はるか昔、虎がたばこを吸っていたころ。
朝鮮の昔話の出だしはこういう文句で始まる。
まさに虎がたばこを吸っていたころ、僕は中学生で工作好きの少年だった。じーちゃんに叱られながら一台の大きな充電器を作った。僕の工作力が低かったので10アンペア以上流すなと言われた。
トランスがバカでかい。ダイオードもたばこ一本の大きさだ。電流を大きく狙ったので半田付けが効かないところが多い。メーターはじーちゃんが職場からこっそり持ってきてくれた。それがまたでっかい実験用だ。一種類しかなかったので苦心して電流・電圧計に改造した。
ビス・ボルト穴は手動のドリルで開けた。リーマで穴を広げるとき、手の皮膚は破けた。完成して早速バイクのバッテリーに充電し、ニュートラルランプが明るく輝いたときのことは昨日のようだ。
何年かするとICが簡単に手にいるようになったので改造を加え使いやすくした。ダイオードも最初はセレンだった。ファンもなくパイロットランプもなく、当時はずいぶん危ないことをしていた。
こいつは素晴らしい兵隊だった。少々の無理な電流にも電圧にも不平を言ったことはない。ヒューズ一本切れたことはない。コーヒーをこぼされたり、ときには高いところのものをとるのに踏み台にされた。何一つ不満を言わなかった。
ただこの充電器には根本的欠陥があった。重い。
もういくら何でも限界だなと考えた僕は思いきって捨てることにした。トラックのバッテリーより重いなんてなんか変と感じてきた。
ホームセンターに行って驚いた。10アンペア程度でいいなと思って価格を見ると一万円もしない。しかもMADE IN CHINA。この値段じゃあ日本の工場もやってられないだろうな。
スイッチングになっているのでトランスは小さい。なるほど高周波にすればトランスは小さくなる。その重量差は20分の1だろう。すこしバラして中身を見た。さすがに合理的に設計を組み上げた回路だ。プロの香りがした。日本人の仕業だ。
買うと楽だな。ただ僕はその分だけ馬鹿になった。虎がたばこを吸っていたころ、僕は頭を使って楽しんでいた。
帰りに知り合いの車屋で馬鹿話でもして帰ろうと思った。幻滅することを言いやがったのでもう二度と行かない。
皆さんバッテリーは使い捨てですよ。
そんならエコやらほざくな。