PS3はNTFSフォーマットを認識しない・・・だと・・・!?
放課後。
いつものように教室を出たところで呼び止められた。
「安達さん、ちょっと待って」
「――新見さん?」
それは、少々意外な人物だった。
新見瑠衣。
普段から特に話すこともなく、接点の少ない女子生徒。
私もとりわけ友達が多い方ではないが――彼女の場合、極端に友達がいない。
クラスの隅でいつもひとり。
そんな孤独な女子だった。
「・・・何か用かしら」
私は、そっけなく答える。
別に彼女のことが嫌いなわけではない。
誰に対しても、こんなものだ。
何に対しても――興味が、薄い。
「ここでは話せないから、屋上まで来てくれる?」
ぼそぼそと、聞き取りにくい声で新見さんはそう言った。
これはアレか。
呼び出されていじめられる展開か。
それとも百合的な告白が待っているのか。
新見さんの後について屋上への階段を登りながら、そんなことを考えた。
この学校の屋上は、一応生徒に解放されている。
昼食をここで取る生徒も、まぁいるらしい。
「で、話って、何?」
屋上特有の強い風に髪を押さえつつ、私は問いかけた。
「・・・彼から、手を引いて」
「は?」
何の話か分からなかった。
彼、というからには男の話なのだろう。
・・・何だか分からない。
分からないが、強烈に面倒臭い予感がした。
「彼は純粋で優しいのよ。だからあなたみたいな人の相手もしてくれてる。
でも、彼だって迷惑してるのよ? 分かるかしら?
私はそこを分かってるから、不必要に踏み込む真似はしないわ。
あなたに分かる? それが本当に人を好きになるっていうことなのよ。
あなたの都合に彼を巻き込まないで。彼の足を引っ張らないで。
彼の優しさに甘えて、自分のことばかり優先するのはやめて頂戴」
はぁ、とため息をつくしかなかった。
どうしよう。この子、ホンモノだ。
もちろん、彼女が言うところの『彼』とやらに心当たりはない。
同じクラスの男子とか、そんなところだろうか。
そんなもの、私にとってはモブAに過ぎないのだけれど。
そんなことを彼女に説明しても――多分、無駄だろうなぁ。
どうにも眼の色がおかしい。
まるで、何かに操られているかのようだ。
恐らくは色恋の話なのだろう。
しかし――私には理解できない。
興味が、薄い。
誰が誰を好きだの嫌いだの、女子の間で――否、男子を含めてそんな話が飛び交う。
何がそんなに楽しいのか。
他人の話はもちろん、自分のことだとしても、大して面白くはない。
目の前の少女は、そんな私を否定するかのように、狂気じみた愛情を語る。
ぶつぶつ、ぶつぶつと、聞き取りにくい声で。
彼とやらを称え、私を貶す。
とても正気とは思えなかった。
とにかく。
今の私にできることは、この子の言葉を右から左へ聞き流すことだけ。
理解できない念仏を聞かされているような苦痛ではあるが、地雷を踏むよりましだろう。
「ねえ、聞いているの?」
新見さんは、私の様子に気づいたのか、そんなことを言う。
聞いてないわ、と素直に言うわけにもいかず、私はただ押し黙る。
「そう、そんな態度を取るの。これだけ言っても、理解できないみたいね」
奇しくも、私の思いは通じたらしい。
そう、理解なんかできない。
思わず笑ってしまいそうになった。
「――だったら、仕方ないわ」
言って、彼女は制服のポケットからカッターナイフを取り出した。
きちきちきち。
そんな音を立てて、刃を伸ばす。
「あなたが悪いのよ。あなたが。あなたが。余計なことばかりするから!」
