せず熱中症にかからぬようクーラーを効かせた室内で過ごしてくださいと呼びかけた。
だが思うに、高齢者の健康にとって、クーラーの効いた家の中に閉じこもる日々が本当に良いのかどうか?? コロナの3年間がそうだったように、毎日、家に閉じこもってテレビばかり見ていれば、体力も気力もどんどん衰えていき、高齢者の場合はもう元に戻らない。気持ちもいつの間にか鬱になっていく。
それより、旅に出よう。
どこに行こうかと、お風呂の中やクリニックの順番待ちの間にあれこれ思い巡らすのも楽しい。日本国中が猛暑だが、多少とも涼しい所がいい。
よし、ここへと決めてあれこれ調べ計画を立て始めると、心も前向きになり頭も活性化する。
いよいよ家を出れば、駅へ向かうための移動も乗換駅でのホームの移動も、それだけで家にいるより運動になる。乗り物の中だってクーラーは効いている。
7、8月を何とか耐え、オフシーズンに入った9月早々。若い頃に何度も訪ねて、勝手知ったる信州へと向かった。夏は山登り、冬から早春にかけてはスキー、それに「四季」派の近代文学散歩など、信州は第二の故郷のようなものだ …… 。
今回は大糸線沿線の白馬(ハクバ)村へ行く。
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<旅の時間>
(大糸線の白馬駅)
新大阪から名古屋まで新幹線で2駅。187キロを停車時間を含めてわずか50分。
名古屋で特急「しなの」に乗り換えると、やがて車窓に木曽谷の風景を眺めるようになり、久しぶりに旅に出たと思う。
信濃国の第2の都市である松本まで名古屋から7駅。距離は新大阪~名古屋間とほぼ同じだが、時間は2時間少々かかる。遠くへ行く旅でも、これくらいの時間の感覚がいい。
松本で大糸線に乗り換える。
大糸線は松本を始発駅とし、白馬(シロウマ)岳(2932m)を盟主とする後立山(ウシロタテヤマ)連峰の東麓を北へ北へ、県境を越えて新潟県に入り、日本海の町・糸魚川まで行く。その途中の白馬駅までは約60キロ。たいした距離ではないが、進む速度は遅い。途中28駅に停車し1時間40分もかかる。
始発駅の松本では、学校帰りの高校生や買い物籠を持った年配の女の人らで2両しかない車内は混み合った。
しかしそれも松本を出て25分ほど。碌山美術館のある穂高駅に着く頃には日常性を感じさせる多くの乗客は降りてしまった。ゆとりのできた車内は旅人たちばかりになる。流れていく山里の風景や白い雲を眺めていると、大和国からすっかり遠くなったと感じた。
進む速度は遅いが、それでも刻々と目的地へ向かって移動する。移動は変化である。家にいる時間とは違う。
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<白馬連山を望む>
15時50分。白馬の駅前にホテルの迎えの車が待っていた。
駅からホテルまで歩けない距離ではないが、荷物もあるし、初めての道だから、見知らぬ何人かと同乗した。
この辺りでは大きなホテルの玄関周辺は花いっぱいだった。湧き水も沸いている。白馬連山からの水であろう。
(ホテルの玄関)
フロントでキーをもらい、エレベータで上階に上がり、部屋のカーテンを開けると、窓の外に白馬連山が望まれた。これが信州!!。
あの尾根の向こうは富山県になる。
(白馬連山)
今回の旅は、もちろん若いころのような山登りはしない。ゴンドラリフトに乗って行くトレッキングもしない。
居ながらにして白馬連山を望むことができるホテルに泊まりたい。これが今回の旅の第一の目的。横着な希望だが、そういうホテルをネットで探した。
到着早々に雪をいただいた3千m級の山並みを見ることができて幸運だった。
2千m、3千m級の高山の上はたえず天候が変化し、ガスがかかり雨も降る。麓は晴れていても、下から見上げれば山嶺は雲の中。だから、明日も明後日もこのホテルに宿泊するが、このような壮麗な白馬連山の姿を見ることができるかどうかわからない。
一期一会である。
(続く)
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