都市伝説には、対策となる噂がセットになっていることが多い。
口裂け女にはポマードが効く。
「紫の鏡」には「白い水晶」。
更に更に、ヴァンパイアにはニンニク、狼男には銀の銃弾、ミイラ男には炎。
どんな強力なロアであっても、弱点を突けば勝てるのである。
・・・問題は、この忍び寄る悪魔にもちゃんと対処法があるのかという点。
さすがにこの状態のままでは、まともに動けやしない。
まさか、「そこまで考えてないっすよ」とか言わないよね、久我さん?
と、ひとり悩んでいると。
「ちゃんとあるっすよ、対処法」
「ほほう。ちなみに、どんな?」
――僕はすかさず切り込んでみる。
「鏡に写ってる悪魔を、黒板消しで消すといいっす」
おお!さすがアホの子!
こんなにあっさり口を割ってくれるとは思わなかったぜ・・・。
「『語り部』として、お話に関して隠蔽したり虚偽申告したりしないのは当然っすよ・・・」
若干呆れられてしまった。反省。
っていうか。
「・・・よくも僕の思考を読んでくれたな」
しかも、さっきからちょくちょくと。
「目を見れば大方分かるっす。どうせボクのことをアホの子だと思ってるんすよね」
「全部バレとるー!」
「そ、そこは嘘でも否定して欲しかったっす・・・」
久我さんはもう少しで泣きそうだ。
このベクトルからトドメを刺すのは卑怯な気がするのでやめておくことにする。
「とにかくっ」
改めて、久我さんの宣戦布告。
「最後の勝負っす。屋上で待ってるっすよ?」
そして久我さんは、背後にある屋上へと続く階段へと走り去った。
「待て――って、ごめんハル君、一人で大丈夫?」
「ああ、大丈夫。すぐ追いかけるから、先に行ってて」
「らじゃー!」
良い笑顔で答えて、颯爽と駆け出す小麦。本当に僕のこと心配してたのか、あいつ。
しかし、屋上ねぇ。確か、施錠されてるはずなんだけど。
そこはあれか。副会長特権でどうにかしたのかな。
屋上、屋上、屋上・・・っと。いくつか、聞いたことのある噂もあるけど。
まぁ、ここで僕が考えても無駄なことだろう。
今はとにかく急いで小麦を追いかけることに専念する。
鏡に――当然、姿が写りそうな窓にも注意して、近くの教室から黒板消しを入手した。
恐る恐る鏡を覗き込むと、先ほどより少し近い位置に悪魔が立っている。
うあー、このじわじわ迫り来る感じは結構マジに怖いな。
僕は、慌てず騒がず鏡に写る悪魔を黒板消しでなぞる。
久我さんの言葉通り、悪魔は跡形もなく消え去った。
こんなに恐ろしい悪魔が黒板消しでなぞるだけで消える辺り、作者のセンスが光るね。
――よし。
「じゃあ、小麦を追いかけますかね」
ひとりにしておくとどこまでも暴走しかねないからな、あいつは。
僕は急ぎ屋上へと続く階段を駆け上がる。
1階から2階へ、2階から3階、そして4階――屋上はこの上だ。
最後の階段を見上げた、その先に。
「・・・小麦?」
「ハル君っ、ここ上っちゃダメっ!」
足首を不気味な手に掴まれた小麦が、階段の最上段で立ち尽くしていた。
「何だこれ!?」
「わっかんないっ!畜生、セコい時間稼ぎしやがってぇー!」
「足、大丈夫?痛くないのか?」
「痛くはないけど――気を抜くと、持って行かれそう」
「マジで!?」
それは、普通にマズいんじゃないだろうか。
くそっ、これが久我さんの切り札か?
・・・否、多分違うな。これはきっと、足止めに過ぎないだろう。
彼女は――屋上で、何かしらの準備をしているに違いない。
マキオのような、特殊な儀式が必要な召喚系のロアだろうか。
しかし・・・ここで素朴な疑問がひとつ。
「小麦っ、久我さんは、その手に掴まれたりしてなかったのか?」
「うん、なんか・・・一回この辺で足を止めてはいたけど。すぐに屋上に出て行っちゃった」
「ふむ・・・」
僕は、考える。
足を止めはしたわけだ。となると、その時に何か対策を打った・・・?
