Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

『イジー・トルンカの世界Ⅱ』

2009-01-24 01:04:07 | アニメーション
収録作品は、「悪魔の水車小屋」「二つの霜」「電子頭脳おばあさん」「天使ガブリエルとガチョウ婦人」の4作品。なお題名は記憶に頼って書いているので、実際とは微妙に違っているかもしれません。あしからず。

一番おもしろかったのは「二つの霜」です。子供のためのお伽噺のような内容で、とても単純かつユーモア溢れる好編です。(たぶんチェコの)冬の森に、二人の擬人化された霜たちが、自分たちを厄介者呼ばわりする人間たちを困らせてやろうと画策し、折りよく橇に乗ってやってきた二人の男たちの元へ飛び立ちます。二人の霜は二手に分かれて、一方は太った男を、一方は老人を寒さで凍えさせてやろうとしてあの手この手で攻め立てます。霜の姿は人間には見えないので、鼻をつまんだり、オーバーの中に入り込んだり、好き勝手に悪さをします。太った男はまんまと風邪を引いてしまいましたが、老人は霜の攻撃を軽々と払い除けてしまい…

霜の姿はセルで描かれ、半透明で白っぽく、絵本に出てくるお化けみたいないでたちをしています。一方人間たちは人形です。二つの手法を一つの作品で混在させるのは消して珍しくはありませんが、この場合はそれが見事にはまっていて、実に心地良い出来。傑作とか大作とか大仰な形容は似合わない小品ですが、当DVDの収録作品の中ではぼくは一番気に入りました。

さて、残る三作は、いまいちストーリーがよく掴めませんでした。「水車小屋」と「ガブリエル」は大まかなところは分かりますが、「電子頭脳」はさっぱりです。「水車小屋」のあの手回しオルガン(?)も謎めいていますし、「ガブリエル」は前半がはっきりしないのですが(後半になってストーリーが見えました)、「電子頭脳」は最初から最後まで皆目分かりませんでした。少女がおばあさんと写真を撮っていて、二人はそのうち奇妙な建物に入り、おばあさんの操作した機械によって少女は未来世界のような場所へ旅立ち、そこで少女の祖母と名乗る電子頭脳を備えた椅子と出会い、最後はまた最初のおばあさんが現れて少女と共にいずこかに消えてしまう…という筋立て。少女の乗る透明な乗り物は超現代的な先端技術を感じさせて、この作品の見所の一つなんだろうと思いますが、それが一体なんなのかが分かりません。ストーリーが分からない小説や映画なんていくらでもあるような気がしますが、それはそれで別の取り得はあるものですけれど、この「電子頭脳」はおまけに少々退屈で、ぼくにはちょっと…合わないようです。

「悪魔の水車小屋」はその題名から「クラバート」を想像したのですが、そうではなく、手回しオルガン(?)奏者が水車小屋に現れた悪魔を退治する話。妖精か何かにもらった道具でそれを成し遂げるのですが、どういう経緯で妖精から援助を得られたのかが分からないので、いまいちしっくりこない物語です。

「ガブリエル」はこの収録作品の中ではたぶん一番はっきりとしたストーリーがある、一編の短編小説を読んだ後のような余韻に浸れる物語です。はっきりとしたストーリーというのは中盤からそれと分かるので、前半はぼんやりと画面を見ていることになるのですが、その分後半は物語のおもしろさを味わえます。とはいえ、これは誰もがどこかで聞いたことがあるような話であり(ひょっとして何か有名な話をアニメーション化?)、また非常に不気味な内容でもあるため、あまり楽しめる作品ではありません。不気味さというのはもちろん内容もさることながら、主人公の男の顔の醜さが大きな役割を果たしています。トルンカが用いているのはもちろん人形なのですが、その造形がおどろおどろしくて、思わず顔を背けたくなるほど。容貌の醜さが作品全体の不気味さに繋がるということを、江戸川乱歩の大傑作「人間椅子」にぼくは教えられたのですが、この「ガブリエル」でも顔はそのような効果を生んでいるようですね。さてこの物語は、さる男が聴聞僧(?)になりすまし、信心深い美しい婦人に近寄り、天使ガブリエルに化けて臥所を共にしようと奸計を巡らす話。滑稽譚にも塑像できそうな素材ですが、実際には不気味で悲劇的なものに拵えられています。

コクトーに絶賛されたように、トルンカはものすごく高い評価をかちえていますが、ぼくにはいまいち彼の真価が見えてきません。とりあえず今度『イジー・トルンカの世界Ⅲ』も観てみるつもりです。