ドナウ川の白い雲

ヨーロッパの旅の思い出、国内旅行で感じたこと、読んだ本の感想、日々の所感や意見など。

ストラスブールの大聖堂……フランス・ゴシック大聖堂をめぐる旅4

2013年12月27日 | 西欧旅行…フランス・ゴシックの旅

       ( ストラスブール大聖堂南側 )

 旧市街の中心に印刷術のグーテンベルグの彫像のある広場がある。グーテンベルグはドイツのマインツに生まれ育ったが、のちストラスブールに移り住んだ。

 その広場の東側の通りを北に向かって立つと、大聖堂の正面(ファーサード)が見える。街はクリスマスに向けての飾り付けが始まっている。

 大聖堂の塔の高さは142メートルとか。通りから見えるのは一部だけだ。しんと冷え込む。

  この大聖堂の特徴の一つは、ヴォージュの山から切り出した赤色砂岩で造られていて、壁面が赤っぽいことだ。

 

 (大聖堂西ファーサード)

       ( 木組みの家と右手に大聖堂 )

 キリスト教の聖堂の床平面の形は十字架の形で、キリストが両手を広げて立った姿をかたどっている。

 正面入り口 (ファーサード) はキリストの足の部分 (衣の裾の部分) になり、方位は西側になる。

 正面入り口から入って、身廊を奥へ(東へ)進むと、一番奥の半円部分がキリストの頭にあたり、祭壇がある。

 両腕の部分を、左袖廊(南側)、右袖廊(北側)と言い、ふつう、ここにも入り口がある。

  (西正面扉口)

 西正面に立つと、彫像の群れのおびただしさに驚くが、正面扉口だけでなく、ストラスブール大聖堂の外壁は無数の彫刻でおおわれている。

 ゴシック大聖堂の彫像や透かし彫りは、石を切り出し、柱や壁として積み上げていったあと、柱や壁の石に装飾として彫られたものだそうだ。先に彫刻して、その石を積み上げたのではない。それが、142メートルの尖塔の先まで、レースのように彫られている。

 中央の柱には、聖母マリア像。

 我々の世代が学んだヨーロッパ史では、ギリシャ・ローマの文明が再発見されるルネッサンスまで、ヨーロッパは「暗黒の中世」だった。

 しかし、西ヨーロッパは、民族の大移動とローマ帝国の崩壊という大激動の時代を経て、混乱と停滞の長く暗い時代を過ごすが、実は10世紀ごろから社会に大変化が起きる。農業の生産性が向上し、ゆとりが生まれ、手工業や商業が復活し、都市が興ってくる。

 財が生まれ、各地の修道院にも土地や財が寄進され、修道院は競って、これまでのみすぼらしい教会を壊し、かつてのローマ帝国時代の建築物のような聖堂を建てていった。

 10世紀末に起こり、11世紀、12世紀の前半にかけて流行したこの建築様式を、ロマネスク様式と呼ぶ。

 修道院であるからいずれも人里離れた田舎にある。今に残るロマネスクの聖堂は、石造りの素朴な重々しさ、ときに奇怪な形をした素朴な彫刻群などもあって、どこかなつかしく、日本人の感性に合う。

 ところが、12世紀から13世紀になると、都市に富が集まり、各地域の中心都市に司教座が置かれ、ロマネスクの聖堂を遥かに超える大聖堂が造られていった。天に向かって伸びる空間、その空間の壁を埋める美しいステンドグラスの窓、この二つを特徴とするゴシック様式の大聖堂の誕生である。

 時を同じくして聖母マリア崇拝が興った。

 それまでも聖母マリアは、修道の模範として尊崇の対象であったのだが、このころから神への仲介者 (本来、イエス・キリストがその役割を担って十字架に架けられたのだが) として、神のように都市の市民階級に受け入れられていったのである。 

 ゆえに、ゴシック大聖堂は、ほとんどすべてが聖母マリアに捧げられた聖堂である。パリのノートル・ダム大聖堂は有名だが、ストラスブールも、ランスも、アミアンも、ノートル・ダム大聖堂。ノートル・ダムとは、われらの貴婦人の意。

    ( 大聖堂の身廊 )

 

  ( 燭台とステンドグラス )

        ★

 大聖堂を見学した後、すぐ近くにあるロアン宮(司教の宮殿)と、大聖堂美術館を見学した。

 ロアン宮はまさに王侯貴族の宮殿で、この時代の司教がどのような存在であったかが推察される。

 大聖堂美術館は、大聖堂から移された中世の古い彫刻や美術品が展示され、興味深かった。

   (司教の館・ロアン宮)

        ★

 夜、もう一度、大聖堂へ行った。 ライトアップされた大聖堂は、金色に輝いていた。この輝きが、ストラスブール市民の誇りなのであろう。

  (ライトアップされた大聖堂 )

 中はミサの最中であった。今日は土曜日だ。

  ( 土曜日夜のミサ )

      (続く)

※  なお、本稿の大聖堂に関する知識は、

馬杉宗夫 『大聖堂のコスモロジー』 (講談社現代新書)

紅山雪夫 『ヨーロッパものしり紀行編』 (新潮文庫)

の2冊による。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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