醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  1056号   白井一道

2019-04-14 13:06:16 | 随筆・小説



  原発をなぜ辞めないのか



 東北から関東にかけての水産、農産品の輸出はできない。原発事故から8年を経て、まだまだ被害は続いて行く。にもかかわらず日本政府は原発の再稼働を勧めようとしている。もう一度、原発事故がおきたら、狭く小さな島国の日本には住める地域がなくなってしまう。このような危険があるにもかかわらず安倍政権は原発再稼働の政策を止めようとしない。「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」と大江健三郎氏は小説を書いた。今、日本政府は原発政策を変えることができない。原発に依存している人々の力が強いからである。その力の源はお金のようだ。
日本はWTOで「逆転敗訴」した。
 「スイスのジュネーブにあるWTO(世界貿易機関)の上告委員会は、現地時間の4月11日午後5時過ぎ(日本時間12日深夜0時過ぎ)、韓国による日本産の食品輸入禁止措置を「不当とは言えない」とする最終判断結果を発表した」と新聞は発表している。1審は日本の完全勝利だったが最終審で日本は敗訴した。この紛争はもともと、2011年3月の福島原発問題で、世界54カ国・地域が、福島県産食品などに輸入禁止措置を取ったことに端を発する。各国・地域はその後、規制を緩和していったが、当時の朴槿恵政権は、日韓関係の悪化の影響もあって、2013年に逆に規制を強化。福島、青森、岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、千葉の8県産のすべての食品や水産物に拡大したのだった。
 これを不当とする安倍晋三政権は、2015年に、韓国をWTOに提訴。昨年2月に1審にあたる紛争処理小委員会は、「韓国の輸入規制はWTOルールに違反する」として、韓国に対して是正勧告を出した。完全な日本の1審勝利だった。
 韓国はこれを不服として、2審にあたる上級委員会に上訴した。そして今回は、韓国が「逆転勝訴」したのである。今回の発表がWTOとしての「最終判定」にあたるため、30日以内にWTOの全加盟国会合で示されて採択、確定することになる。
 この結果に、韓国は12日、まるで鬼の首を取ったようなお祭り騒ぎとなった。文在寅政権からマスコミ、市民団体まで、これまでの日本に対する鬱憤を晴らすかのように、「WTO判定」を祝ったのだ。
久々に韓国が「国際的に」日本に勝利?
 例えば、『CBSノーカットニュース』は、「朴槿恵政権の『疑問の1敗』に痛快な復讐・・・『WTO2審 神の一手』」という大仰なタイトルで、次のように報じた。
<韓国が日本の福島産の水産物に、輸入禁止措置を出していることに対するWTOの貿易紛争で、逆転勝訴した。それに対するわが国民の歓声が、さらに一層熱くなっている。
 日本では今回の判決が「神の一手」だとして、わが政府の対応を激賛している。判決前までは、日本メディアは勝訴を確信していたようで、勝訴した後の計画についての報道まで出ていたほどの状況だった。それがこのようなことになった。
 日本の『産経新聞』は11日午後、「輸入再開の決定が出て、日本の勝訴となる公算が高い」と予測。「輸入禁止措置の是正勧告が出れば、韓国側は15カ月以内に輸入禁止措置を解消しなければならない。韓国が是正措置を取らない場合、日本は被害額までの関税引き上げを要求できる」と報道していた。
 しかし、日本の敗訴の結果が出るや、『朝日新聞』は12日午前、「勝訴に力を得て、他国・地域にも輸入規制の緩和を要求しようとしていた日本の戦略にも、影響を及ぼすことになる」と報道した。
 韓国が敗訴した場合、韓国の例を根拠にして、他国にも福島産の水産物の輸入を要求しようとしていた計画は、挫折が生じたのは確かなようだ>
 文在寅政権がこのところ、異常な反日攻勢を行ってきたのは、周知の通りだ。だが、慰安婦財団解散、旭日旗掲揚拒否、レーダー照射、徴用工判決、天皇への謝罪要求・・・と、ことごとく国際的には「失笑」を買ってばかりだった。それが今回、久々に「国際的に」日本との争いに勝利したのである。
 冒頭の朴記者が続ける。
「折からの経済悪化によって、週末のソウルといえども、いつもは暗い雰囲気なんですが、12日の晩はレストランも飲み屋も、『対日勝利の乾杯』に沸いていました。
 韓国で誰よりもホッとしたのが、文在寅大統領だったと思います。重ねて言いますが、WTOの『判決』とほぼ同時刻に、ホワイトハウスで行われていたトランプ大統領との韓米首脳会談は散々で、文大統領が帰国後、国会で糾弾されるのは目に見えていました。それがこの思わぬ『対日勝利』によって、『文大統領はワシントンでは失敗したけど、まあ許してやるか』という感じになっているのです」
いまだ23カ国・地域が輸入禁止措置
 ともあれ、日本はなぜ「逆転敗訴」したかということを、きちんと総括し、反省してみることが必要だろう。「日本勝訴」の1審が覆ったのだから、日本側にも何らかの戦略ミスがあったに違いない。12日には、菅義偉官房長官も河野太郎外相も、「負け惜しみ」のような苦しい弁解をしていたが、あのような態度は、とても格好いいものではない。
 実際には、福島原発事故から8年を経ても、いまだに韓国だけでなく、23カ国・地域で輸入禁止措置を取っているのだ。
 例えば、近隣諸国・地域を見ても、台湾は、昨年11月に住民投票を実施し、「福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産の食品は最低2年間、禁輸を継続する」という決定を行っている。中国は、福島、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、新潟、長野の1都9県の食品の輸入を全面的に禁止してきた。昨年10月に安倍首相が訪中した際、改善を要求。中国側は見直しを約束したが、昨年11月28日に、中国人に人気が高い新潟米の輸入を解禁したのみだ。
 各国・地域に輸入禁止を解除してもらうには、政府としてのもっと積極的な対策が必要だ。
 生産者や漁業関係者には厳しい状況が続くが、消費者の立場に立てば、福島近海のホヤも、会津産の銘酒も、値段が吊り上がらず、他国に渡さずに日本人がしこたま味わえる。考えようによっては、悪いことだけではない?
以上のように右田早希氏は報じている。

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