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和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

あとがき。

2008-01-19 21:36:03 | いつもの日記。
久々に、短編小説を書いてみました。
ふと思いついたもので。
そして、こういう作風も久しぶりです。
最近色々と方向を模索しながら、勉強のためみたいな感じで
書いていましたが、今回は好き勝手に書いてみました。
推敲もしてません。誤字脱字は1回だけ直したけど。

さて、久々の不条理小説、如何だったでしょうか。
最近の訓練の成果がコッチ方面にも現れていてくれればな、
と思っている次第です。
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「電波塔建設中」

2008-01-19 21:28:09 | 小説。
「電波塔 建設中」

職場ビルの隣にある空き地には、そんな看板が掲げられていた。
電波塔。
ハテ。電波塔とは一体何だろう。
恥ずかしながら浅学な僕には、それが意味するところが分からなかった。
取り敢えず、今は会社に遅れないことが重要である。
僕は急いでビルへ入っていった。

デスクに乗ったデスクトップPCの電源を入れながら、周囲の社員に挨拶をする。
いつも通り、何も変わらない朝だ。
「なぁ、お前、隣の空き地の看板、見たか?」
隣の席の同僚が、そんなことを言い出す。
ああ、さっきの看板のことか。
見たよ、と適当に答えておくことにする。こいつの話は何かと面倒なのだ。
「電波塔だってよ。全く恐ろしいぜ、なぁ」
うん、と言ったか、ああ、と言ったか覚えていない。ともかく、さらりと流した。
が、心中では疑問でいっぱいだった。
『恐ろしい』。電波塔とは、恐ろしいものなのだろうか。
恥を忍んで、仲の良い事務の女性に聞いてみた。
ああ、あの電波塔ね。政府が国民を操るための電波を流すのだそうよ。怖いわぁ。
――ということだそうだ。
電波塔とはそれほどのものであったか。
そしてわが国はそれほどの技術力を持ち合わせていたのか。
とは、思わなかった。
代わりに、何だか嘘臭いな、と思った。

電波塔建設は、順調に進んだ。
バリケードで囲まれた空き地にはブルーシートが張られ、隙間から鉄骨が見えた。
一方、職場は実に慌しかった。みんな、日々完成に近づく電波塔に怯えている。
誰かが言った。
抗議運動をやろう。みんなで結束するんだ。
わっ、と歓声が上がった。
僕は一人、その空気に乗り損ねて、冷めた目でそれを眺めるばかりだった。
電波塔より、今製造しているプログラムの結合検査の方が余程心配だった。
そんな僕を見て、隣の同僚は怪訝な目でこう言った。
「お前、何でそんな平気な顔してんだ?もしかして、電波塔に操られてるのか?」

電波塔完成まで、残りわずかとなった。
今は青い鉄塔が、赤く塗り上げられれば完成だ。
職場はもう、仕事どころではなかった。
仲の良い事務の女性は、常にゴム製の耳栓をしていた。それで電波を防げるらしい。
隣の同僚は、頭部を包帯でぐるぐる巻きにしている。まるでターバンだ。
「知らないのか?これで洗脳電波を防御できるんだぜ」
要は先の耳栓と同じらしい。
やっぱり、僕には今ひとつ理解ができなかった。
こんな状態では、仕事にならない。案の定、結合検査の進捗も最悪だ。
というか、もはや誰もそんなことは気にしていないように見える。
じゃあ仕事になんか来なければいいのに、とは、何となく言えなかった。

ついに電波塔完成の前日となった。
職場は、凄まじい緊張感に支配されている。息苦しい。
「みんな、突撃だ!あの恐ろしい電波塔を破壊するのだ!」
「おお!」
全従業員の雄たけびが響いた。
みんな、ゴムの耳栓だったり包帯のターバンだったり勾玉のネックレスだったり
薄緑のセーターだったりウサギのマスコットが付いたヘアピンだったり、
それぞれが信じる防御グッズを身に纏っている。
実に異様で、実に不快だった。
「何してるんだ、お前も行くぞ」
隣の席の同僚が声を掛ける。
僕はいいよ、とはにかんで答えた。
――瞬間、同僚の目の色が変わった。

「そうか、お前はやっぱり、既に電波塔に操られているんだな!」

その声で、室内は騒然となった。
僕を取り囲み、社員全員が非難する。
一丸となって戦うべきなのに。政府の言いなりになってはいけないのに。
操られてしまうのに。操られてしまうのに。操られてしまうのに。
狂ってる狂ってる狂ってる狂ってる狂ってる狂ってる狂ってる狂ってる狂ってる!
その壮絶な怒号に、僕は唖然とするばかりだ。
ぐい、と両腕を掴まれた。左に隣の席の同僚、右に仲の良い事務の女性。
僕は二人に抱えられる格好になった。
そしてそのまま、デスクの上に立たされる。
完全に拘束され、まるで磔だ。
高い位置から見下ろすと、恐ろしい形相でこちらを睨むみんながいた。
――それぞれの手には、今日の破壊に使うための武器が握られている。
ああ、僕は殺されてしまうのだな。
次の瞬間、幾多の刃が、鈍器が、僕を襲った。
遠くなる意識の中で、まだ電波は発射されてもいないのにな、と不思議に思った。
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