これら(m)TBIの脳実質の器質的な損傷は、多くが回転外力や加速度による深部の微細な損傷である「びまん性軸索損傷」
(diffuse axonal injury:DAI)[Gennarelli 1984]に分類されるもので[Gennarelli&Graham 1998]、
外傷後のCTで明らかな異常を認めないにもかかわらず、意識障害の遷延がある状態として鑑別され、
重度から最軽度まで量的に連続するスペクトラムをなします。
そしてDAIの最も軽度の段階が、後述のゼネレリの分類によると、mTBIなのです[Gennarelli&Graham 1998;山口 2020,pp.60-1]。
この「びまん性脳損傷」と「局所性脳損傷」(脳挫傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳内血腫)とを合わせたものが「外傷性脳損傷」にあたります
[原・富田 2012,pp.1046,1047]。
つまり「脳の器質的損傷」とは、脳挫傷や頭蓋内血腫のような局所性の脳損傷に限らず、広くびまん性の脳損傷をも含むのです[山口 2020,p.77]。
「びまん性軸索損傷」の概念は,1956年にシュトリヒが病理学的見解から、軸索や血管に断裂が生じる病態を「びまん性白質変性」
(diffuse degeneration white matter)として報告したのが始まりです[Strich 1956;原・富田 2012,pp.1047 -8]。
その後1984年にゼネレリらが、受傷直後から意識障害が6時問以上続き、画像上その原因としての頭蓋内占拠性病変を認めず、
しかも明らかな低酸素や脳虚血によらない遷延する外傷性びまん性脳損傷を「びまん性軸索損傷」(DAI)と位置づけたのでした
[Gennarelli 1984;原・富田 2012,p.1048]。
あわせてゼネレリは、DAIを、意識障害の持続時間と重症度によって、24時間以内に昏睡から回復する「mild DAI」、脳幹症状は伴わないが
24時間以上の昏睡をきたす「moderate DAI」、24時間以上の昏睡に脳幹症状を伴なう「severe DAI」の3段階に分類しましたが
[Gennarelli 1984;原・富田 2012,p.1048]、
さらに後には、「重症DAI」(受傷後の昏睡6時間以上)、「脳震盪」(6時間未満の意識消失、数時間以内の外傷後健忘)、「軽度震盪」
(意識消失なしで、数分以内の外傷後健忘)、「mTBI」(外傷直後の混迷か見当識障害、あるいは30分以内の意識消失、24時間未満の外傷後健忘)の
4つの段階に分けたのでした[Gennarelli&Graham 1998;山口 2020,pp.60-1]。
mTBIは「びまん性軸索損傷」の最も軽度の段階というわけです[Gennarelli&Graham 1998;山口 2020,pp.60-1]。
<文 献>
Gennarelli, T. A. ,1984 Emergency Department Management of Head Injuries, in Emergency Medicine Clinics of North America, vol. 2, no.4, pp.749-60.
Gennarelli, T. A. & Graham, D. I., 1998 Neuropathology of head injuries, in Seminars in Clinical Neuropsychiatry, vol.3, pp.160-75.
原 睦也・富田博樹、2012 「外傷性脳損傷の分類と特徴」『Journal of Clinical Rehabilitation』第21巻11号、pp.1046-51 。
Strich, S.J., 1956 Diffuse degeneration of the cerebral white matter in severe dementia following head injury, in Journal of Neurology, Neurosurgery,and Psychiatry, vol.19, pp.163-
85.
山口研一郎、2020 『見えない脳損傷MTBI』岩波書店。
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