このブログでも昨年2月に、「オンライン会話はつながりといえるのか?」として、川嶋隆太氏の研究を紹介しましたが、
Zoomでの対話とリアル対面での会話は、脳にとっては同じものではないことを明らかにする研究が、
つい先ごろ10月25日に、また1つ発表されました。
イエール大学精神医学、比較医学、神経科学分野教授のJoy Hirschらの、
fNIRS(機能的近赤外分光法)など高度なイメージングツールを使った新たな研究によると、
Zoomでの対話よりも、リアル対面での会話の方が、脳の社会的な活動に関わる神経回路や領域が活発化するとのことです。
この研究グループは、オンラインZoomとリアル対面という、2つの異なる条件下で会話をしている2人の、
fNIRSによる脳画像検査、脳波(EEG)測定、アイ・トラッキング、瞳孔測定を行ない、そのデータを比較しました。すると、
Zoomでの会話に比べてリアル対面での会話では、fNIRSでの信号の増加度でみると、
背側-頭頂領域(dorsal-parietal regions)という脳の特定領域で神経活動が活性化すること、
また相手の顔に対する視覚的滞留時間が長くなり、瞳孔径が拡大すること、
つまり会話をしている2人の脳の覚醒が高まっていることが明らかになりました。
また、リアル対面での会話では、θ波と呼ばれる脳波(EEG)が増強することが確認され、顔処理能力が向上していることが示唆されました。
さらに、対面で会話をしている人の脳の神経活動は、Zoomで会話している場合よりも協調的で、
背側-頭頂領域内で脳間同期(cross-brain synchrony)の増加もみられました。
つまり会話中の2人の間で、社会的手がかりを相互交換する頻度が増加しているのです。
こうしてリアル対面での会話では、自然でダイナミックな社会的相互作用が自発的に生じているのですが、
反対にZoomでの会話では、そうした相互作用は限定的か、あるいは全く認められません。
というのもZoomは、対面に比べて、社会的コミュニケーションを取るためのシステムとしては、質も豊かさも劣るようで、
そもそもオンラインの少なくとも現在利用可能な技術では、対話相手の顔を見るとき、
リアル会話の時のような、脳の社会的な神経回路への「特別なアクセス」を得ることは不可能と言わざるをえないのです。
リアル対面での交流が、人間の自然な社会的行動にとっていかに重要であるかが、またここでも明らかにされました。
<文 献>
Zhao, N., Zhang, X., Noah, J. A., Tiede, M. & Hirsch, J., 2023 Separable processes for live “in-person” and live “zoom-like” faces , in Imaging Neuroscience, vol.1, pp.1-17.
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