「何か、変なことしてなかったか?」
「変なこと?」
「何でも良い、足を踏み鳴らしたとか手を打ったとか――呪文を唱えたとか」
「あっ!」
最後の言葉に、小麦が反応する。
「分かった、呪文だ!ええと――確か」
「『十三階段、上り切った』!」
小麦の叫びに呼応するように、足首を掴む手が消えていく。
なるほど、久我さんは立ち止まった一瞬で解除の呪文を唱えたわけか。
しかし、この呪文のセンスは結構好きだな。『見上入道、見越した』みたいな。
これも彼女オリジナルのロアだろう。
やはり久我さん自体は嫌いじゃない――。
「よしっ、消えた!行くよ、ハル君っ!」
「おう。ってか、僕もそこまで上ったら呪文唱えなきゃな」
足首を掴まれると分かっていて階段を上るってのも、結構嫌なものである。
僕は意を決して駆け上がる。
1、2、3・・・なんでわざわざカウントしてるんだ。
6、7、8・・・無意識って怖い。
11、12――13。おお、本当に13段だ。
「『十三階段上り切った』っっ!」
「うおぅ、めっちゃ早口・・・」
足首掴まれる前に言ってやった。何とかなるもんだな。
「さあ、行くぞ」
ごまかすように言って、僕は普段施錠されているはずのドアを開く。
当然、難なくドアは開いて。
初めて目にする風景が、眼前に広がった。
「ようこそ――お待ちしていたっすよ」
だだっ広く、風の強い屋上。
一足早く到着していた久我さんが、恭しく一礼して僕らを迎える。
足元には、白い線で描かれた不可思議な模様。
大きな丸の中に沢山の小さな丸や三角、四角が入り混じった――所謂、魔法陣。
予想通り、ここで何かを召喚するつもりのようだ。
「準備万端、ってトコかい」
「はい、概ね予想通りのタイムだったっすよ、センパイ」
朗らかに笑う少女に、僕は寒気を覚える。
コイツの狙いは何だ。
一体何を考えているんだ。
正直、この手のタイプは苦手である。
頭が良くても、目的が見えないヤツ。趣味嗜好が分からないヤツ。喜怒哀楽が薄いヤツ。
そういうヤツは――ちょっとだけ、苦手だ。
「ちなみに、『十三階段』はどうやって撃退したんすか?」
「呪文で消したよ」
「ああ、そっちっすか」
「他に手があるとでも?」
「ええ、多分、神荻センパイクラスの『修正者』だったら直接攻撃で破壊できます」
「ちっ・・・またワケの分からない専門用語を」
「ちゃんと、教えてあげるっすよ――コイツを倒せたら」
魔法陣の中心に立つ久我さんが、ゆっくりと両手を挙げる。
一体何を――何を、召喚ぶ気だ?
「ふふん。御託はいらないわっ。今度こそ、もっとマジなロアを出しなさい?」
「余裕っすね、神荻センパイ。言われなくとも、コイツはボクの持つ最強の切り札っす」
「それは楽しみだわ。退屈させたら許さないんだから」
小麦は、心底楽しそうな笑みを浮かべる。
対する久我さんも、釣られるかのように笑う。
そして、天に向けた両手をゆっくりと旋回させ。
その呪文を、口にする。
「ベントラー、ベントラー、ベントラー」
――嘘だろ!?
その呪文は、あまりにも、有名な。
間違いなく、アレを召喚ぶための――!
僕はすぐさま空を見上げる。
既に日も暮れ、星が瞬く夜空の中心。
そこに。
銀色の巨大な円盤が。
「・・・UFO!?」
僕の視線を辿った小麦が、驚嘆の声を上げた。
「はい、UFOっす」
久我さんは、両手を高く掲げたまま誇らしげに語る。
「白のチョークで魔法陣を描き、その中心で『ベントラー』と3回叫ぶ――これがUFO召喚の儀式!
