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知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

機能クレーム(ないし機能的クレーム)についての一考察(Ⅰ)

2015-01-07 11:52:08 | 特許権

機能クレーム(ないし機能的クレーム)についての一考察(Ⅰ)
1 機能クレームの特殊性
1-1 機能クレームの意義
機能クレームとは、特許請求の範囲の記載において「・・・するための手段」というように「機能及び手段」を示す形式で記載されているものをいう 。言い換えれば、機能クレームとは、「特許請求の範囲が具体的な構成ではなく、その構成が果たす機能として抽象的に記載されたクレーム」をいう 。
裁判例からアドホックに例を拾うと、以下のとおりである。

① 「それぞれ異なる寸法範囲の中間部品を含む複数の供給手段、供給手段のうちの選んだ一つの寸法を比較して予定数の中間部品を選出する計測手段、内外部品の協力面の寸法を自動的に比較するため及び計測手段を制御するための検査手段、選出された中間部品と検査された 内外両部品とを組立てるために計測手段と協力する組立手段」における各手段:部品の自動選別装置判決
② 「鍵2の挿入または抜取りにより硬貨投入口8を開閉する遮蔽9を設けたことを特徴とする貸ロツカーの硬貨投入口開閉装置」における「遮蔽9」貸しロッカー判決
③ 「磁気ヘッドを媒体に摺接走行させて情報の記録或いは再生を行う磁気媒体リーダーにおいて?上記磁気ヘッドが下降位置にあるときは上記磁気ヘッドの回動を規制し、上記磁気ヘッドが摺接位置にあるときは上記磁気ヘッドの回動自在とする回動規制手段を設けた」における「回動規制手段」:磁気媒体リーダー判決
④ 「土留め壁や連続地中壁等の壁体の金属部分に・・・連結金具の先端側の外周部に、連結金具回転用の工具を軸方向から装着可能な工具装着部を設け・・・連結金具を壁体に取付けることを特徴とするコンクリート型枠保持方法」における「連結金具回転用の工具」及び「工具装着部」及び:コンクリート型枠保持判決

1-2 「広すぎるクレーム」
機能クレームは、物の構造による限定ではなく、機能(目的)による限定であるから、当該機能を実現する物であれば、構造の如何にかかわらず、クレームに該当することになる(正確に言えば、これは、機能クレームのうち、機能により特定されてる構成要件についての議論であるが、煩雑さを避けるため、「機能により特定されてる構成要件」という意味で「機能クレーム」という用語を用いることがある)。そのため、機能クレームは、いわゆる「広すぎるクレーム」の一種であり、まず、明確性要件違反、実施可能性要件違反及びサポート要件違反の問題として(つまり無効理由の問題として)議論されることが多い(設楽隆一「機能的クレームの解釈について」知的財産法の理論と実務「第1巻」128ページ以下)。)しかし、特許の有効性について議論するためには、クレーム解釈(発明の要旨認定)が先行するものであるから、本稿においては、まず、機能クレームの解釈について論じることにする。

2 機能クレームの解釈
2-1 特別な理論の要否
機能クレームの解釈については、米国特許法は特別の規定を有している。すなわち、同法126条6項は「結合の発明のクレーム中の要件は、それを支持する構造、材料または動作を詳しく記述することなく、特定の機能を達成する手段または工程として表現することができる。このようなクレームは、明細書に記載された対応する構造、材料または動作及びその均等物を保護するものとして解釈される」と定めている。日本法上は特別の規定はないものの、従来は、日本法上も、この米国特許法の規定と同様に解釈すべきとする立場が優勢であったといえる。これに対して、日本法上は特別の規定はないから、通常のクレーム解釈の手法に従って解釈すれば足りると解する立場 も近時有力に主張されている 。この点については、日本法上は、米国法112条6項のような特別の規定はないから、特許法70条に基づき通常のクレーム解釈を行うべきである。具体的には、発明の属する技術分野、発明の目的、解決すべき課題、作用効果、技術常識等を十分に考慮して、「機能」で特定されている文言を解釈することになろう(東海林「クレーム解釈(2)」[知的財産法の実務的発展 ]71ページ)

