数年振りに「43Km徒歩き」を歩いた。
ここ2年、色々な出来事があった。肉親の不幸が続き、自身の身の上にも骨折や突発的な入院、覚悟の転職・・・。希望の大学へ入学し、活き活きと学生生活を送る子供達は着実に人生の時を積み上げている。楽しいと時ばかりではない。じっと耐える辛く悲し時もある。人生には、山もあれば深い谷もある。
長い距離を食べない、飲まないで歩く。飢え、渇き、疲労を体験する 「自己鍛練」。寡黙になり、自己と対峙して、自分を見つめる孤独な時間。何かが変わった、変化した自分を確認したいと思った。
20kmまでは甲州街道を警察車が先導する団体歩行。それ以降は歩道に上がり自由歩行。30kmまでは軽快。35kmで止めたくなる疲労感。それから5km、更に3km。何度も座り込みたいと思った。その頃になると1600人の大集団が長い線になってまばらに散らばっている。遥か前方の数名の集団に近づき、追い越す。更に遠方の人影を捉え、暫しの並走状態の後に追い越す。そんな事を何度か繰り返すうちに、私を追い抜いてゆく人は居なくなった。誰ものペースが落ちていた。信号は無理せずに必ず止まる。後ろから
数名が信号の変わり目に走り抜ける。信号待ちの間、座りたい誘惑に負けないようにうろうろ鈍く動き回る。早く座りたい。信号待ちのまま座り込んでしまった人が居る。道端には少年が座り込んで呆然としている。となりで父親らしき人がじっと見下ろす。一人ボッチの少年が膝を抱えている。おじさんがルールを破り、少年にそっと飴をあげた。「残りは30分位だぞ。ここまで自分の力で来れたのだ。諦めるな。頑張れ!」 私もその場で大地に体を横たえて思いきり足を伸ばしたい。足を騙すように一歩一歩前へ。スキッと背筋を伸ばし、両手を前後にリズミカルに振り、前へ、前へ。先程信号を走り抜けた人たちを直に捉える。後り5km、4km、3km。だんだん1kmが長く感じる。自分との闘い。残り2kmの表示がなかなか見えない。見えた!しかし、更に2km?! もう歩けない・・・。もう少しだ・・・。
43Kmを7時間30分で完歩。順番は281 位。万歩計は43,000歩を示していた。一歩が平均1メートル。その日の朝の受付締切ぎりぎりのエントリーだったので、集団のほぼ最後の出発。以前は7時間を切った時もあったが、数年振りで運動不足の昨今としては意外な好成績。足にマメも出来ず、足にそれほど痛みはない。まだまだ行ける、元気だ! 最初に到着した人は5 時間36分。私と同年齢。2時間も違う。 時速7.8km!? 人の歩行の速さではない。 ゴールで支給されたパンと飲み物を、地べたに座り込んで貪り、飲みつくす。出発から10時間までゴールは開いているらしい。ルート上を大会の車両や大型バスが巡回していて途中リタイヤした人を拾っている。親子、カップル、オジサン、おばさん、若者の集団、続々と帰ってくる。立とうとするが、休息をとった下半身が言う事を聞かない。立ち上がれない。やっとの思いで立上がり、43kmよれよれになった身を繕って、棒のようになった足を引き摺り家路についた。達成感と心地よい疲労。日曜日の夕刻の青梅線登り電車。茜色の西日を受けた車両に乗客は疎ら。歩きで追いつき追い越し、また追い抜かれた見覚えのある姿が疲れきって眠っている。歩き疲れた長い一日が終わる。小さな達成感だけを心に、何もかも忘れて熟睡した。