ボク流のアレンジを加えてるから、世界的に有名なアレと比べれば見劣りするっすけど。
でも、だからこそ強い部分もあるっすよ。
何せコイツは、召喚者の言うことを聞いてくれるUFOっすから!」
何だそれは!?くそう、そんなの何でもアリじゃないか!
「召喚者・久我描が命じるっす!神荻センパイたちをやっつけろ!」
次の瞬間、その幼稚な命令に反応するかのように、UFOが赤く発光し。
――こちらへと突撃してくる!
「やっべえな、オイ!」
「ハル君、こっちっ!」
小麦に腕を掴まれ、引きずられるようにその場から逃げ出す。
「ちなみに、コイツに対処法はないっすから。直接攻撃で撃退するしかないっす」
「不親切すぎるだろ!」
緊急回避で地面を転がりつつも、ツッコミは忘れない僕だった。
「ほらほら、そんなこと言ってるヒマなんかないっすよ?」
見上げると、上空へ舞い戻ったUFOが有り得ない挙動で再度こちらへ向かってくるところだった。
小麦に導かれ、それを再び回避する。
しかし、すぐさまUFOは進行方向を変えて――。
畜生、本当に何でもアリだなこいつ!?
「うーん、向かってくるところを武器で打ち返すとか・・・ダメかな?」
小麦が右手に握るリコーダーを見ながら呟く。
「ちょっとリスキーかな。玉砕覚悟みたいで、僕はオススメしない。いっそ――」
僕は、もうひとつの策を推す。
「――そうか、さっきの要領だね?」
「そう。イケそうか?」
「出力アップすればイケるっしょ!」
「そんなこと、できるのか?」
「うん。コツは掴んだからね。次は――多分、スゴいよ?」
あっさりと、言ってのけやがった。
コイツは本当にどうなってるんだろうね?
「じゃあ、次のタイミングだ」
「おーけぃ!」
向かい来る巨大な赤いUFOを、小麦は軽やかに――僕は無様に回避して。
小麦は、その瞬間に全てを賭ける。
「――く、ら、えぇぇぇッッ!」
口裂け女にはポマードが効く。
「紫の鏡」には「白い水晶」。
更に更に、ヴァンパイアにはニンニク、狼男には銀の銃弾、ミイラ男には炎。
どんな強力なロアであっても、弱点を突けば勝てるのである。
・・・問題は、この忍び寄る悪魔にもちゃんと対処法があるのかという点。
さすがにこの状態のままでは、まともに動けやしない。
まさか、「そこまで考えてないっすよ」とか言わないよね、久我さん?
と、ひとり悩んでいると。
「ちゃんとあるっすよ、対処法」
「ほほう。ちなみに、どんな?」
――僕はすかさず切り込んでみる。
「鏡に写ってる悪魔を、黒板消しで消すといいっす」
おお!さすがアホの子!
こんなにあっさり口を割ってくれるとは思わなかったぜ・・・。
「『語り部』として、お話に関して隠蔽したり虚偽申告したりしないのは当然っすよ・・・」
若干呆れられてしまった。反省。
っていうか。
「・・・よくも僕の思考を読んでくれたな」
しかも、さっきからちょくちょくと。
「目を見れば大方分かるっす。どうせボクのことをアホの子だと思ってるんすよね」
「全部バレとるー!」
「そ、そこは嘘でも否定して欲しかったっす・・・」
久我さんはもう少しで泣きそうだ。
このベクトルからトドメを刺すのは卑怯な気がするのでやめておくことにする。
「とにかくっ」
改めて、久我さんの宣戦布告。
「最後の勝負っす。屋上で待ってるっすよ?」
そして久我さんは、背後にある屋上へと続く階段へと走り去った。
「待て――って、ごめんハル君、一人で大丈夫?」
「ああ、大丈夫。すぐ追いかけるから、先に行ってて」
「らじゃー!」
良い笑顔で答えて、颯爽と駆け出す小麦。本当に僕のこと心配してたのか、あいつ。
しかし、屋上ねぇ。確か、施錠されてるはずなんだけど。
そこはあれか。副会長特権でどうにかしたのかな。
屋上、屋上、屋上・・・っと。いくつか、聞いたことのある噂もあるけど。
まぁ、ここで僕が考えても無駄なことだろう。
今はとにかく急いで小麦を追いかけることに専念する。
鏡に――当然、姿が写りそうな窓にも注意して、近くの教室から黒板消しを入手した。
恐る恐る鏡を覗き込むと、先ほどより少し近い位置に悪魔が立っている。
