新古今和歌集の部屋

長明発心集 第二 或る上人客人に値はざる事

 

 

 

 

 

 

 

 

 

或上人不値客人事

年來道心深して念佛をこたらぬ聖ありけり。相知た

りける人の對面せんとてわざと尋て來りければ、大切に

暇ふたがりたる事ありてゑあひ奉るましきと云。弟子

あやしと思て其人歸て後なむ本意なくては歸し給へ

るぞ。指合事も見侍らぬをと云へば、あひ難して人身

得たり。此度生死を離て極樂に生れんと思ふ。

是身にとりて極まりたる営とり。何事か是に過たる

大事あらむとぞ云ける。此事あまりきびく覚ゆるは我心の

をよばぬべし。

 坐禅三昧經云

今日営此事明日造彼事樂者不觀苦不覺死賊

云云。世中にある人さすがに後世を思ざるなし。けう

は此事をせん。あすは彼事を営まむと思ふほどに無常の

たきや漸近づきて命を失事をば知ざる也。

 

坐禅三昧經 鳩摩羅什編。

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