てりもせず、冬の空のしぐれのごとくくもりもはてず、
らう/\として、優美なる躰也。しくものぞなき
とは、くらべてうへするものなしとなり。花紅葉
雪もゑまさらぬとなり。
一 祐子内親王藤壺にすみ侍りけるに、女房うへ
人などさるべきかぎり物がたりて、春秋の
あはれいづれにか心ひくなどあらそひ侍り
けるに、人/"\おほく秋に心をよせ侍りければ
菅原ノ孝標ノ女 信濃守橘ノ俊通妻。右中
弁資忠孫 一首入。
一 淺緑花もひとつにかすみつゝおぼろに見ゆる春のよの月
増抄云。あさみどりとは、春の空のいろなり。花
もひとつにとは、月の色と一様に、かすみてと也。
月ばかりさへしく物ぞなきといひつるに、
花も一様にかすみこめたる世界の躰也。
藤壺は弘徽殿ノ西或五間四面飛香舎なり。
頭注
藤がつぼの内にあれ
ば藤つぼといひ桐
があればきりつぼ
といふとなり。五舎
同じ。
※五舎
内裏の殿舎の内、昭陽=梨壺、淑景=桐壺、飛香=藤壺、凝花=梅壺、襲芳=雷鳴壺を言う。