「あれ。お兄さん、運のいい人ですねえ」
乳白色の巨大な鎌を抱えた少女は、小さく笑いながらそう言った。
偶然だった。
偶々だった。
そして幸運だった。
ほんの数秒前、僕は自販機でコーヒーでも買おうと思って不意に半歩体を捻った。
その瞬間、生温い風が吹いたことは認識している。
それが――どうやら、彼女の鎌の一撃によるものだったらしい。
ああ、なるほど。
と、思ったことは思ったのだが、正直理解はできていない。
鎌の少女は、そんな僕の様子を見ながら続ける。
「お兄さん、驚いたり怖がったりしませんねえ?」
「・・・はあ」
驚くも怖がるもなかった。
現状を把握できていない、ただそれだけのことだ。
取り敢えず、目の前の少女はありえない。
ゴスロリ・・・違うな、甘ロリ? っぽいヒラヒラのドレスを身にまとい。
栗色の髪は緩いウェーブ。
大きな瞳は鮮やかな青。
少なくとも日本人ではない感じ。
見た目の年齢は、10代前半といったところだろうか。
そんな少女が、突然に現れて。
巨大な鎌で、僕を――襲った?
つまり。
「通り魔?」
「ひどい誤解をされた!?」
少女は目を見開き叫ぶ。
「そんなのないよ! よりにもよって通り魔だなんて! ありえない!」
ありえないのは君の存在の方だ。
あとその鎌だ。
「じゃあ、どちら様?」
「あたしは死神! アリスっていうの!」
ちょっとむくれる様は、異常なまでに可愛らしかった。
・・・でも多分、そんなことを考えていられる状況じゃないな。
何せ僕は今、命を狙われたのだ。
実感はない、のだが。
――死神。
確か彼女は今、そんな単語を口にした。
なるほどその大きな鎌はまさに死神のそれのようだ。
ただし、禍々しいというよりも綺麗だと表現する方が正しい。
しかしそれは明らかに人を殺せる道具だった。
「アリス、ちゃん?」
「はい?」
「で、僕に何か・・・用?」
「ああ、そうだった。ええとですね、お兄さんには死んでもらおうと思って」
「・・・・・・」
無言になるしかなかった。
ああそうですか、とも言えないし、かと言って逃げるという選択肢も浮かばない。
ちょっとしたパニック状態だ。
「どうにもこの国、人口が多すぎるらしいんですよ。で、口減らし的な?」
「的な? っていうノリで殺されても」
「ですよねえ。なので、基本的には了解を取らずに殺っちゃう予定だったんですけど」
えへへ、と笑う自称死神。
こんなお茶目な死神は嫌だ。
「っていうか、それは誰の命令なの?」
「あたしのお父さん・・・的な?」
「そこもぼかすのか・・・」
もう何も分からなかった。
そんな曖昧な感じで殺されるのは絶対に嫌だ。
いや、理由が明確になったとしても嫌なものは嫌なんだけど。
「今、お兄さんがあたしの鎌を避けたのは、あたしに気づいてたからですか?」
「いや・・・そんなことはなくて。偶然だけど」
今でも攻撃された事実を信じられないくらいだ。
いくらなんでも、現実離れしすぎている。現代の日本だぞ、ここは。
「やっぱり偶然ですかあ。そんなこともあるんですねえ」
しみじみと、そんなことを呟く異国の少女。
「う、うん。そうだね」
「ちなみに、格闘技とかのご経験は?」
「いや、ないけど」
「そうですか、よかったあ」
「・・・よかった?」
「だってほら、面倒じゃないですかあ」
そして彼女は、その美しい鎌を振り上げる。
「これ以上逃げられたら、あたし面倒すぎて泣いちゃいそうです」
次の瞬間。
――それじゃあ、さよなら。
そんな風に、彼女の唇が動いたような気がした。
乳白色の巨大な鎌を抱えた少女は、小さく笑いながらそう言った。
偶然だった。
偶々だった。
そして幸運だった。
ほんの数秒前、僕は自販機でコーヒーでも買おうと思って不意に半歩体を捻った。
その瞬間、生温い風が吹いたことは認識している。
それが――どうやら、彼女の鎌の一撃によるものだったらしい。
ああ、なるほど。
と、思ったことは思ったのだが、正直理解はできていない。
鎌の少女は、そんな僕の様子を見ながら続ける。
「お兄さん、驚いたり怖がったりしませんねえ?」
「・・・はあ」
驚くも怖がるもなかった。
現状を把握できていない、ただそれだけのことだ。
取り敢えず、目の前の少女はありえない。
ゴスロリ・・・違うな、甘ロリ? っぽいヒラヒラのドレスを身にまとい。
栗色の髪は緩いウェーブ。
大きな瞳は鮮やかな青。
少なくとも日本人ではない感じ。
見た目の年齢は、10代前半といったところだろうか。
そんな少女が、突然に現れて。
巨大な鎌で、僕を――襲った?
つまり。
「通り魔?」
「ひどい誤解をされた!?」
少女は目を見開き叫ぶ。
「そんなのないよ! よりにもよって通り魔だなんて! ありえない!」
ありえないのは君の存在の方だ。
あとその鎌だ。
「じゃあ、どちら様?」
「あたしは死神! アリスっていうの!」
ちょっとむくれる様は、異常なまでに可愛らしかった。
・・・でも多分、そんなことを考えていられる状況じゃないな。
何せ僕は今、命を狙われたのだ。
実感はない、のだが。
――死神。
確か彼女は今、そんな単語を口にした。
なるほどその大きな鎌はまさに死神のそれのようだ。
ただし、禍々しいというよりも綺麗だと表現する方が正しい。
しかしそれは明らかに人を殺せる道具だった。
「アリス、ちゃん?」
「はい?」
「で、僕に何か・・・用?」
「ああ、そうだった。ええとですね、お兄さんには死んでもらおうと思って」
「・・・・・・」
無言になるしかなかった。
ああそうですか、とも言えないし、かと言って逃げるという選択肢も浮かばない。
ちょっとしたパニック状態だ。
「どうにもこの国、人口が多すぎるらしいんですよ。で、口減らし的な?」
「的な? っていうノリで殺されても」
「ですよねえ。なので、基本的には了解を取らずに殺っちゃう予定だったんですけど」
えへへ、と笑う自称死神。
こんなお茶目な死神は嫌だ。
「っていうか、それは誰の命令なの?」
「あたしのお父さん・・・的な?」
「そこもぼかすのか・・・」
もう何も分からなかった。
そんな曖昧な感じで殺されるのは絶対に嫌だ。
いや、理由が明確になったとしても嫌なものは嫌なんだけど。
「今、お兄さんがあたしの鎌を避けたのは、あたしに気づいてたからですか?」
「いや・・・そんなことはなくて。偶然だけど」
今でも攻撃された事実を信じられないくらいだ。
いくらなんでも、現実離れしすぎている。現代の日本だぞ、ここは。
「やっぱり偶然ですかあ。そんなこともあるんですねえ」
しみじみと、そんなことを呟く異国の少女。
「う、うん。そうだね」
「ちなみに、格闘技とかのご経験は?」
「いや、ないけど」
「そうですか、よかったあ」
「・・・よかった?」
「だってほら、面倒じゃないですかあ」
そして彼女は、その美しい鎌を振り上げる。
「これ以上逃げられたら、あたし面倒すぎて泣いちゃいそうです」
次の瞬間。
――それじゃあ、さよなら。
そんな風に、彼女の唇が動いたような気がした。