Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

中上健次『十八歳、海へ』

2009-12-09 00:00:43 | 文学
中上健次の初期作品集『十八歳、海へ』を読了。
これは作家が高校時代に書いていた作品から、23歳の頃に書いていた作品までを集めたものらしい。収録作品は、

十八歳
JAZZ
隆男と美津子
愛のような
不満足
眠りの日々
海へ

の7作品。
読み始めると、自分の内部から切り取ったままの言葉を投げつけているような、そして不恰好でごつごつとした印象を感じずにはいられませんでした。まだ余りに未熟で、小説をどのように書いたらいいのかが分からずにひたすら生まれてくる言葉を白いページに彫刻刀で刻みつけようとするような、暴力性を前面に出してバイクで夜の道を疾走するような、痛々しいほどの若さと若さゆえの力。自分のそのような力をまだうまく統御することができずに、ただただ言葉を削り出し、投げつけ、叩きつける。

「十八歳」という小説は、ぼくには残念ながらひどく気取って未熟な小説に思え、露悪的な部分などがとりわけそう思わせたのですが、それで少々残念に感じました。まだこの小説を読んでいる段階では、これが18歳の頃に書かれたものだとは知らずに読んでいたわけですが、危うく途中で放棄しそうになりました。

ところが。「愛のような」で、一気に脱皮したように思われました。言葉に落ち着きが宿り、それでいて最初期の作品にあった暴力性や寂寥やエロティシズムが失われていない。ぼくにとっては残念な点もあるのですが、しかし小説としての完成度は遙かに高まり、読者をして「読ませる」ものになっている気がしました。
この作品では、初めはまるでラテンアメリカ文学のグロテスクさを体現したようなモチーフが展開します。女のものと思われる手首が一人で動くのです。その手首は語り手の部屋にこもり、自由に行動します。最終的には現実的な解釈が与えられるのですが、この奇抜さやストーリーの運びなどは一級の小説としての価値があります。

つづく「不満足」「眠りの日々」もおもしろく感じられました。ただ、「海へ」がまた少し逆戻りしたような印象。21歳の頃に書かれたものらしいですが、リビドーなどの感情が剥き出しにされすぎているように思われ、散文詩のような作品ではありますが、もう少し統制されたものの方が個人的には好みです。才能や感情がとめどなく溢れ出すのをどうすることもできない、といった若々しく荒々しい、好ましい作品ではありますが、しかしなんだかちょっと読むのが恥ずかしくて、やはり痛々しい作品でもあります。

まだ二十歳くらいのときに本書を読んでいたら、ぼくはどう感じたのでしょうか。