うあー、このじわじわ迫り来る感じは結構マジに怖いな。
僕は、慌てず騒がず鏡に写る悪魔を黒板消しでなぞる。
久我さんの言葉通り、悪魔は跡形もなく消え去った。
こんなに恐ろしい悪魔が黒板消しでなぞるだけで消える辺り、作者のセンスが光るね。
――よし。
「じゃあ、小麦を追いかけますかね」
ひとりにしておくとどこまでも暴走しかねないからな、あいつは。
僕は急ぎ屋上へと続く階段を駆け上がる。
1階から2階へ、2階から3階、そして4階――屋上はこの上だ。
最後の階段を見上げた、その先に。
「・・・小麦?」
「ハル君っ、ここ上っちゃダメっ!」
足首を不気味な手に掴まれた小麦が、階段の最上段で立ち尽くしていた。
「何だこれ!?」
「わっかんないっ!畜生、セコい時間稼ぎしやがってぇー!」
「足、大丈夫?痛くないのか?」
「痛くはないけど――気を抜くと、持って行かれそう」
「マジで!?」
それは、普通にマズいんじゃないだろうか。
くそっ、これが久我さんの切り札か?
・・・否、多分違うな。これはきっと、足止めに過ぎないだろう。
彼女は――屋上で、何かしらの準備をしているに違いない。
マキオのような、特殊な儀式が必要な召喚系のロアだろうか。
しかし・・・ここで素朴な疑問がひとつ。
「小麦っ、久我さんは、その手に掴まれたりしてなかったのか?」
「うん、なんか・・・一回この辺で足を止めてはいたけど。すぐに屋上に出て行っちゃった」
「ふむ・・・」
僕は、考える。
足を止めはしたわけだ。となると、その時に何か対策を打った・・・?
「何か、変なことしてなかったか?」
「変なこと?」
「何でも良い、足を踏み鳴らしたとか手を打ったとか――呪文を唱えたとか」
「あっ!」
最後の言葉に、小麦が反応する。
「分かった、呪文だ!ええと――確か」
「『十三階段、上り切った』!」
小麦の叫びに呼応するように、足首を掴む手が消えていく。
なるほど、久我さんは立ち止まった一瞬で解除の呪文を唱えたわけか。
しかし、この呪文のセンスは結構好きだな。『見上入道、見越した』みたいな。
これも彼女オリジナルのロアだろう。
やはり久我さん自体は嫌いじゃない――。
「よしっ、消えた!行くよ、ハル君っ!」
「おう。ってか、僕もそこまで上ったら呪文唱えなきゃな」
足首を掴まれると分かっていて階段を上るってのも、結構嫌なものである。
僕は意を決して駆け上がる。
1、2、3・・・なんでわざわざカウントしてるんだ。
6、7、8・・・無意識って怖い。
11、12――13。おお、本当に13段だ。
「『十三階段上り切った』っっ!」
「うおぅ、めっちゃ早口・・・」
足首掴まれる前に言ってやった。何とかなるもんだな。
「さあ、行くぞ」
ごまかすように言って、僕は普段施錠されているはずのドアを開く。
当然、難なくドアは開いて。
初めて目にする風景が、眼前に広がった。
「ようこそ――お待ちしていたっすよ」
だだっ広く、風の強い屋上。
一足早く到着していた久我さんが、恭しく一礼して僕らを迎える。
足元には、白い線で描かれた不可思議な模様。
大きな丸の中に沢山の小さな丸や三角、四角が入り混じった――所謂、魔法陣。
予想通り、ここで何かを召喚するつもりのようだ。
「準備万端、ってトコかい」
「はい、概ね予想通りのタイムだったっすよ、センパイ」
朗らかに笑う少女に、僕は寒気を覚える。
コイツの狙いは何だ。
一体何を考えているんだ。
正直、この手のタイプは苦手である。
頭が良くても、目的が見えないヤツ。趣味嗜好が分からないヤツ。喜怒哀楽が薄いヤツ。
そういうヤツは――ちょっとだけ、苦手だ。
「ちなみに、『十三階段』はどうやって撃退したんすか?」
「呪文で消したよ」
「ああ、そっちっすか」
「他に手があるとでも?」
「ええ、多分、神荻センパイクラスの『修正者』だったら直接攻撃で破壊できます」
「ちっ・・・またワケの分からない専門用語を」
「ちゃんと、教えてあげるっすよ――コイツを倒せたら」
魔法陣の中心に立つ久我さんが、ゆっくりと両手を挙げる。
一体何を――何を、召喚ぶ気だ?
