醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  926号  白井一道

2018-12-04 12:26:31 | 随筆・小説


  住みつかぬ旅の心や置炬燵   芭蕉   元禄3年

 

句郎 この句には「去(い)ね去(い)ねと人に言はれても、なほ喰ひ荒らす旅の宿り、どこやら寒き居心を侘びて」と前詞がある。
華女 「去(い)ね」とは、出ていけということよね。宿の主から出て行ってくれ、出て行ってくれと言われても、宿に留まり飯を食べ続ける。するとなんとなく居心地が悪くなってきた。居心地が悪くなってくると旅に生きる人間の哀しみが沸いてく
るが、置炬燵から離れがたい。芭蕉にもこんな気持ちがあったのかしら。
句郎 きっと芭蕉にも体調の悪いことがあったことだろうからね。そんな時、宿の主から出て行ってくれと言われた経験があったのじゃないのかな。
華女 身形が乞食と変わらない俳諧師、芭蕉には路通という乞食俳人がいたのでしょ。
句郎 『蕉門頭陀物語』によるとが草津・守山の辺で出会った乞食が路通である。乞食が和歌を楽しなむとの話に、芭蕉は一首を求め「露と見る 浮世
の旅の ままならば いづこも草の 枕ならまし」と乞食が詠んだ。芭蕉は驚き俳諧をしてみないかと誘い師弟の契りを結び、路通の号を与えたとある。
華女 居心地の悪い旅籠に宿った時に路通の気持ちを芭蕉は思いやったのかもしれないわね。
句郎 路通の句「いねいねと人にいはれつ年の暮」が『猿蓑』に載っている。路通の心情を思いやり詠んだ句が「住みつかぬ旅の心や置炬燵」だったのではないのかな。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