
市内から少々離れた住宅地なので、うっかりすると昼食難民になりかねないと、地元野菜を使って夫婦が切り盛りするカフェを予約しておいた。最初の写真がその「成果」。お店にはご主人がこだわって集めた山道具も売られてた。修学院離宮を見学して修学院で育った野菜を頂く、味も献立も含めてなかなか良いチョイスであった。
お昼を食べ、徒歩で修学院駅まで。途中全国高校駅伝大会に出くわした。高校でもアフリカからの留学生(我が家では「飛び道具」と呼んでる)のいるチームが上位に入るんだねって、何だか複雑な気持ちになりつつ、叡山鉄道本線に乗って出町柳へ行き、そこからは京阪本線で七条に向かった。主人の希望で三十三間堂へ。夫婦でも2度目の訪問、主人は何度来たかわからないという。ただ今回こそは、自分に似た観音様を見つけたいんだと。
ゆっくり歩いて、国宝風神雷神、観音二十八部衆像とその後ろの観音様をじ〜っと見て「あの人〇〇さんに似てる」「この人××さんみたい」と、十一面千手千眼観世音を見て歩く。毘沙門天の右後ろの千手観音の顔が、一番主人に似てると思った。主人にそう伝えると「ほんとだ」。全ての観音様を見終えて裏に回ると、観音様のお顔と名前を確認できるタッチパネルがあった。誰かが合唱コンクールに出た我が子を探すような感じ、って言ってたけどまさにそんな感じ。目視できるのは4列目くらいまでだから、その後ろのお顔を探すには文明の利器頼み。
それにしても、あれだけ長時間いたのに、三十三間堂内は撮影禁止なので見事に何もない(笑)。

出てきて外から建物だけでも、とパチリ
お隣の智積院に向かう。空海から始まる真言宗智山派の総本山。三十三間堂を出て七条通を右に向かえば、すぐだし、智を積むなんて賢くなれそうじゃん?みたいな安直なご利益を求める気持ちがむくむくと湧いてきて、おまけに利休好みの名勝庭園があるといわれれば「利休つながりがどこまで?」的な興味も出るってもんだ(笑)。

東大路通に面した総門

利休好みの庭と伝えられる名勝庭園

収蔵庫にあると思いきや、大書院でご対面の長谷川等伯
実は、現在サントリー美術館で「京都・智積院の名宝」展をやっている。初の寺外公開だそうである、要するに今智積院にあるのは精密複製画。長谷川等伯一派による艶やかな障壁画は東京で実物を見るべく、チケットはすでに手配してある。本来ここにあるべき障壁画はこれだったのね〜と思って、年明けに美術館で本物を観ることになる。

松に黄蜀葵図

松に黄蜀葵図の左、松に秋草図

桜図
桜図は、当時まだ25歳だった長谷川久蔵の大胆な構図。2本の桜を中心に据えて、八重桜が咲き誇る様子が描かれれている。26歳の若さで急逝した翌年、哀しみの中で父の等伯が描いたのが下の楓図。

楓図
1月22日までサントリー美術館で公開中なのは、「楓図」、「桜図」、「松に黄蜀葵(とろろあおい)図」、「松に秋草図」、「松雪図」(全て国宝)など。ここでこうやってみたことで、少々謎は残りながらも本物にお目にかかるのがさらに楽しみになった。講堂の襖絵も素晴らしかった。そちらは田淵俊夫の作品、夫婦して「素敵だね〜」「本当に水墨画?」などと言いながら鑑賞した。今回初めて知っていいなぁと思った画家の一人だ。
この日は帰りの新幹線に合わせて17:30に夕食の予約を入れていた。逆算すると、まだ随分時間がある。前日京都に向かって新幹線で移動中に、あたしが京都に行くことを知っている友人から「kebaが山陰に行ってる時に京都に行ったけど、三十三間堂・智積院・建仁寺がよかった」とLINEが来ていた。智積院からの距離と残った時間からして、行けるじゃん!と性懲りも無く(笑)タクシーを拾った。
建仁寺は臨済宗建仁寺は大本山、京都最古の禅寺、開山は栄西禅師。中国から茶種をもたらし日本に喫茶を広めた茶祖栄西、またも茶繋がりである。

入ってすぐのところに俵屋宗達筆 風神雷神図屏風の精密複製画
いかにしてこの複製画を作成したか、近くに置かれたテレビ画面でビデオ映像がエンドレスで上映されていた。日本画は褪色が早いので、展示できる期間が限られる。ケースの中で湿度や温度をしっかり管理して展示される美術館の場合でも、半年展示して2年休ませる、といったインターバルを設けている。海外の日本美術を扱う美術館でも、日本に倣って同様の展示を心がけていると聞いたことがある。国宝と重要文化財には60日ルールというのがあるので、その展示・管理はさらに厳しい。大きな障壁画や屏風をそんなふうにお寺で管理ができるはずもなく、国宝指定されていればなおさら、博物館に寄贈したり保管をお願いしているものが多い。そうして美術館に行ってしまった障壁画の後を守ったのは、今まではそこそこの複製画だったかもしれないけど、最近の複製画は本当によくできている。Artって芸術を意味するし、技・技術という意味もある。Artという言葉が持ついろんな意味合いが融合して出来上がったのが、先人の芸術の才、デジタル技術、現代人の技を結集させて再現した精密複製画なのかもね。さて建仁寺、来てよかった!