ひゅん、と私の目の前を刃が通過する。
「――ふん」
避けるまでもなかった。
運動神経が鈍いとか、そんな問題ですらない。
「長々と語った挙句、大層なことをするじゃない」
明らかな敵意に、さすがの私も黙っていられなくなった。
地雷を踏むのはゴメンだったが――振りかかる火の粉は払う主義だ。
「新見さんが何を言ってるのか分からないけど、多分誤解よ」
「黙れビッチィィ!」
ああ、駄目だ。やっぱり話など通じない。
おぼつかない手つきで、彼女はカッターナイフを振るう。
しかし。
「震えてるじゃない」
「う、うるさいッ!」
幾度も振るわれるその刃は、一度たりとも私に届くことはなかった。
ほんの少し体をそらし、捻るだけで簡単に回避できる程度だ。
「――そんなんじゃ、殺せない」
やれるものならやってみればいい。
どうせ、そんな覚悟もないくせに。
人殺しなど、できないくせに。
半端な気持ちで、刃を向けて。
「まるっきり子供ね」
襲い来る刃――それを握る彼女の右手を、内側から軽く叩く。
それだけで、容易くカッターナイフは宙を舞った。
それだけで――
「あ・・・・・・」
彼女の心は折れた。
同時に、それこそ子供のように泣き叫ぶ。
みっともない。
情けない。
下らない。
何なんだこの子は。何がしたいんだ。何と戦っているのだ。
何も分からない。分かろうとも思わない。
ただ、何故か、イライラする。
目の前の少女の無様な姿に、無性に腹が立つ。
それはつまり――興味がある、ということの裏返しなのだろうか。
ああ、と私は思った。
多分私は、羨ましいのだ。
だから、こんなにもイライラするのだ。
怒って泣いて、無関係な私を殺したくなるほど恋焦がれて。
そんな感情を持った彼女が――羨ましいのだ。
そう結論づけた私は、未だ泣き喚く新見さんを放置してその場を離れた。
胃の中身が逆流しそうな感覚に、耐えることができなかったから。
惨めな姿にすら憧れる自分に、我慢できなかったから。
彼女の声から耳を塞ぐように――私は屋上のドアを閉ざした。
いつものように教室を出たところで呼び止められた。
「安達さん、ちょっと待って」
「――新見さん?」
それは、少々意外な人物だった。
新見瑠衣。
普段から特に話すこともなく、接点の少ない女子生徒。
私もとりわけ友達が多い方ではないが――彼女の場合、極端に友達がいない。
クラスの隅でいつもひとり。
そんな孤独な女子だった。
「・・・何か用かしら」
私は、そっけなく答える。
別に彼女のことが嫌いなわけではない。
誰に対しても、こんなものだ。
何に対しても――興味が、薄い。
「ここでは話せないから、屋上まで来てくれる?」
ぼそぼそと、聞き取りにくい声で新見さんはそう言った。
これはアレか。
呼び出されていじめられる展開か。
それとも百合的な告白が待っているのか。
新見さんの後について屋上への階段を登りながら、そんなことを考えた。
この学校の屋上は、一応生徒に解放されている。
昼食をここで取る生徒も、まぁいるらしい。
「で、話って、何?」
屋上特有の強い風に髪を押さえつつ、私は問いかけた。
「・・・彼から、手を引いて」
「は?」
何の話か分からなかった。
彼、というからには男の話なのだろう。
・・・何だか分からない。
分からないが、強烈に面倒臭い予感がした。
「彼は純粋で優しいのよ。だからあなたみたいな人の相手もしてくれてる。
でも、彼だって迷惑してるのよ? 分かるかしら?
