今日のうた

思いつくままに書いています

日本戦後史論 1

2015-06-15 16:03:31 | ⑤エッセーと物語
内田樹さんと白井聡さんの対話集『日本戦後史論』を読みました。
ちょうど私と娘の年齢に当たるお二人が、堂々とご自分の考えを語っていて
読んでいて清々しかったです。
内田さんはフランス現代思想が専門、白井さんは政治学・社会思想が専門。
お二人とも人間の心の奥底にあるものを言語化して戦後史を語っているので、
歴史家とは異なるスタンスで楽しめました。
これまで私がもやもやと感じていたものの正体が、この本を読んである程度は理解できました。
自分なりの答えを、この著書の中から引用させて頂きます。どなたの説かが分かるように
後ろのカッコにお名前を入れました。(敬称略)

(1)もやもやその1
 自国よりアメリカを優遇する安倍首相は、本当に愛国者なのだろうか。
 右翼と呼ばれる人たちは、どのような理由から安倍首相を支持しているのだろうか。

A:政治哲学の世界では、「愛国主義」(パトリオティズム)と「愛国心」
 (ナショナリズム)の2つがある。
 「愛国主義」(パトリオティズム)は、「自然なもの」、「下から」つまり、
 「民衆の生活から自然に湧き上がる郷土へ愛」がそのまま拡大したもの。善きもの。
 「愛国心」(ナショナリズム)は、「操作されたもの」、「上から」つまり、
 「国家のエリートが作為的につくり出し、民衆に押しつけることで彼らを
 時の政府に対して従順にさせ、他国民への傲慢(ごうまん)な優越感を
 植え付ける企(たくら)み」。悪しきもの。
  「愛国心は、ならず者の最後の避難場所である」という有名な警句がありますが、
  これは後者の意味での「愛国」を指したものと考えられます。
  愛国心をかさに着たならず者が、政府に従順でない人々を非国民・売国奴呼ばわりし、
  したい放題をするという光景は、洋の東西を問わず、数多く観察されるものです。(白井)

(政権と反対の意見を言うと、「反日」とか「アカ」と書かれているのをよく目にする。
 これでは何も言えない国になってしまう)

  戦後の日本人はついにナショナリズムを徹底できなかった。左翼はナショナリスティックに
  見られることを神経症的に忌避してきたし、右翼は中韓に対しては排外主義的に
  振る舞うけれど、アメリカにおもねるというダブルスタンダードを採用して平然と
  している。だいたい、外国の軍隊が国内に永続駐留している事態を右翼が別に
  「恥」だと思っていないということは日本以外の国では理解不可能でしょう。
  本来なら、右翼が反米・反基地闘争の先頭に立っているはずです。
  左翼が反米で、右翼は親米。…日本にはナショナリストがいないのです。
  外国軍の基地が国内に半永久的に存在することを「変だ」と感じない人たちを
  僕はナショナリストと呼ぶことはできません。(内田)
  
(2)もやもやその2
 なぜ日本は太平洋戦争の総括をしたがらないのか。また、戦時中は「鬼畜米英」と
 憎んでいたアメリカに対し、戦後はなぜこうも急接近していったのか。

A:戦争を知っている第一世代、戦中派は敗戦経験の本質を隠蔽してきた。
  これは確信犯的にやってきたことだと思います。一つにはあまりにみじめな敗戦で
  あったので、その事実を受け止め切れなかった。
  「なぜ負けた?」という問いは、どこかで「次は勝つ」というマインドと接合します。
  「次はアメリカに勝つ」ためにという真剣さがなければ「なぜアメリカに負けたか」という
  問題は前景化しない。でも、戦中派には「次は勝つ」という気分は
  まったくありませんでした。
  ナショナリストたちにさえまったくなかった。だって、右翼の巨魁(きょかい)たち
  【※註①】は次々とCIAのエージェントに採用されてしまったんですから。
  「負けてよかった」という楽観的なマインドと、「なぜ負けたか」を追求する
  主体がどこにもいなかったという現実の帰結として、敗戦経験を正面からクール
  かつリアルに総括するという事業が70年にわたってネグレクトされてきた。…
  でも、いくら「なかったこと」にしても、現に「あるもの」はそこにあり続ける。
  日本は敗戦の経験を正面から引き受けることを怠ったために、アメリカの従属国で
  ありながら、主権国家のようにふるまっているという自己欺瞞(ぎまん)から
  抜け出せないでいる。(内田)
  
