今日のうた

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ひこばえ

2020-08-07 16:47:50 | ③好きな歌と句と詩とことばと
重松清著『ひこばえ』を読む。
朝日新聞に連載されていたことは知っていたが、読んだことはなかった。
以前、彼の小説『とんび』をTBSがドラマ化し、内野聖陽と佐藤健が
親子を演じていた。
幼少期を演じていた子役があまりにも可愛く、母親を早くに亡くして
親子が健気に生きている姿に、なんど涙したか分からない。

『ひこばえ』は、小2の時に別れて音信不通になった父親と、主人公が
55歳の時に対面する。父親は引き取り手のいない遺骨になっていた。
そこから、殆ど記憶のない父との思い出探しが始まる。
細やかな記憶を手繰り寄せ、少しずつ父との思い出がよみがえってくる。
人情の機微を描くのが実にうまい。この小説でもなんど涙腺を
刺激されたことか。

だが下巻になると少しずつ息苦しさを感じるようになった。
お金にだらしのない父親が、どこでもトラブルを起こしていたことが分かる。
離婚理由も、お金に対するだらしのなさが原因だった。
その父親を周りの人たちは、無償の愛で受け容れていたことも分かる。
登場人物の多くが善人なのだ。
それにあんなにお金にだらしのなかった父親が、500万ものお金を通帳に
残していた。決して子どもたちに遺したのではなく・・・。

父親は優しい人たちに囲まれて最期は幸せだった。
私がへそ曲がりなのかもしれないが、父親の周りの人たちや主人公の周りの
人たちがみないい人過ぎて、不自然なものを感じ、ついていけなかった。

それと一つ気になったのは、「ひこばえ」という言葉の多用だ。
明鏡国語辞典によると、ひこばえ=木の切り株や根元から生え出る若葉。
「孫(ひこ)生え」の意、とある。
生命体としてのみならず、いろいろなものが子や孫に受け継がれて
いく意味に使っている。
主人公がその都度、「これもひこばえ」、「あれもひこばえ」と指摘する。
読者が「ひこばえ」と気づく余地を残しても
よかったのではないか、と思った。

心に残った言葉を引用させて頂きます。

「悲しさには、はっきりした理由やきっかけがあります。病気で言えば、
 急性のものです。でも、寂しさは慢性なんです。
 ふと気づくと、胸にぽっかり穴が空いていて、いつの間にかそれが
 当たり前になって、じわじわ、じわじわ、悪化していって・・・・・・」

「親子っていうのはたいしたもんだ。親が死んでからも子どもには
 思い出が増えるんだ。いまみたいに」

「・・・・・・はい」

「いなくなってから出会うことだってできるんだ、親子は」   
 (引用ここまで)

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