私はそこを分かってるから、不必要に踏み込む真似はしないわ。
あなたに分かる? それが本当に人を好きになるっていうことなのよ。
あなたの都合に彼を巻き込まないで。彼の足を引っ張らないで。
彼の優しさに甘えて、自分のことばかり優先するのはやめて頂戴」
はぁ、とため息をつくしかなかった。
どうしよう。この子、ホンモノだ。
もちろん、彼女が言うところの『彼』とやらに心当たりはない。
同じクラスの男子とか、そんなところだろうか。
そんなもの、私にとってはモブAに過ぎないのだけれど。
そんなことを彼女に説明しても――多分、無駄だろうなぁ。
どうにも眼の色がおかしい。
まるで、何かに操られているかのようだ。
恐らくは色恋の話なのだろう。
しかし――私には理解できない。
興味が、薄い。
誰が誰を好きだの嫌いだの、女子の間で――否、男子を含めてそんな話が飛び交う。
何がそんなに楽しいのか。
他人の話はもちろん、自分のことだとしても、大して面白くはない。
目の前の少女は、そんな私を否定するかのように、狂気じみた愛情を語る。
ぶつぶつ、ぶつぶつと、聞き取りにくい声で。
彼とやらを称え、私を貶す。
とても正気とは思えなかった。
とにかく。
今の私にできることは、この子の言葉を右から左へ聞き流すことだけ。
理解できない念仏を聞かされているような苦痛ではあるが、地雷を踏むよりましだろう。
「ねえ、聞いているの?」
新見さんは、私の様子に気づいたのか、そんなことを言う。
聞いてないわ、と素直に言うわけにもいかず、私はただ押し黙る。
「そう、そんな態度を取るの。これだけ言っても、理解できないみたいね」
奇しくも、私の思いは通じたらしい。
そう、理解なんかできない。
思わず笑ってしまいそうになった。
「――だったら、仕方ないわ」
言って、彼女は制服のポケットからカッターナイフを取り出した。
きちきちきち。
そんな音を立てて、刃を伸ばす。
「あなたが悪いのよ。あなたが。あなたが。余計なことばかりするから!」
ひゅん、と私の目の前を刃が通過する。
「――ふん」
避けるまでもなかった。
運動神経が鈍いとか、そんな問題ですらない。
「長々と語った挙句、大層なことをするじゃない」
明らかな敵意に、さすがの私も黙っていられなくなった。
地雷を踏むのはゴメンだったが――振りかかる火の粉は払う主義だ。
「新見さんが何を言ってるのか分からないけど、多分誤解よ」
「黙れビッチィィ!」
ああ、駄目だ。やっぱり話など通じない。
おぼつかない手つきで、彼女はカッターナイフを振るう。
しかし。
「震えてるじゃない」
「う、うるさいッ!」
幾度も振るわれるその刃は、一度たりとも私に届くことはなかった。
ほんの少し体をそらし、捻るだけで簡単に回避できる程度だ。
「――そんなんじゃ、殺せない」
やれるものならやってみればいい。
どうせ、そんな覚悟もないくせに。
人殺しなど、できないくせに。
半端な気持ちで、刃を向けて。
「まるっきり子供ね」
襲い来る刃――それを握る彼女の右手を、内側から軽く叩く。
それだけで、容易くカッターナイフは宙を舞った。
それだけで――
「あ・・・・・・」
彼女の心は折れた。
同時に、それこそ子供のように泣き叫ぶ。
みっともない。
情けない。
下らない。
何なんだこの子は。何がしたいんだ。何と戦っているのだ。
何も分からない。分かろうとも思わない。
ただ、何故か、イライラする。
目の前の少女の無様な姿に、無性に腹が立つ。
それはつまり――興味がある、ということの裏返しなのだろうか。
ああ、と私は思った。
多分私は、羨ましいのだ。
だから、こんなにもイライラするのだ。
怒って泣いて、無関係な私を殺したくなるほど恋焦がれて。
そんな感情を持った彼女が――羨ましいのだ。
そう結論づけた私は、未だ泣き喚く新見さんを放置してその場を離れた。
胃の中身が逆流しそうな感覚に、耐えることができなかったから。
惨めな姿にすら憧れる自分に、我慢できなかったから。
彼女の声から耳を塞ぐように――私は屋上のドアを閉ざした。