「ふふん。御託はいらないわっ。今度こそ、もっとマジなロアを出しなさい?」
「余裕っすね、神荻センパイ。言われなくとも、コイツはボクの持つ最強の切り札っす」
「それは楽しみだわ。退屈させたら許さないんだから」
小麦は、心底楽しそうな笑みを浮かべる。
対する久我さんも、釣られるかのように笑う。
そして、天に向けた両手をゆっくりと旋回させ。
その呪文を、口にする。
「ベントラー、ベントラー、ベントラー」
――嘘だろ!?
その呪文は、あまりにも、有名な。
間違いなく、アレを召喚ぶための――!
僕はすぐさま空を見上げる。
既に日も暮れ、星が瞬く夜空の中心。
そこに。
銀色の巨大な円盤が。
「・・・UFO!?」
僕の視線を辿った小麦が、驚嘆の声を上げた。
「はい、UFOっす」
久我さんは、両手を高く掲げたまま誇らしげに語る。
「白のチョークで魔法陣を描き、その中心で『ベントラー』と3回叫ぶ――これがUFO召喚の儀式!
ボク流のアレンジを加えてるから、世界的に有名なアレと比べれば見劣りするっすけど。
でも、だからこそ強い部分もあるっすよ。
何せコイツは、召喚者の言うことを聞いてくれるUFOっすから!」
何だそれは!?くそう、そんなの何でもアリじゃないか!
「召喚者・久我描が命じるっす!神荻センパイたちをやっつけろ!」
次の瞬間、その幼稚な命令に反応するかのように、UFOが赤く発光し。
――こちらへと突撃してくる!
「やっべえな、オイ!」
「ハル君、こっちっ!」
小麦に腕を掴まれ、引きずられるようにその場から逃げ出す。
「ちなみに、コイツに対処法はないっすから。直接攻撃で撃退するしかないっす」
「不親切すぎるだろ!」
緊急回避で地面を転がりつつも、ツッコミは忘れない僕だった。
「ほらほら、そんなこと言ってるヒマなんかないっすよ?」
見上げると、上空へ舞い戻ったUFOが有り得ない挙動で再度こちらへ向かってくるところだった。
小麦に導かれ、それを再び回避する。
しかし、すぐさまUFOは進行方向を変えて――。
畜生、本当に何でもアリだなこいつ!?
「うーん、向かってくるところを武器で打ち返すとか・・・ダメかな?」
小麦が右手に握るリコーダーを見ながら呟く。
「ちょっとリスキーかな。玉砕覚悟みたいで、僕はオススメしない。いっそ――」
僕は、もうひとつの策を推す。
「――そうか、さっきの要領だね?」
「そう。イケそうか?」
「出力アップすればイケるっしょ!」
「そんなこと、できるのか?」
「うん。コツは掴んだからね。次は――多分、スゴいよ?」
あっさりと、言ってのけやがった。
コイツは本当にどうなってるんだろうね?
「じゃあ、次のタイミングだ」
「おーけぃ!」
向かい来る巨大な赤いUFOを、小麦は軽やかに――僕は無様に回避して。
小麦は、その瞬間に全てを賭ける。
「――く、ら、えぇぇぇッッ!」