○△□乃庭
単純な三つの図形で宇宙の根源的形態を示し、禅宗の四大思想である地・水・火・風のうち、□で地を、○で水を、火を△で象徴したものと言われる。ちなみに三角は写真では分かりにくいけど、一番向こうの廊下の下の砂の切り方が三角形になっているのじゃ。

潮音庭
苔地に映える紅葉は、見頃の頃に来たらさぞかし美しかっただろうと思う、本坊の中庭。中央のストーンヘンジみたいなのが、三尊石と呼ばれるもので、ブッダと二人の禅僧を表す。その束には坐禅石、その周囲に紅葉が配置されている、枯淡な禅庭。素敵だ〜っと、しばし佇む。

方丈の前庭の大雄苑の波模様好きだな〜、と壁の向こうに法堂

方丈礼の間に描かれた雲龍図は海北友松(かいほうゆうしょう)の筆

今回、海北友松という室町時代の絵師を知った
ちなみにこれらも皆複製画で、重要文化財指定された衣鉢の間の「琴棋書画図」、旦那の間の「山水図」、室中の「竹林七賢図」、書院の間の「花鳥図」、そしてこの「雲龍図」は、京都国立博物館に寄託されているようだった。常設展示はしてないだろうけど、機会があったら是非京博で本物を観たいと思った。
友松は、近江国の大名浅井家の重臣の家柄に生まれたものの、幼くして父と兄を戦で失ってしまう。難を逃れて狩野派に師事して絵師となった、という経歴。とはいえ狩野永徳などに比べると知名度が・・・。一番有名なのがこの雲龍図、これ以外にも北野天満宮などにも著名な作品を多く残しており、作品の中には海外に流出して美術館のコレクションに加わったものもある。この雲龍図は横に広い画面、そこにダイナミックに描かれる龍と、掴みどころのない雲のさま。その魅力に圧倒された。

法堂には小泉淳作による「双龍図」
北海道にある廃校になった小学校の体育館を使って、構想から2年の月日をかけて書かれた大作。ただ、海北友松の「雲龍図」を見た直後の目には、筆遣いが短調で全体的にのっぺりした印象になっちゃうのは気の毒である。
そういえば、細川護煕氏の瀟湘八景図全24面の襖絵も展示されていた。建仁寺の塔頭の一つの正伝永源院が細川家の菩提寺である縁から、開山御生誕880年を記念して襖絵の奉納となったという。政界引退後、陶芸や書道などの創作活動をなさってることは知っていたけど、多くの画家が描いてきた「瀟湘八景図」というモチーフに挑戦し、このような作品に仕上げるほどの腕前の方とは知らなかった。

漁村夕照

洞庭秋月(の一部)
最後の2枚は家庭画報の京都2021/06/11より
というわけで、桂離宮に行きたい!に始まった冬の京都旅は海北友松と田淵俊夫と細川護煕という、今まで知らなかった絵師の作品に出会って終了したのであった。
この後は、再びタクシーで京都駅付近まで。タクシーの運転手は、いけずは最初の一人だけで、2勝1敗の戦績。駅近くの和食の店で夕食を済ませて荷物をピックアップし、20:01の新幹線で帰京。玄関扉を開けて、キャットシッターさんにお手伝いいただきつつ、留守を預かってもらっていたケバさんに「遅いじゃないの〜」と迎えられた。今回は文句が多い旅行記になってしまって反省している。が、来年もまた楽しい旅行ができるよう、よく働きよく遊び、元気に過ごしたいと改めて思った二日間だった。
みなさま、どうぞ、佳いお年をお迎えください。
何か食べた記憶はある。
中の会館で食べたのかな。
襖絵やら見ないとダメじゃん、私。
というわけで、また見るべき場所が増えました。
kebaさん、よいお年をお迎えください。
比較的近くにお住まいの方は贅沢ですよね、
東京から新幹線だとあくせく色々見ちゃう
それでもかなり絞って入るつもりなんですけどね。
来年も行っちゃうぞ〜
みどりさんこそどうぞようお年を