五十首歌奉りし時 家隆朝臣
あけば又こゆべき山の峯なれや空行月の末のしら雲
めでたし。 白雲の下に、は°もじをそつて、其下
へ上句をつゞけて心得べし。
雅經
ふるさとのけふの面影さそひこと月にぞ契るさよの中山
めでたし。 別れしまでの面影は、月にうかべ
ども、其後のおもかげは、いかならむ。しられず、戀し
佐夜ノ中山は、さやの中山なれども、此集の比に至りて
は、夜の意をこむる時は、さよの中山ととよめり。今はなべ
て然いふなり。
和歌所ノ月十番ノ哥合の次に月ノ前ノ旅
摂政
忘れじと契りて出し面影はみゆらむ物をふるさとの月
三四の句は、我面影の、故郷に見ゆらむ也。 結句は、故郷
人の見る月なり。 さて四の句、物をといへるは、さりとも
我ことをわすれはせじ。思ひ出らむといふ意なるべし。
されど此詞、少しおだやかならず。
旅のうた 慈圓大僧正
東路のよはのながめをかたらなむ都の山にかゝる月影
初めに、此ノ我ヵといふことを添て心得べし。
百首ノ歌奉りし時 冝秋門院丹後
しらざりし八十瀬の浪を分過てかたしく物はいせの浜荻
旅のやうをもしらで、さま/"\ならはぬ事どもの多
きをいへる哥也。しらざりしといふに心をつくべし。
波を分といふことゝ、鈴鹿川には、少し似つかぬ
こゝちす。
式子内親王
ゆく末は今いく夜とかいはしろの岳のかやねに枕むすばむ
めでたし。 本哥、万葉一に√君が代もわが世もし
れやいはしおろの岳のかやねをいざむすびてな
君が代もわが世もしれやとあるにつきて、今我ヵ行
末の旅ねは、又今いく夜ならむとなり。本哥のよ°は、
代なるを、夜にとりなし玉へるなり。 二三のつゞき、
いはむといひかけたるにはあらず。二の句より結句へつゞけり。
松がねのをじまが磯のさよ枕いたくなぬれそあまの袖かは
上句詞めでたし。
※万葉一に√君が代も~
万葉集巻第一 10
中皇命徃于紀温泉之時御歌
君之齒母吾代毛所知哉磐代乃岡之草根乎去来結手名
君が代も我が代も知るや岩代の岡の草根をいざ結びてな
小夜の中山
伊勢の五十鈴川の浜荻(芦)
松島雄島