杭州は僕のお気に入りの街だった。合計すれば少なくとも一カ月以上いたことになる。その杭州も日本軍は8年占領していた。嘉興にいたっては12年間の占領だ。ほぼ朝鮮支配の3分の1の期間だ。ところが人々は、飯(カネ)をくれるなら支配者はだれでもいいと考えている感じをうけた。
意外だろうが、上海以外では中国人の愛国心のなさに驚く。軍閥だ国民党だ共産党だ日本軍だ。こりゃ普通分からなくなんねえかい。僕は杭州や嘉興の普通の人の考えに同意する。日本では、グダグダ言うまえに、高速道路はタダにしたのか、児童手当は、天下りは。日本はウソつきが政治をしてひどい目にあった。こんなのが入れ替わり立ち替わり打ち上げ花火のようにスローガンを掲げて人民を利用しようとする。政権を信じなくなるのは当たり前だろ。安倍を信じるネトウヨが哀れだ。
中国の普通の人々をほめる気はない。政権がでたらめでもそれは自分がでたらめであることの言い訳にはならない。不誠実さは韓国人に負けていない。ということは世界最高だ。それでも自分のおかれた位置を把握し何とか状況改善の努力をしようとする姿を大勢の人に感じた。
それはまるで、深海魚のようにただ口をあけて努力もせず、いい話をじっと待っている韓国人よりは希望がある。
上海の影響がだんだん強くなってきてその分嫌いになってきたが、ゆっくりと時間が流れ、国家権力を信じない人たちがいる。僕は彼らの味方だ。
あ、また前置、ながすぎた。
そんなに旅行ばかりしてからけんはいったい何をしているんだ。と言われそうだ。やや大きな御世話だが、それに対する僕の言葉はこうだ。不愉快をこらえいくばくかの収入を得る、それは早死にや病気や自殺に一目散に駆けて行っている。不愉快なところにしがみつくほかない人間に高い給料を払うはずない。離れられないのは弱虫だからだ。たまの休みのオイル交換を楽しみに生きるしかなかろう。いなくてもいいような人間は貧困から脱出できない。
仕事が楽しいという人にも言いたい。そんならなぜ女房と結婚した。女房は大迷惑だ。仕事と結婚しろよ。
というような鼓動を早める話とは隔絶して西湖の船は湖面を滑った。櫓をこぐ人が櫓を止めて時折胡弓を弾く。対岸がかすむ広い湖面に波はない。湖の深さはわずか3m。長さ5メートル程度の平底の船に茣蓙が敷いてある。人間はニュートリノをいろいろいじって過去に行こうとしなくてよい。彼女に膝枕をしてもらい船底に寝そべると、両舷が風を遮断して胡弓の調べだけの世界が広がる。たやすく千年の過去に行ける。
今日は小倉の街まで病気見舞いに行って、帰りは直方(のおがた)という町にあるAEONで杭州定食というのを食べて来たばかりだ。1300円もしたので二度と食べない。エビが山盛りになっていたのでいやおうなく運河のエビ地獄を思い出した。
下馬飲君酒 問君何所之
君言不得意 歸臥南山陲
但去莫復問 白雲無盡時 王維
馬を下りて君と酒を飲む 「どこに行くんだい」
「うまくいかなかったんだよ」 「南山のふもとに帰って落ち着くつもりだ」
「ただ去るだけさ、もう聞かないでくれ」 白い雲が尽きることなく流れる
多分うまくいかなかったのは科挙の試験でしょう。僕たちはたいていこの「君」のようにうまくいかない方の人間なんですよね。最後の白雲に希望を感じます。専門外ですので誤りがありましたらご容赦ください。