醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  1038号  白井一道

2019-03-27 14:45:01 | 随筆・小説


 かのように

侘助 『かのように』。森鴎外の書いた短編小説をノミちゃん読んだことある。
呑助 高校生のころ、読んだような記憶がありますが、何が書いてあったのか、全然覚えていませんね。
侘助 森鴎外はドイツに留学しハンス・ファイヒンガーの著書『かのようにの哲学』を読み、懐疑することを学んだのだと思う。
呑助 疑うということですか。
侘助 ヨーロッパ大陸の哲学はデカルトに始まると言われているからね。デカルトの哲学は懐疑主義だからね。
呑助 何を疑ったのですか。
侘助 「もの」の存在ということが究極的なことだった。
呑助 「もの」の存在を疑ったということですか。
侘助 鴎外が書いている。「物質と云うものでからが存在はしない。物質が元子から組み立てられていると云う。その元子も存在はしない。しかし物質があって、元子から組み立ててあるかのように考えなくては、元子量の勘定が出来ないから、化学は成り立たない」とね。
呑助 昔、聞いた話です。花は存在しないという話です。存在しているのは個々の花そのものであって、一般名詞としても花は存在しないということを聞いたことがありますね。
侘助 森鴎外が書きたかったことは、神話の存在だった。神話は存在したのか、どうかということだった。
呑助 『古事記』に書いてあることは本当のことなのか、それともウソなのかということですか。
侘助 明治政府は天皇を神聖化するため、神話の存在を実話だと宣伝していたからな。
呑助 森鴎外自身が神話の実在を疑ったということなんですね。
侘助 「ある思想が真理ではなく正確でもない、つまり虚偽であると分かっていたとしても、それだけでその思想が実践的に無価値で役に立たない、ということにはならない。なぜなら、このような思想は、理論的には無価値ではあるが、実践的には大きな重要性を備えているかもしれないからである」。このようなことをファイヒンガーは述べている。ここに鴎外は救いを求めて明治政府の高官としての地位を保ったということだと思う。
呑助 神話は事実ではなくても日本国を統治していくうえで実践的に価値ある神話だということですか。
侘助 森鴎外は神話の実在を懐疑したが、実践的な意義を認め、神話を容認した。
呑助 鴎外は明治政府の現実を受け入れたということですね。
侘助 今、マルクスの思想は死んだかのような言説が流布している。しかし生きている。と、私は考えている。
呑助 ソ連の崩壊が社会主義の崩壊、マルクス主義の死のような雰囲気が今の日本にはあるように感じますね。
侘助 マルクスが解明した資本主義経済の本質は普遍的な真実だと思う。資本主義経済制度や資本主義的な政治制度もまた歴史的な存在だと言う主張も真実だと思う。
呑助 封建的な経済制度が歴史的なものであったようにですか。
侘助 農業が産業の主体であった時代の経済制度が封建制度であった。産業革命によって人間社会の産業の主体が農業から工業に変わった時の経済の仕組みが資本主義だ。工業生産が主体である社会では資本主義経済が適応しているが産業の中心が工業から情報産業になると資本主義経済では対応できなくなると考えているんだ。
呑助 情報産業は急激に成長するようですね。
侘助 gafaかな。二十年しない内に世界的な巨大企業に成長したからな。
呑助 インターネット関連企業ですね。再生可能エネルギー産業でしようか。太陽光発電は今や、一キロワット一円ぐらいで供給できるようになってきているらしいですからね。
侘助 中国の経済力はすでにアメリカを追い抜いている。IMFが2014年に平価ベースでは中国はアメリカを追い抜いている。自然エネルギーと情報産業が主体になる社会はきっと資本主義ではなく、社会主義経済になるのではないかと思うな。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