2-2 機能クレーム特有の問題
もっとも、機能クレームについて、通常のクレーム解釈の手法と同様に、種々の考慮要素を総合判断して解釈するとしても、以下の点を機能クレーム特有の問題として指摘できる。
第1は、機能クレームは、その定義上、「機能」で特定される部分を含むところ、発明の本質を課題解決のための手段であり、特許権という独占権の付与は、その具体的構成(構造)を開示することの代償であると考えるならば、明細書の記載のうち、具体的構成(構造)が提示されている部分からクレーム解釈をスタートさせることが他のクレーム解釈の場合と対比してより合理的と思われることである。すなわち、機能的クレームについて、明細書の記載を参酌して通常のクレーム解釈を行うとしても、明細書の実施例の記載以外の部分には、具体的構成(構造)の記載がないことが多いため(実施例を離れて具体的構成(構造)の記載が可能であるならば、特定の技術要素を「機能」で表現する必要がない)、具体的構成(構造)を明らかにするために、まず実施例の記載を参酌することが重要となることが多いのである。このように、クレームの解釈手法として、実施例に記載を参酌することからスタートする又は重視する手法は、明細書の記載のうち、具体的構成(構造)が提示されている部分としての実施例の記載を参酌するものであり、通常のクレーム解釈の手法を実施例以外に具体的構成(構造)が提示されていない明細書に適用したものにすぎず、いわゆる実施例限定説とは全く異なるのみならず、何ら特別のものではない。もっとも、この解釈手法が実施例限定説と同様であるとの誤解を避けるためには、具体的な解釈手法の一般論としては、「いわゆる機能的クレームについては、【特許請求の範囲】や【発明の詳細な説明】の記載に開示された具体的な構成に示されている技術思想(課題解決原理)に基づいて、技術的範囲を確定すべきものと解される。また、明細書に開示された内容から、当業者が容易に実施しうる構成であれば、その技術的範囲に属するものといえるが、実施することができないものであれば、技術思想(課題解決原理)を異にするものして、その技術的範囲には属さないものというべきである」というもの(盗難防止用連結具判決:大阪地方裁判所平成23年(ワ)第10341号)や「明細書及び図面に開示された構成及びそれらの記載から当業者が実施し得る構成が特許発明の範囲に含まれる」(【脚注】地震時ロック事件東京地裁平成17年(ワ)22834号)というものがあるが、実施可能性要件をクレーム解釈に取り込んでいるように見えるから
「明細書の発明の詳細な記載から当業者が認識し得る技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を定めるべきである」(開き戸の地震時ロック方法事件判決:大阪地裁平成20年(ワ)4393号)と述べておくべきであろう。
第2は、解釈された用語の意味と文言の表現との間に質的な齟齬又は乖離が構造的に発生するということである。なぜなら、機能クレームの解釈は、「機能」で表現された文言を「構造」として解釈するものであるからである。言い換えれば、機能クレームも、通常のクレーム解釈の手法に従って解釈すれば足りるのであるところ、解釈された用語の意味と文言の表現との間に質的な齟齬又は乖離が生じても、それを許容することに特殊性があるといえる。もとより、解釈された用語の意味と文言の表現との間に質的な齟齬又は乖離が生じた場合、そのような解釈は許されないとする厳格な見解もあり得る。しかし、そう解すると、機能クレームは明確性要件違反により無効となるところ、このような帰結を容認することは、機能クレームを否定することに等しく、これまでの特許実務を否定することになりかねないから、かかる厳格な見解は採用できないという他ない 。

3 機能クレームと記載不備
なお、ここで、機能クレームと明細書の記載不備(明確性要件違反及びサポート要件)との関係について述べておきたい。

3-1 明確性要件とサポート要件
(1) 明確性要件との関係
一般に、機能クレームであっても、当業者が特許請求の範囲以外の明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、ある具体的な物がその外延に含まれるか否かが理解できる場合には、特許法36条等の要件を充足し、適法であるといえる一方、当業者が特許請求の範囲以外の明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、ある具体的な物がその外延に含まれるか否かが理解できない場合には、明確性要件(特許法36条6項2号)違反であり、当該機能クレームは無効理由を有することになる と理解されている 。

(2)サポート要件との関係
また、機能クレームの範囲が過度に広範であり、発明の詳細な説明の記載がこれに対応していない場合(狭い場合)には、サポート要件違反となる(特許法36条6項)。ここで、サポート要件充足性の判断基準としては、フリセンバリン判決の判示するとおり、サポート要件の趣旨が、「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲を超えるような広範な範囲にまで独占権を付与することを防止するものであることに照らして、「特許請求の範囲」が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲のものであるか否かを判断するのに、必要かつ合目的的な解釈手法によるべきであって、特段の事情のない限りは、「発明の詳細な説明」において実施例等で記載・開示された技術的事項を形式的に理解することで足りると解される。なお、この点については、パラメータ特許大抗議事件判決のように、「特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである」とする裁判例も多数あり、今後の動向が注目される。

3-2 検討
機能クレームの場合には、物の特定の一部が、構造ではなく、機能(目的)により行われているのであるから、発明の対象である「物」の構造は、特許請求の範囲の記載のみでは明確ではなく、従って、特段の事情のない限り、リパーゼ判決のいう「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」場合に該当すると解される。それ故、機能クレームの場合には、明細書の記載を参酌して「機能」を記載した文言を限定解釈することによりクレーム解釈(発明の要旨認定)がなされることになる。
ここで、明細書の記載が不十分等の理由により、クレームの限定解釈ができない場合には、明確性要件(ないし実施可能性要件)違反として、当該特許には無効理由があることになる(特許法123条)一方、クレームの外延が確定しない以上、サポート要件違反は問題にならないと思われる 。
これに対して、明細書の記載を参酌して「機能」を記載した文言を限定解釈することが可能な場合には、当該機能クレームは、明確性要件(実施可能性要件)を充足するとともに、サポート要件も充足すると解される。
このように、機能クレームが二種類に分かれること は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームと同様であり、興味深い。

以上

 


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