和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

きょうのひとこと。

2011-08-19 23:55:35 | いつもの日記。
PS3はNTFSフォーマットを認識しない・・・だと・・・!?
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【SS】無関心

2011-08-19 17:17:32 | 小説。
放課後。
いつものように教室を出たところで呼び止められた。
「安達さん、ちょっと待って」
「――新見さん?」
それは、少々意外な人物だった。
新見瑠衣にいみるい
普段から特に話すこともなく、接点の少ない女子生徒。
私もとりわけ友達が多い方ではないが――彼女の場合、極端に友達がいない。
クラスの隅でいつもひとり。
そんな孤独な女子だった。
「・・・何か用かしら」
私は、そっけなく答える。
別に彼女のことが嫌いなわけではない。

誰に対しても、こんなものだ。
何に対しても――興味が、薄い。

「ここでは話せないから、屋上まで来てくれる?」
ぼそぼそと、聞き取りにくい声で新見さんはそう言った。
これはアレか。
呼び出されていじめられる展開か。
それとも百合的な告白が待っているのか。
新見さんの後について屋上への階段を登りながら、そんなことを考えた。

この学校の屋上は、一応生徒に解放されている。
昼食をここで取る生徒も、まぁいるらしい。
「で、話って、何?」
屋上特有の強い風に髪を押さえつつ、私は問いかけた。
「・・・彼から、手を引いて」
「は?」
何の話か分からなかった。
彼、というからには男の話なのだろう。
・・・何だか分からない。
分からないが、強烈に面倒臭い予感がした。

「彼は純粋で優しいのよ。だからあなたみたいな人の相手もしてくれてる。
 でも、彼だって迷惑してるのよ? 分かるかしら?
 私はそこを分かってるから、不必要に踏み込む真似はしないわ。
 あなたに分かる? それが本当に人を好きになるっていうことなのよ。
 あなたの都合に彼を巻き込まないで。彼の足を引っ張らないで。
 彼の優しさに甘えて、自分のことばかり優先するのはやめて頂戴」

はぁ、とため息をつくしかなかった。
どうしよう。この子、ホンモノだ。
もちろん、彼女が言うところの『彼』とやらに心当たりはない。
同じクラスの男子とか、そんなところだろうか。
そんなもの、私にとってはモブAに過ぎないのだけれど。
そんなことを彼女に説明しても――多分、無駄だろうなぁ。
どうにも眼の色がおかしい。
まるで、何かに操られているかのようだ。

恐らくは色恋の話なのだろう。
しかし――私には理解できない。
興味が、薄い。
誰が誰を好きだの嫌いだの、女子の間で――否、男子を含めてそんな話が飛び交う。
何がそんなに楽しいのか。
他人の話はもちろん、自分のことだとしても、大して面白くはない。

目の前の少女は、そんな私を否定するかのように、狂気じみた愛情を語る。
ぶつぶつ、ぶつぶつと、聞き取りにくい声で。
彼とやらを称え、私を貶す。
とても正気とは思えなかった。
とにかく。
今の私にできることは、この子の言葉を右から左へ聞き流すことだけ。
理解できない念仏を聞かされているような苦痛ではあるが、地雷を踏むよりましだろう。

「ねえ、聞いているの?」
新見さんは、私の様子に気づいたのか、そんなことを言う。
聞いてないわ、と素直に言うわけにもいかず、私はただ押し黙る。
「そう、そんな態度を取るの。これだけ言っても、理解できないみたいね」
奇しくも、私の思いは通じたらしい。
そう、理解なんかできない。
思わず笑ってしまいそうになった。
「――だったら、仕方ないわ」
言って、彼女は制服のポケットからカッターナイフを取り出した。
きちきちきち。
そんな音を立てて、刃を伸ばす。
「あなたが悪いのよ。あなたが。あなたが。余計なことばかりするから!」
ひゅん、と私の目の前を刃が通過する。
「――ふん」
避けるまでもなかった。
運動神経が鈍いとか、そんな問題ですらない。

「長々と語った挙句、大層なことをするじゃない」

明らかな敵意に、さすがの私も黙っていられなくなった。
地雷を踏むのはゴメンだったが――振りかかる火の粉は払う主義だ。
「新見さんが何を言ってるのか分からないけど、多分誤解よ」
「黙れビッチィィ!」
ああ、駄目だ。やっぱり話など通じない。
おぼつかない手つきで、彼女はカッターナイフを振るう。
しかし。
「震えてるじゃない」
「う、うるさいッ!」
幾度も振るわれるその刃は、一度たりとも私に届くことはなかった。
ほんの少し体をそらし、捻るだけで簡単に回避できる程度だ。
「――そんなんじゃ、殺せない」
やれるものならやってみればいい。
どうせ、そんな覚悟もないくせに。
人殺しなど、できないくせに。
半端な気持ちで、刃を向けて。
「まるっきり子供ね」
襲い来る刃――それを握る彼女の右手を、内側から軽く叩く。
それだけで、容易くカッターナイフは宙を舞った。
それだけで――
「あ・・・・・・」
彼女の心は折れた。
同時に、それこそ子供のように泣き叫ぶ。
みっともない。
情けない。
下らない。
何なんだこの子は。何がしたいんだ。何と戦っているのだ。
何も分からない。分かろうとも思わない。
ただ、何故か、イライラする。
目の前の少女の無様な姿に、無性に腹が立つ。
それはつまり――興味がある、ということの裏返しなのだろうか。

ああ、と私は思った。

多分私は、羨ましいのだ。
だから、こんなにもイライラするのだ。
怒って泣いて、無関係な私を殺したくなるほど恋焦がれて。
そんな感情を持った彼女が――羨ましいのだ。

そう結論づけた私は、未だ泣き喚く新見さんを放置してその場を離れた。
胃の中身が逆流しそうな感覚に、耐えることができなかったから。
惨めな姿にすら憧れる自分に、我慢できなかったから。

彼女の声から耳を塞ぐように――私は屋上のドアを閉ざした。
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