森の時間 SINCE 2002

Le Temps Du Bois

微笑

2011年11月29日 | 随想・エッセイ

私の空は黒い雲に覆われている。どこに居ても、重い大荷物を背負い、鉛の靴を履いている。明るい事、前向きな事、ワクワクする事が何も考えられない。

「いまは」を彷徨う母が突然、両手を空に上げた。そっと手を握ると、薄っすらと目を開けた。どんな夢を見ていたのだろう。今日の母は、酸素マスクに覆われた顔が苦しそうに歪んでいる。「すぐそばに居るから、大丈夫だよ。ゆっくりお休み。何か言いたいことあるのかい?」 微かに首を横に振る。入れ歯をとった乾いた口を歪めて何か話そうとしている。「ねな」と微かに聞こえた。 「何って言ったの?」 思いっきり口を開き絞り出すような声で、「おまえも、ねな。」 分かった「お前も寝な。」と言っていた。しばらくすると、「ちゃんと、カギ、締めて行ってね。」 私が実家から帰る際のいつもの聞き慣れた挨拶。だからはっきり聞き取れた。母は自宅に横たわっていると思っている。今日の会話はこれだけだった。眉間に皺を寄せ、口を歪めて苦しそうに息をする母の姿を見つめ続けるのは辛い。が、命ある限り見守ってあげたい。今は、他の事は何も考えない。ただ母に集中すればよい。

昨日はもう少し話ができた。目もパッチリ開いていた。研修で英国に行っている息子が、自分はもうお婆さんと話ができないのかと、悲嘆の電話をかけてきた。お婆さんに見せて、元気になって貰ってと、自分の元気な写真を送ってきたので、少し元気そうだった昨日の母に見せた。母は暫く両目を大きく開けてじーっと凝視していた。そして、写真の息子の満面の笑みに誘われるように微笑んだ。数か月振りに見た、以前同様の母の微笑。その笑顔が私を育ててくれた。私も思いっきり微笑んで母を見た。母が私を見た。笑顔は消えていたが、私の笑顔を受け止めてずっと見つめ返していた。気持ちが通じたと思い、すごく嬉しかった。それ以降、微笑顔はなかった。最後の微笑になってしまうのだろうか。もう一度見たい、母の微笑。

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覚悟

2011年11月27日 | 随想・エッセイ

母と過ごせる時が、刻々となくなってゆく。

寡黙で我慢強く頑強だった父。入退院を繰り返し、寂しさを漂わせ始めた父を、母はどのように、どれくらい思っていたのだろう。父が逝ってから5年半。身の回りの事も出来なくなっていた母から、父の話、思い出を聞くことはなかった。父と暮らした家を「主婦」として守り続け、人の世話にはなるまい、子供に迷惑かけてはいけない、その一念で、動けなくなるまで頑張る母の姿に、私は胸が痛かった。それが母の信念、希望だと思ったので、二人だけの時は痛がりながらも動こうとする母を、私は制止はしなかった。
11月始めの或日の夜半、母が病院に運ばれた。

母ともう少し話がしたい。もっと知りたい事があるような気がする。知らないほうが良いのだろうか、知るべきでないのか。

冬至が近い日没時。病院に向かう近道、晩秋の夕闇に直立するさえざえとした雑木林が闇に沈み込もうとしている。西空からとどく、かすかな茜色をとどめて、木々は静かに立っている。母の横たわる病棟と、雑木林のシルエットが足元の闇で繋がろうとしている。色々なことが頭の中を巡る。自分は「覚悟」ができているかと思いながら、辛い現実に向かって闇に溶けた重い足を引きずった。葉を落とした雑木林の冷気が身に凍みる。マフラーを巻きなおし、ジャケットの襟を立てた。

葉っぱを全て脱ぎ捨てて骨格だけになりつつある冬の落葉樹。骨と皮だけの母の手を握り、ゆっくりと話しかける。苦しそうに口で息をして、虚ろな目で空を見ている。「来たよ。」肩を軽く揺すると、時間をかけてこちらに顔を向けた。認識できたのか、軽く首をふる。そして、絞り出すような声で、「あたたかい手、だねえ・・・。」 「いま、なんじ?」。「5時だよ。外はもう暗いよ。」 母が軽く頷き、目をつぶる。 

何も聞かなくてよい、何も語る事はない、ただ手を握り続ける。母の手が暖かくなってきた。それだけで良いのだと思った。

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デッキ

2011年11月25日 | セルフビルド・山の仕事

今年は、私なり一大決心して大きな建造物を二つ作りました。

  その一つが外キッチン付のデッキ。第一小屋の壁を利用した初代の屋根が、一昨年の風雪で破れ傘のようになってしまったので、全て撤去し、昨年はキャンプ用の大型スクリーンテントを活用していた。 Img_8165_2夏の暑さ、風雨をしのぐ程度には問題ないが、不在時の強風には不安があり、恒久的には設置できないので、思い切ってしっかりしたデッキを作ることにした。「森の時間」は、電気引き込みと井戸掘削以外は全て自作で作り上げてきたが、いまだに引きずっている都会での仕事の都合と、プロが作る頑強なデッキが欲しかったので、業者さんにお願いすることにした。

まだ冬景色のままの4月初旬、今シーズン最初の大作業を始めた。

まず、友人から紹介受けた諏訪湖畔の古枕木を買った建築業者を何度か訪れて、プランを固めた。全面に屋根を張ると建築許可を取得せねばならない大きさになってしまうと言うので、屋根は半分にして、片屋根や側壁とか水回り、 塗装等は自分で行う半DIYスタイルで進める事にした。予算的には上限を定めてお願いし、「森の時間」を粋に感じて頂いたこともあってか、業者さんはかなり無理されて下さったようです。私の作業部分も完成した夏のある日、業者さんが突然訪れて、完成したデッキをご覧になり、良いものが出来上がImg01242201104151017ったですね。無理して頑張った甲斐がありますと、喜んでおられました。

左手奥の朴の木を伐採してすっきりしたデッキにすべきと言う意見があった。10年前に胸の高さだった幼樹が5メートル超える見事な樹木に成長している。Img01325201104241616大葉の落葉集めも大変だが、「森の時間」のシンボルツリー的存在なので残すことにした。そのために、柱の位置が少し矩形になってしまい、少し変形だが、計算していなかったスクリーンテントのスクリーンがぴったりと使える出来上がりになった。

Img01939201106041901夏の一日、デッキにテント用ベットを置き、横たわる。程よい日陰とスクリーンを通したそよ風。蝉の声。ゆったり時間が流れる快適な空間。夜には、ほろ酔い気分で横たわる。気が付いたら東の空が薄らと明るくなっていた。

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森の時間 Part-III

2011年11月24日 | お知らせ

「森の時間」を再開します。

[E:soon]「森の時間 Part-III」

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ブログを再開

2011年11月24日 | セルフビルド・山の仕事

変化に富んだ、重い一年。月日は矢の如く過ぎ去り、残すところひと月余りになった。

駆け抜けてきた2011年を振り返るために、ほぼ一年振りの「森の時間」を《Part-III》として再開させることにした。

Img01367201111181528_3

  「森の時間」の最新作業は、ゲート看板の刷新。もう少し装飾を加え、ソーラーライトでライトアップさせるが、取りあえずの完成形をUpload。

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