  EUの要をなす同盟国ドイツとフランスが過去150年の間に3度(
  普仏戦争、第一次、第二次大戦)も凄惨な殺し合いをしてきたことを思い出してほしい。
  イギリスは「アメリカに勝てない」と思って従属的に同盟関係を結んだわけではないし、
  ドイツは「フランスに勝てない」と思って従属的に同盟関係を結んだわけでは
  ありません。それぞれ「次は勝つ」方途を探しているうちに、
  「同盟関係を結ぶ方が戦争するより国益に資す」という政策判断を下したから
  そうしたのです。
  だから、この同盟関係は堅牢なのです。日米同盟はそれに比べるとはるかに脆弱です。
  「日米同盟以外はあり得ない」と言い募っている人たちはその外交関係が日本が
  従属国であるから「しかたなく」選択されたものであって、主体的に選び取られた
  ものではないということから目を逸らしている。主体的に選び取られていない
  外交関係にどれほどの信頼が置けるか、少し考えてほしいと思います。
  「次はアメリカに勝つ」ということを国の根本に据えた上での同盟関係であれば、
  アメリカとの同盟関係はずっと深みのあるものになっていたでしょうし、
  戦争経験の総括も、隣国に対する戦争責任の引き受け方も筋目の通ったものに
  なっていたでしょう。(内田)

  2013年に広島で行われた講演会で、アメリカの映画監督のオリバー・ストーンが
  「日本はアメリカの衛星国(satellite state)であり、従属国(client state)である」
  と断言しました。日本の政治家はかつていかなる大義名分を代表したこともないとも
  言い切りました。アメリカの政策に追随する以外に、国際社会に向けて発信する
  いかなる構想も持っていない国だ、と。でもこのスピーチを日本の新聞は
  どこも報道しませんでした。
  もし新聞社が「それは日本に対する侮辱だ」と思うなら、記事として取り上げてきちんと
  反論すべきでした。でも。無視した。
  そんな話は「なかったこと」にしようとした。世界中の国が日本はアメリカの
  属国だと思っていて、日本だけが自分は主権国家だと思っている。
  このような奇妙なことになったのは、すべて70年前の敗戦の総括が
  できていないことに起因するだろうと僕は思います。(内田)

  第二次大戦では中国もソ連も戦勝国で、日本は敗戦国なんだけれども、どうも負けたように
  見えない。圧倒的にわれわれの方が良い暮らしをしているという状態ができたからです。
  さらに状況が大きく変わったのはソ連の崩壊でした。ソ連が崩壊してしまうと同時に、
  日本はアメリカから見て、助けてあげるべきパートナーから収奪の対象に変わった。
  アメリカは基本的にアメリカの国益しか考えないのですから、
  こうした変化は当然のことです。(白井)

  戦死者300万人のうち200万人は最後の1年で死んでいます。国体護持という言葉は
  何やら荘重な響きがありますが、内実は、支配層の自己保身を言い換えただけに
  すぎません。
  日本の支配層は、自分たちの保身のために自国民、それも前途ある若者を中心に200万人
  も見殺しにした。今回のTPPでも同じことをやるでしょう。彼らは自己保身のために、
  日本の有形無形の富を、最後の一片に至るまで切り売りするつもりでしょう。(白井)

【註①】
岸信介も、賀屋興宣も、正力松太郎もCIAの協力者リストに名前があがっている。
アメリカは公文書を開示してくれますから、日本人自身がどれほど隠蔽しようとしても、
外から情報が漏れてきてしまう。岸と正力がCIAのエージェントだったということを知れば、安倍晋三と読売新聞がつるんでいるという政治的絵図は1945年から変わっていない
ということがわかります。
特定秘密保護法を安倍政権が必死に制定しようとしたことの理由の1つは2007年に
アメリカの公文書が開示されて、自分の政治的出自が明らかにされたことに対する
怒りがあるんじゃないですか。(白井)

岸信介がCIAのためにどういう活動をしていたかなんていうのは、安倍晋三がいる限り
日本では資料公開されないでしょう。
占領下の日本人がどうやってアメリカに協力していったのか。占領期における対米協力の
実相というのは僕たちが「対米従属を通じての対米自立」という戦後の国家戦略の適否を
仔細に分析しようとしたら避けて通ることのできない論件なんです。
それがわからないと現代日本のかたちの意味がわからない。
ぜひ心ある歴史学者にやってほしい仕事なんですけど。(内田)
2につづく

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